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悲しき戦争

「まったく、あんな村人のどこかいいんだか……(ブツブツ)」

「あ、あの……」

「ロニン様も、なぜあんなドスケベ野郎にぞっこんなのだ(ブツブツ)」

「あ、あのう。聞こえてますか」

「あんな男よりも、俺のほうが数倍もイケメンではあるまいか。おお、邪神よ、あなたはいったいどちらの味方をするのですか!」

「あ、あの……本当に大丈夫?」

「えっ? ……あっ」


 心の声が口に出ていたらしい。ディストは慌てて自身の口を隠し、目線を泳がせる。


「あははは。だから離れろって言っただろ何度も言わせないでくれ頼むから」


 早口でまくしたてるディストに、ミュウはひきつった笑みを浮かべながら今度こそ退散する。


 ディストはふうと息を吐くと。

 改めて王都の騎士たちに向き直った。


 敵兵はざっと数千を超えている。シュロン国の戦闘員よりも格段に多い。

 その誰もが凄腕揃いのようだ。敵兵ひとりひとりの気迫が尋常ではない。


 二年半前にも、セレスティア率いる人間軍が魔王城を襲ってきた。

 だが、もはや彼らとは比べ物にならない。エルノス国王もそれだけ本気だということだ。


 だがーー

 ディストは長髪を掻きあげながら、もう一度、敵兵を見渡す。


 ーーどんなに敵が来ても同じことだ。

 ディストにとっての師は魔王ロニンである。

 彼女のためならば命を捨てても構わない。ロニンに敵対する者であれば、容赦なく斬り捨てるまでだ。

 決意を胸に称え、ディストは剣を構える。

 すると。


「特記戦力……ディスト。向こうから来てくれたか」


 ゴルム隊長が小さい声で呟いた。人間には聞き取れないであろう声量であったが、ディストの耳はそれを確実に捉えた。


「光栄だな。そんなふうに呼ばれているとは」

「……ほう。聞こえていたか」


 ゴルム隊長は取り乱す素振りも見せなかった。ただ油断なく剣を引き抜き、切っ先をディストに向けながら、野太い声を発する。


「シュンとロニン。その二人を《消して》しまえば、残る障害は貴様のみだ。我が軍の総戦力をもって、貴様の首を討つ!」

「はっ、いい度胸だな。人間が」

「そう、貴様さえ殺せばいいのだ、貴様さえ……!」

「やれるものがやるがいい。ひ弱な人間どもよ」


 ディストも笑みを浮かべ、戦闘の構えを取る。シュロン国の豊かな土地に、一陣の切なげな温風が流れていき。

 ディストはこちらから攻撃を仕掛けようとしたーーのだが。


「ま、待ってくだせえ、ディスト様!」

 ふいに、ディストの服の裾を掴む人間がいた。三十代半ばの、筋肉隆々な男である。

「あ、あの部隊にはきっと、俺の古いダチがいる。頼む……手荒なことはしないでくだせえ」

「なんだと……?」


 ディストは大きく目を見開いた。

 そういえばそうだ。すっかり失念していたが、シュロン国の人間はもともと王都の出身。

 そしてそのうち、戦闘員の多くはセレスティアの軍から引き抜いたものだ。あの部隊に仲間がいても不思議ではない。


 見れば、敵兵の《気迫》はすべてディストにのみ向けられていた。

 ーー貴様さえ殺せばいいのだ、貴様さえ……!

 ほんの一瞬、さきほどのゴルム隊長の言葉が脳裏によぎった。


    ★

 

 ーーシュロン国を滅せよ。

 それがエルノス国王からの命令だった。


 王からの勅命。ゴルムは身を引き締める思いで、それを受けた。それだけにこの任務をなんとしても遂行させねばならないと。


 だが。

 敵兵――つまりシュロン国民の半分は、かつて同胞であった騎士たちだ。いくら王の命令といえど、素直に従えるものではない。できればこの命令自体をなかったことにしたい。


 だが、ゴルムは知っていた。優しいと評されているはずの王が、秘密裏に、意見の合わない者を殺していることを。だからこの任務は必ずやり遂げなければならない。ゴルムだけでなく、部下たちの命のためにも。


 だから非情になろうと思った。

 まだ幼い子どもを殺すことで、人の心を捨てようとした。どうにしかして《自分》を殺さなければ、この無茶苦茶な命令を遂行することはできない。


 ーーだが。

 ありがたいことに、特記戦力のディストが自分から姿を現してくれた。シュンとロニンが消えた以上、シュロン国の実質的なトップはあいつだ。あいつさえ殺せばいいのだ。

 あいつさえ……!


「総戦力でディストを討ちにかかれ! 怯むでないぞ!」

 ゴルムは大声を張り、部下たちに命を下した。

ブクマ減は覚悟していますが、この後のカタルシスは保証しますので、よろしければもうしばらくお付き合いくださいませ。

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