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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
愛の歌
93/102

前兆(1)

 ノォトとリィンが暮らす城がある山、その麓には小さな村があった。

 村には多く世話になっている。種もみをもらい、農作物の育て方や、料理について教えてもらった。

 その見返りに、ノォトとリィンは畑を荒らす獣を狩ったりなどしている。

 村の者たちは二人のことを、山の上に暮らす夫婦である程度のことしか思っていない。その真の姿が、天下無双の戦士と戦乙女であるなど、考えもしていないだろう。

 騙しているようで気が引けるが、体良く隠れ蓑にさせてもらおうとノォトは徹していた。

 と言っても、嘘ではない。いまの二人はただの夫婦であることに変わりはない。


「いつも仲良くて、羨ましいよ」


 そう声をかけてくる者もいる。男は、あんな綺麗な妻なら、と。女は、あんな立派な夫なら、と。

 決して円満の秘訣はそこではないのだが、相方を褒められて嫌な気はしないから、訂正などという野暮なことはしなかった。

 微笑んで、はぐらかして、そちらこそいい妻だ、夫だと言う。

 とりわけノォトはリィンに強く出れないし、リィンとてノォトに強くは出れない。対立する暇など二人にはない。


 ある日のことである。ノォトとリィンがグラニに乗って村へ赴くと、村長が出迎えた。

 先代が早くに亡くなり、若くして村長に就任した彼であったが、いつも落ち着いている。この村でも、聡明なのは彼であった。おっとりとしているが、それは他者をきちんと見極めることができるからだろう、と村人の一人は言う。

 そんな村長が、珍しく焦った様子を見せていた。


「娘がいなくなった?」


 村長は、ああ、とつぶやいた。ノォトとリィンは顔を見合わせる。

 彼の娘ではない。村のある者の娘であるが、歳の近い者が他にいないから、村のみんなで可愛がっている子であった。

 名はシーナという。その子とリィンがよく遊んでいたのを見ていて、微笑ましく思っていたものだった。


「ここらは森が深くて、迂闊には入れなくてな。無論、自分たちでも探すけれども、二人にも手伝ってほしいんだ。よそからきた、あなたたちに頼むのは忍びないが」

「気にすることはありません。シーナは私たちの娘も同然ですから」


 リィンが言った。

 ね? とノォトに同意を求めてくる。ノォトもまた頷いた。


「あの子には兄や姉、弟や妹がいても、友達というものを持てなくてな。ときどき寂しそうにしているのを知ってはいたけれども、まさか一人でどこかに行ってしまうとは思いもしなかった」

「気に病むのは後にしよう。いまはまず、できることを尽くす。煙でもあげれば、もしかすると森から見えるかもしれない」


 それは行軍の際に、お互いの位置を知らせたり、斥候が伝達をする際に使う手段であった。ここらでは軍が行動することはまずないから、誤解はされまいとノォトは考えた。

 頷いて動き出した村長を傍目に、二人は再びグラニに跨った。

 ノォトは念のため魔剣を背負ってきていたが、リィンは丸腰である。そもそも、二人は並大抵の相手では素手でさえ戦いにならないだろうと思っていたが、ある不安があった。


「空の様子がおかしい」


 始めにそう言ったのはリィンであった。

 言っていることをノォトは理解できなかったが、彼女の言うことなら無条件で信じようと決めている。

 いつも戦場を見て回るために空を飛んでいた彼女が言うことだから、というのもあった。

 おかしい、というのはどういうことだとノォトは問う。


「わかりません……でも、何だか張り詰めている。まるで、地上での戦のように、激しい緊張と予感があります」


 もしかすると、とリィンは言った。

 そのもしかが訪れるときが近い、覚悟をしなければならないとノォトは思った。

 あまりにも早すぎる訪れに、けれども残酷な運命とはそういうものであると知っている。


 もしこの予感が、当たっているのだとしたら。

 シーナが死ぬことは限りなく現実に近いということである。いま、力のない者を一人するのはよくない。


「森へ行こう。深いところへ。グラニと俺たちであれば、踏破することも容易い」


 ノォトが言った。リィンも後ろに乗って、ノォトを急かした。

 空には暗雲が立ち込めている。その雲は雨雲ではない。雨の気配が、一切しない。にも関わらず、黒いその雲が空低くあるのを、二人は睨みつけた。

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