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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
死の歌
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漆黒の剣(1)

「あなたが来たってことは、森の長は上手くやってくれたようね。簡単にいま起こっていることを伝えようと思うのだけれど」


 ノォトの後ろに回ったフィオネが言った。

 その間にも、ノォトは剣を振るい、エリオは槍を回した。骸兵たちを近づけないようにだった。無双の戦士たる彼らには、知恵なき者がいくら集まろうと相手にはならない。


「そんな余裕もないわね」


 フィオネが矢を放った。魔銀の矢であることは見てわかる。

 光の尾を引いて骸兵の中に着弾する。魔力の暴発が意図的に起こされ、骸兵を薙ぎはらう。

 それはかつて、凍り降りの洞窟でフィオネのナイフが爆発したときの現象と同じである。なるほど、集団戦では有効だろう、とノォトは感心した。


「構わない。いまこの場で必要なことだけ頼む」

「この亡者の群れは間違いなく女神ヘルのものよ。ついに悪神ロキが動き出したわ。氷霧ニブルヘイムの牢獄から抜け出して、いま神界アースガルズへと侵攻しているの。ヘルはその先遣隊、物質界ミズガルズを滅ぼそうとするもの」


 人を死なせ、自らの兵士とするか。あるいは、オーディンの手に落ちないようにするためか。

 どのみち人を大量に殺めることは、ヘルにとって利益になるということだった。


「私たちエルフは、この防衛線を保つために来たわ。まずはあの城を清めて、一時的ではあるけれど、彼らが侵入しにくくする」

「なるほど、確かにそれは魔術的防壁となるだろうな」


 それは原理として、リィンが眠っていたあの城の防壁と同じであった。

 ノォトが飛び越えたものであるが、それだけのことがこの亡者たちにできるはずがない。集まって巨大化したところで、ノォトとフィオネが力を合わせれば突破が可能である。

 むしろ、的が大きくなるだけ狙いやすいというもの。


「俺たちは何をすればいい」

「少なくとも、この軍団には将がいるはず。死者を蘇らせることはヘルならばできるでしょうけど、それを使役するとなれば近くに誰かがいなければならないはずよ」


 なるほど、とノォトは目を配らせた。

 この中に頭がひとつ抜きん出たものがいるということは事実だろう。

 知恵を持たない亡者たちがいかにして人を追ってきているのか。どのようにして標的を定めているのか。

 それを考えれば、自然とやるべきことが定まった。


「私はこれから城へと戻って、準備にとりかかるわ。弓の部隊も整えてるから大丈夫だけれど……ノォトと、ええとそこの」

「エリオです。お見知りおきを、エルフの女王よ」

「心得たわ。では人の将エリオ。あなたとノォト、どちらが軍の指揮者かしら? 他のエルフともども入城をしたいのだけれど」

「では私にお任せを。ノォト、前線は任せる。義父殿もおられるはずだ」


 それを聞いて、早く行け、とノォトはグラニから飛び降りる。

 ここまでずっと走りつづけたのだ。グラニを休ませる必要もあったし、いまは一刻も早くフィオネを城へと届けるべきだと判断した。

 グラニは不満そうな顔をすると思ったが、フィオネを背に載せているからか上機嫌だった。

 二人は馬を駆り、一目散に城へと目指していった。


 ノォトは魔剣を振りかぶり、大きく振るった。凄絶な威力を伴った一撃は、骸兵を五人同時に斬ってみせた。

 人の奮戦、エルフの増援によって骸兵はその数を大きく減らしていた。このまま押し切ればいける。その確信があった。

 そうなれば、あとは将を見つけることだけだった。将さえ倒すことができれば彼らは消滅する。それこそが生存への最短距離だった。

 ここにきて、ノォトはわずかな疲労を覚え始めた。ここまでずっとグラニと駆けてきた上に、戦いである。慣れない魔法に黄金の指環による力の使用は、ノォトの感覚を鈍らせていた。


 だが、リィンの指導によって神域に至った剣技はいささかも衰えない。

 そしてノォトも、人との戦い方を捨て去った。その動きは巨大な獣を相手にするものである。

 さらに黄金の指環はノォトに防御能力を与えていた。あらゆる刃は彼に立たず、まさに無敵であった。


 人の身でありながら、神と並ぶほどの力を持った彼は、しかし人として戦った。

 遠のく死の緊張感を隣人に置き換え、気を引き締める。

 魔剣は一層の冴えを持って、死の軍勢をなぎ払っていった。


「どこだ、義父上(ちちうえ)!」


 魔剣を振るって叫ぶ。声に応えはない。近くにいないのか、とノォトはあちこちに目を向けるが、しかしその隙を見せるほど骸の軍団は甘くない。

 気を緩めれば、後ろに骸兵を漏らしてしまう。一体でも多く引きつける必要があった。

 早く義父を探さねばならない。彼も優れた戦士であったが、為政者として力を発揮する方である。簡単にくたばりはしないが、一方で心の中に焦りがあった。

 嫌な予感がする。こういう予感は、よく当たるのだ。


 遠目に、骸兵たちが避けている場所があるのをノォトは見つける。そして剣戟の音が聞こえてきた。


「そこをどけ!」


 ノォトが魔剣から再び、魔力を発した。その空白の場まで、道を作り出す。

 夢中になって走り出した。

 そして、そこにたどり着いて目にしたのは、戦士の一騎打ちだった。


 片方はノォトの義父、アルヴァルトだった。彼は王剣を握って戦っている。技の冴えは、ノォトがかつて目にしたものよりも陰りがあったが、しかしいまだ健在であることを示している。

 そんな彼が、苦戦している相手を見る。

 やはりそれは骸兵であったが、他の者とは格が違った。

 鎧を身につけ、体に肉や皮膚もついて、まるで生きた人と大差がなかった。

 目にも理性が宿っているように見える。

 だが、その上で戦う姿はまるで狂っているかのようでもある。まるで死を恐れていない戦いぶりだ。

 手にしている剣も業物、いいや、魔剣であった。


 戦いは熾烈であった。間に何者も入らせまいとする気概があった。

 ノォトがその場に追いついたときに、勝負は決した。

 目を見開く。義父の背中から、漆黒の剣が生えていた。

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