王としての決意
さららららら……と。
柔らかな川のせせらぎだけが聞こえる。
ロニンは無言で、シュンの肩に頭を預けた。そんな妻を、シュンもなにも言わずに受け止める。
「俺な」
とシュンは静かに切り出した。
「明日、王都の王に会ってくる。色々とめんどくせえこと言われるかもしれねえ」
「……そっか」
ロニンも静かに答える。
「でも、大丈夫。シュンさんなら……きっと、国民を守ってくれるって、信じてる。私は産後でなにもできないけれど……」
「…………」
俺はなにも言わないまま、ロニンの手を強く握った。
そう。
俺にはロニンがいる。今日生まれたばかりのトルフィンも、そして今日まで従ってくれた国民たちも。
みんな、俺を慕ってくれている。
彼らの頂点たる俺が、途方に暮れていてどうする。俺がやるしかないのだ。
シュンは片腕でロニンを抱き寄せながら、ぽつりと言った。
「俺、おまえと結婚してよかったよ」
「えっ……」
またも顔を真っ赤にするロニン。
「卑怯だよっ。シュンさんはそういうことさらっと言うんだからっ」
「そうか? 素直な気持ちだぜ?」
「うぅ……」
ロニンは悔しそうに唇を尖らせる。
――人間とモンスターの共存。
そんなもの、初めは理想論だと思っていた。
人間とモンスターは敵対しているのが当たり前で、モンスターのトップたる《魔王》は悪の権化なのだと。
だが、それはまったくの誤りだった。
現代魔王のロニンが、外見、内面を問わず、こんなにも美しい女性なのだから。そして他のモンスターも、人間に負けず劣らず、真面目で働き者なのだから。それは国王のシュンがよくわかっている。
たぶん、人間とモンスターは《呪い》にかかっていただけなのだ。意味もなく互いを恨み合いーーそして殺し合う、理由なき呪いに。
なんのことはない。最初からシュンたちに《敵》なんていなかった。勝手に別種族を悪者と認定していただけだ。
建国してから、シュンにはそれがよくわかった。そして、ひたすらに戦争をすることの無意味さも。
そんなことを考えていると、ロニンがもごもごと口ごもりながら言った。
「私も……っしゅ」
「え? なんて?」
「私も……その、あなたと結婚して、幸せ、です!」
妻の顔は相変わらず真っ赤っかだった。
「ほう。そりゃ良かった良かった」
シュンはけらけら笑いながら、ロニンの額に唇を重ねた。
「あ……んっ」
ロニンがびくりと身を震わせる。
ーー負けねえぞ。俺は。
妻を強く強く抱きながら、シュンは決意を新たにするのだった。




