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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
愛の歌
88/102

飾り(3)

 数日が経ったある日のことであった。

 唐突にエリオとテルエスは、旅立つと言った。

 自分たちの元に訪れたのは偶然であり、彼らはまだ旅の途中である。

 当然に訪れた別れとはいえ、寂しく感じるのは止められなかった。


 真っ先に泣いたのはテルエスであった。

 自分から別れを告げて、けれども堪えきれなかったようだ。

 リィンの胸に顔をうずめて、泣いている。リィンはそんなテルエスの頭を撫で、自分も涙ぐんでいた。


「世話になった。とてもいい思い出になったよ」


 エリオが言った。

 でなければ、テルエスは泣いたりはしないだろう。ノォトはそう思ったが、何も言わなかった。

 ノォトにとっても、楽しい時間であった。

 誰かとこうして過ごして楽しいと思える日々が、自分に訪れるとは思いもしなかった。

 フィオネとの日々は心が休まることはなかったし、ブロムにしても彼を警戒し続けていた。

 人並みの幸福と言うべきそれを、すべてを捨て去った自分が得ることになるとは。

 そのことに、深い感謝を覚えた。

 エリオとテルエス。生涯の友であるだろうし、いずれまた出会うであろう者たち。


「何かあれば、アルヴァルトを頼るといい」

「……ふむ、彼か。君の義父だったな。正直、苦手な人物だ。戦士だが武よりも政の方が合うような」

「それは間違いではない」


 ノォトとエリオは笑った。

 こうして笑い合うことも、このあとはしばらくないだろうと思うと、ノォトとて寂しい。


「その何か、があったら、まずは彼へ伺いをたてることにしよう。尤も、決めるのは我が王であるが」

「そうしてくれ。そのときはきっと……」


 そこまで言って、言い淀んだ。

 いずれ来る終焉の刻について、語るかどうか迷ったのだった。

 するとエリオが笑う。


「何を恐れることがある?」


 そう問われて、ノォトは決意した。


「やがて、この世界に終焉が訪れる。そのときだ。我らは力を合わせなければならない」

「それが貴方たちが……背負っているものというのか?」


 頷いてみせる。エリオは少しだけ、思案顏を浮かべた。

 テルエスが彼の腕を引っ張った。わかってる、と微笑むと言った。


「信じよう。他ならぬ貴方の言うことだ、ノォト。巨人殺しにして竜殺し。そして、これは何より優先することだが、私の友の言うことだ」


 エリオは言った。

 右手が差し出される。ノォトはその手を握った。

 二人の手にテルエスの手がさらに重ねられ、巻き込まれるようにしてリィンの手も重なった。

 そうして四人は笑う。別れがあるということは出会いがあるということ。いまは、その出会いに感謝を。そして再会した、そのときの思いを馳せて。




   *   *   *




 二人を見送って、城はすっかり静かになってしまった。

 ノォトは口数が多い方ではないし、リィンも自分から口を開くような性格ではなかった。

 エリオやテルエスは知り合った中ではよく話す方ではあったが、それでも静寂というものがこれほど耐え難いものであるとは思いもしなかった。

 落ち着かず、畑仕事をしてからノォトは居間へと戻った。掃除を終えたリィンがいるはずだ、と思い扉を開ける。


「……あ」


 ちいさな吐息が、音となっていた。

 少しだけ口を開けたリィンがそこにいた。

 いや、呆然としたのは、ノォトも同じであった。

 その理由は、彼女の姿にあった。


「そ、その、テルエスが似合うって言うから……」

「だったら二人がいるときでもよかったろう」


 見慣れない鮮やかな青の衣服は、華美ではあったが彼女の髪をよく映えさせた。

 動くには適さないものの、宴の場であれば花としてさぞかし持て囃されたであろう。

 だが、ここには自分たち二人しかいない。

 どうして着飾る必要がある? とおもわずにいられないのは、男のさがだろうか。


「だって!」


 リィンが顔を赤くして、ぎゅっと服を握りしめていた。その指には黄金の指環が、輝いている。


「貴方だけに、ううん、貴方に一番、見て欲しかったから」


 それを聞いたときには、ノォトは自分の中の何かが切れたのを感じた。

 リィンのそばにまで寄る。彼女は怯えていた。不安と期待があって、そのどちらが当たるのだろうかと思っているに違いなかった。

 何かを言おうとして、ふとエリオの顔が思い浮かんだ。


「……綺麗だ、リィン」

「ノォトさま!」


 リィンはノォトの首へと飛びつく。

 腕を回して、力を込めて抱きしめた。ノォトも同じように、彼女の腰に手を回した。


「私、楽しかったの。テルエスとエリオさまがいて、楽しかった。貴方の他に欲しいものなんてないはずなのに。もしかしたら、おかしくなったのかもしれません」

「俺もだ、リィン。これほど安らげた日々はなかった。俺たちは、良い友人を持った」


 間違いなく、最高の思い出だった。

 終わりへと向かっていくのに、これほどの幸福があっていいのだろうかと思ってしまうほどに。


「テルエスが言っていました、変わり続けたいのですって。一緒に変われることが、愛なのだと。私にそれができるか、とても心配になってしまいます……」


 大丈夫だ、というのは簡単だった。

 けれどもその不安はきっと、ぬぐえないものなのだろうともわかる。

 だから、抱きしめる力を強くすることで答える。

 安心したように、リィンがその顔をノォトの胸に預けた。二人が発ったときとは、逆の構図である。

 死ぬことも、世界に終わることも、不安で仕方ない。いずれ来るとわかっていたとしてもだ。

 けれどもそれは、ノォトにとっては些細なことであるかもしれない。

 リィンとともにありつづけること。

 それこそが、自分がこの世にいる意味なような気さえしてしまう。

 せめて、このときぐらい。永遠を信じたくなった。

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