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父の劣化

 宮居の内部は相変わらず品位に満ちていた。

 王城ほどの華やかさはない。

 赤い絨毯や煌びやかなシャンデリアもない。


 だが室内は静かな品格に包まれていた。

 見上げんばかりの本棚に、所狭しと並んでいる書籍。

 分厚い本が何冊も積み上げられたテーブル。

 ひとりで就寝するには似つかわしくない、レースに囲まれた巨大ベッド。

 ひとりの時間を快適に過ごすにあたって、必要な調度品が見事に取りそろえられている。


「きたか」

 エルノス国王はテーブルで本を広げているところだった。つけていた眼鏡をくいっと外し、セレスティアを見据える。

「お父様……」

 セレスティアは数歩だけ前に進み、王の眼光を受け止めた。


 父の鋭い視線。

 昔は苦手であったが、いまは逃げずに受け止めることができる。


 そんな娘を見て、エルノスはふうと重い息を吐いた。

「変わったなセレスティアよ……。余の若き頃にそっくりと言うべきか」

「…………」

「そなたの言いたいことはわかっておる。さきほどの謁見について、不満のひとつやふたつくらい持っているのだろう?」

「……ええ」


 静かに頷くセレスティア。


「お父様。私にはあれが正しい政治とは思えません。シュンく……シュン国王には才気があります。彼なくしてモンスターを束ねることはできません」

「……ほう」

「なぜ不平等条約など取り付ける必要があるのです。手を取り合って、理想の地をつくることだって可能ではありませんか」

「なるほどの……。考え方まで、余の若き頃にそっくりと言う訳じゃな」

「えっ?」


 国王は再び、ふうううと息を吐いた。自身の王冠を外し、指先で弄びながら続ける。


「偉業を成し遂げられると思うとった。余の力で、世界を正しい方向へ導いてゆけると信じておった。だがいつしか……そんなことは二の次になった。権力の分散は争いを生む」

「だからって……!」


 セレスティアは一歩、前に進み出た。


「お父様のやっていることは、単なる独裁政治です! 結局は自分が一番偉くなりたいだけではありませんか!」


 ーー国民のためを思い、国民のために尽くしなさい。それがおまえの使命なのだ。

 そう語る父の姿は本当にたくましかった。だからセレスティアも、そんな父に追いつけるよう必死に努力した。


 真面目に魔術を勉強して。

 世界各地をまわり、かわいそうな子どもたちを助け続けて。

 国民のために尽力してきた。

 なのに。


「お父様。たしかに私も変わったのかもしれませんが……。お父様はそれ以上に変わりました。昔は力強かった目の力が、いまでは見違えるほどに弱くなっています」


 受け入れたくない。認めなくない。

 自分の父が、こうまで醜くなってしまうなんて。

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