表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

107/263

手厚い歓迎

 エルノス・ディ・クローディア。

 それが、人間界における王者の名前だ。


 シュンも人間界に住んでいたとき、王の噂を聞いたことがある。

 温厚にして徳の高い人物。

 権力者でありながら、並々ならぬ優しさを併せ持った類稀なる人物。

 そして、その指導力、胆力、観察眼を用いて、不眠不休で国益のために日々行動している……と。


 まさにべた褒めである。王を批判している者を、そういえばシュンは見たことがない。

 それだけに手強い相手なのだろう。

 シュンは気を引き締め、セレスティアの案内するままに、謁見の間に向かっていた。


 国王として見られていないことに関しては、ムカつきはするが、とりあえず脇に置いておくことにした。セレスティアたちに助けられたことも事実だから。


「ここよ」

 セレスティアはとある通路の前で立ち止まった。

 目を凝らすと、細い通路の先に、豪勢な大広間が見える。あそこに王の玉座があるのだろう。


「シュンくん……」

 あろうことか、セレスティアがシュンの裾を掴んできた。

「気をつけて。いいように遊ばれないで。お父様は大国の王よ」

「わーってるさ。ーーんなことより、手を離せ」

「……うん」


 さすがに妻の前で浮気はできない。実際にも、ロニンが冷たい目で二人を睨んでいた。

 シュンはこほんと咳払いすると、わずかばかり声を張った。

「よし、いくか!」

 その発言を皮切りに、一同は同時に歩き出す。


 距離的にはたいしたことのない通路を進みながら、シュンは物思いに耽っていた。

 ーー三年前までは引きこもりだった自分が、まさか王に呼ばれることになろうとは。以前の自身ならば想像もできなかったことだ。不思議なものである。

 だが、いまではこちらも同じく国王。

 引くわけにはいかない。いくらエルノスが強敵といえど、こちらにも国民の生活がかかっている。


 そうして、とうとう謁見の間に足を踏み入れたとき。

 ーーん?

 シュンは違和感を覚えた。

 この気配。

 まさか。


「……ロニン。感じるか」

「うん」

 シュンの問いかけに、ロニンも深刻な顔で頷いた。


 ただひとり、セレスティアだけが、訳がわからないといったふうに目をぱちくりさせている。

「どうしたのよ。感じるとか感じないとか」

「武装した騎士が潜んでるな。だいたい五十人といったところだ」

「えっ……」

 セレスティアが息を呑む。

「手厚い歓迎じゃねえか。かなり警戒されてるようだ」


 薄ら笑いを浮かべながら、シュンは堂々と、謁見の間に一歩、踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ