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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
死の歌
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烈しき日の王(2)

 果たして、先手を打ったのは人類軍であった。

 槍と盾を手に、そして弓矢や投石機によって組織的な攻撃を繰り返す。エリオの指揮によって組み立てられた作戦は、接触前に多くの敵を減らすこと。

 疲れ知らずの彼らであるが、その足は遅い。であれば、直接ぶつかる前に仕留めればいいだけのこと。

 時に槍を投げ、時に斧を投げて、討ち取っていく。


 ……しかし、圧倒的な物量の前に、それがいつまでできるかはわからないでいた。


 将のいない軍を相手にしたところで、人類軍の士気は下がる一方だった。

 勝鬨もあがらず、勝ち目も見えない戦いというのは、このように絶望的なのだろうか。

 各々できる限りを尽くしているが、矢を放てど放てど、足の止まる様子のない軍勢を見ていては、手も鈍るというもの。

 やがて武器は尽きる。武具を蓄えているとしても、一人の兵士が持てる量などたかが知れている。

 交代で補充をさせていたが、それも間に合わなくなってきた。


「弓兵隊を下げさせろ! 盾槍隊、前へ!」


 エリオの指示が飛んだ。

 目の前に迫る屍兵たちを見据える。場合によっては、前線の者たちを切り捨てる覚悟も決めなければならない。戦線を引き直し、一つ後ろで迎撃をし……その繰り返しだ。

 最終的には、城壁から弓矢と投石、それのみならず、ありとあらゆる物資を使って奴らを砕かなければならない。

 そうなる前に、敵を殲滅する必要があった。


 その中で、エリオの役割と言えば、軍の指揮の他にもうひとつある。

 敵中に存在する、特に優れた個体を倒すこと。

 将を持たない彼らではあったが、中には並大抵の兵士では敵わない者もいる。

 そういうものを相手にするために、エリオは目を配らせていた。


「数が多すぎる」


 見る限りの屍たちに、すでに恐怖感を抱いていた。

 この中のいくつかのみを狙えばいいだと。それで果たして、勝てるのだろうか。

 そうした個体を倒しているうちに、自分たちは敗北をしているのではないか。

 鎧の隙間から入り込んでいる刃に、気づけば倒れてしまっているのではないか。

 嫌な予感だけが、溢れてきていた。

 空が白んできた。もうすぐ日が昇るのだと思った。

 どうにか夜明けまで時間を稼いだものの、どこに勝機を見出せばいいのと言うのだろう。

 絶望的な感情のままに、エリオは前線へ突撃の指令を出そうとした。


「いえ、いえ、エリオ様、お待ちください!」


 将兵の一人が声をあげた。アルヴァルト麾下の者であった。


「なにごとか!」

「東方より光が立ち上っております! これは、日ではありません!」


 はっとして、エリオは東へと目をやった。

 日だと思った。直感的に、太陽ソーレが昇っているのだと。

 だが、アルヴァルトとも話していたではないか。日が昇るより前に敵軍とは接触すると。

 自分も計算しつくしたはずだ。どれほど戦い、どれほどの間で会敵するのかを。


 では、あれはなんだ。

 日ではないというのだとしたら、果たしてなんだと言うのだ。


「斥候より伝達! 数は一、東方より来たるその数は一のみです!」

「詳細を申せ!」

「騎馬に乗った戦士であるとのこと。自らを援軍だと名乗りました」


 ただ一人で、援軍と。

 よもやこの戦況をひっくり返せるとでも思っているのだろうか。

 だとすればそれは、よほどの愚か者か、あるいは……。

 そこまで思い至って、エリオは顔をあげた。

 明るい顔だ。これから戦場を臨むのにも関わらず、笑顔だった。


「まさか、その者の名は!」


 エリオ問いただそうとした瞬間だった。

 途端、光が大地を走った。

 空から強大な炎が降ってきたかのようであった。黄金に輝く炎は一条の光となって、屍たちを焼いた。

 音すら消えたように思えた。眩しいはずなのに、温もりすら感じられた。


 やがて、光が晴れる。

 屍兵たちの前線は崩壊していた。相当な戦力がいまので削れている。

 唖然として、もう一度、東に立つ者を見た。

 ようやく、本物の太陽が昇ってきていた。日を背にしたその者は、騎馬に乗って大剣を掲げている。

 ああ、と思わず唸った。

 あの者こそが、烈日の王なるぞ、と。




    *      *      *




「聞け、集いし戦士たちよ!」


 声を高らかに、その男は言った。

 輝く大剣を片手で掲げ、もう片方の手で愛馬である灰の馬の手綱を握っていた。

 熱い太陽を背にして、眼下に広がる二つの軍勢たちを見下ろした。

 人類の兵士だけでない、亡者たちでさえ、彼を見ていた。


「よくぞ、よくぞ生き残ってくれた。ここまで生きていてくれた!」


 それは労いのようであり、感謝のようであり、激励であった。

 魔剣を掲げし戦士は、これから戦おうとする者たちへの、鼓舞であった。


「我が名はノォト、かつて父が手にした剣の名、ノートゥング。

  覇によらず、ただ我が法によって荊城の王を名乗る者なり!

 まだ誰の手にも、この先に待ち受けるものを、握られてはいない。

 ならば戦え、そして手に入れよ!

 野蛮だと笑うことなかれ、手に入れたければ己の意思を持ってそうするのだ!

 ゆえに、俺は求めよう。

 ただ笑って迎えられる、明日を。

 隣人を家族とせよ、本来の敵を友とせよ。

 いまこそ剣を振るえ、大義のために!」


 さあ、朝日に恥じぬ戦いを!

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