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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
死の歌
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烈しき日の王(1)

 戦乱の火蓋は、私たちの思いもしないときに切られました。

 いいえ、そもそも運命とはそういうものなのです。

 知らず識らずのうちに、忍び寄ってくるもの。ときに影となって、ときに光となって、けれども音をたてずに。

 人はそれを恐怖と呼ぶし、あるいは名誉とも言います。

 忘れてはなりません。人の身はいつだって平等で、大願を秘めようが、小さな野望を露呈しようが、それでも等しいのです。


 命はどれだけあっても、等しいのです。


 その価値を裁定するとすれば、それは神々において他ならないでしょう。

 だから、彼は許さなかったのです。

 命を値踏みする者を。空と剣の前では等しいものであるはずのものを、上から見下ろす彼らを。


 これは、死の歌。激しくも静かな旋律は、永遠と響いてます。




    *    *    *




「アルヴァルト王、やはり衝突は免れませんか」


 そう言ったのは槍の騎士だった。

 誰であろう、エリオだ。ノォトのいなくなったいま、天下で一番の将兵と名高い彼は、他国の、しかも本来であれば敵国の王であるアルヴァルトとともにいた。

 声をかけられたアルヴァルトは、ふん、と鼻を鳴らす。


「我らがどうしようと、向こうに避ける気がないんだ」


 どうしようもないだろう、と苦々しく口にする。

 二人は城壁の上に立ち、はるか先に迫る怪しい軍勢を見つめていた。

 日も出ていない、松明だけが自分たちを照らしているが、はるか先に見える彼らの「目」ははっきりと見えていた。

 暗いはずの平原に浮かぶのは、炎であった。だが熱を感じさせない、紫の炎である。

 不揃いな足並みであるものの向かう方だけは自然と同じであった。それは誰かにそうさせられているのだと、結論はでている。

 屍の群れだ、と命かながらに逃げ延びてきた者たちは言っていた。

 骸骨であったり、あるいは腐った肉や皮膚がまだ残っていたり、血の気だけが抜けていたりと様々であったが、どれもこれもが死人の有様であると。


「これがあいつの言っていた……」

「ええ、間違いなく〈来たるべき終わり〉かと」


 これは、王と一部の将校にしか知られていないこと。

 ひとつの予言があった。いずれこの世界の終わりがくるという予言だ。

 ノォトの口から、エリオへ。エリオの口から、各王へと伝わった。エリオはノォトについては沈黙を決めていたために、いかにしてそれを知ったかは明かさなかったが、誠実な行いを積み重ねた彼の言葉を信じる者たちは、そのための準備をしてきた。

 備えるのにわずかに遅れたアルヴァルトであったが、もともとの国力から彼らへの対抗手段をすぐに固めた。

 しかし、屍の軍勢は圧倒的であった。足は遅くとも、疲れることを知らぬ彼らは夜通し侵攻してくるのである。どれだけ戦おうと疲弊せず、撤退もせず、物量で圧してくる彼らを止める術をどの国も持ち得ていなかったのだ。

 一団を殲滅したとして、次の波が迫ってくる。底なしの軍勢を打倒できるほど、人々は力はなかった。

 各国は戦線を下げていき、やがては自国を放棄しなければならなくなる。そして生き残った王や、一団を率いる将や長が書によるやり取りをした結果として、アルヴァルト王の下へと集まることが決まった。


 すなわち、この王都こそが人々の最後の地であり、最終防衛線なのである。


「こうして目にするのは初めてだ」


 アルヴァルトはちらり、とエリオへと目を配らせた。

 国の規模、そして王としての采配はともにアルヴァルトに一日の長がある。

 しかし、戦場においてエリオに敵う者はいない。

 ゆえに軍の指揮などは、エリオを含む将兵に任せているのであった。

 一人の戦士のできることなどたかが知れている。けれどもエリオという救心力の存在は、軍の士気を大きくあげていた。

 さらに言えば、彼は散発的に現れるあの屍たちと戦ってきた戦士でもあった。

 現に、王都まで軍と民衆を率いてきた実績がある。

 異国の将ではあったが、アルヴァルトのみならず、信頼は厚いものだ。

 残された人類の、という絶望的な言葉はついてしまうが。


「任せていただきたい。……とは言うが、あれはまずいですね」


 うむ、とアルヴァルトは頷く。

 もちろん、将として戦場に立っていたアルヴァルトも、戦況を分析していた。

 いままでの散発的攻撃であれば、防げたであろう。

 だが、いままみえている軍勢はまずい。規模が違いすぎる。


「あの軍勢がここに到達するのは夜明け前だろう。我らが兵たちも、夜通しの備えで疲労の色が濃い。そちらも移動してきてそう時間も経っていない」

「覚悟を決めねば、ですか」


 エリオの顔は晴れない。

 将や王を討てば勝てるというような戦いではない。彼らは頭を持たない。とりわけ優れている個体はいるが、考える者もまとめる者もいない。

 逆に言えば、どれだけやられようと、不利になろうと、前進し続ける。

 それは軍同士の衝突や、賊との戦いにおいて定石である、戦力をいかに削るかという戦術を、無視されてしまうということだ。

 例えば、正面からぶつかって相手の数を減らし続ける。

 例えば、暗殺者を忍ばせて将から潰していく。

 例えば、後背から奇襲を仕掛けて退路を断ち混乱させる。

 そういったものが、通用しないということ。

 つまるところ、最後の一体を倒すまで、人類に勝利はないのだ。


「それでも、戦わねばならない」


 エリオは言った。アルヴァルトは、彼の瞳を見る。

 彼は自らの主を、つまり自分の義父を亡くしている。屍との戦いで、殿しんがりを務めて栄えある死を遂げたというのだ。

 けれども、エリオは諦めていない。まっすぐな目は、あのとき去っていった義理の息子をアルヴァルトに思い出させていた。

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