表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
愛の歌
87/102

飾り(2)

 エリオとノォトが武具の手入れをしていると、足音が聞こえた。

 聞きなれないそれはテルエスのものであるだろうと、すぐにわかる。


「エリオ、ただいま! ノォト様も、夫の相手をありがとうございます」


 テルエスが満面の笑みで帰ってくる。黒髪には花びらがいくつかついていた。

 昨日の雨がうって変わって、快晴であった。草木も喜んで花を咲かせているだろう。

 一国の王女であるテルエスが花びらを纏う姿は可憐であった。

 エリオが惚れるというのもうなずける。

 そのエリオが、テルエスを真っ先に迎え入れた。


「おかえり。洗濯は終えたのか」

「ええ。きちんと干してきたのよ。ノォト様、リィンは家事がとっても上手なのね。私、全然したことがないから、とても勉強になるわ。帰ったら少し手伝っちゃおうかしら。好きな人の服を洗えたら幸せかも!」

「……そう言ってもらえるなら、彼女も喜んでいるだろうな」


 リィンはものを教えるのが好きな質であるし、褒められるのもとても喜ぶ。テルエスは箱入り娘であろうから、彼女にとってさぞかし教えがいのある相手だっただろうな、と思った。

 なにがおかしいのか、ふふっ、とテルエスは急に笑う。


「ノォト様は、リィンのことになるとそんな風に微笑むのね。昨日の笑みは少し、恐かったわ。そっちの方がずっといい」


 テルエス、とエリオが名を呼んで諌めた。舌を出して、ごめんなさいとテルエスは謝る。

 ノォトは顔が赤くなるのを感じた。そして自分の手で頬を触って確かめた。

 自分の顔であるのに、そうではないような感触であった。

 そのことがさらに、二人の笑いを誘った。

 恥ずかしいながらも、咳き込んでノォトは言う。


「ところで、リィンはどうした?」

「あれ。まだ来ないのかしら。リィン!」


 テルエスが呼びかける。視線の先には、木陰からこちらを覗く影があった。

 長い髪が隠しきれていない、あの姿はまさしくリィンだ。

 こちらを何度も見ては目線を外している彼女は、やがて意を決したのか、木陰から駆け寄ってくる。

 その頭には、見慣れないものが載っていた。

 いつか見た髪飾りではなく、冠である。それも白い花によって編まれ作られた花冠だ。


「それは?」

「テルエス様からいただきました。編み方も習いまして……私、花をこのようにする遊びは初めてでした。人はこのような営みを持っているのですね」


 その言い回しに、エリオたちは首をかしげる。

 ノォトは気が気ではなかったが、照れているものの満足げなリィンを見ていると、どうでもよくなってくる。

 自分ではこのような発想はなかった。花とはそこらで咲いているものであり、戦いにもなれば踏み散らかしてしまうものだとばかり考えていた。

 ふとすると、少し不安げな顔でリィンがノォトの顔を見上げる。微笑みも少し崩れていた。

 わからないでいると、エリオとテルエスが何か言っていた。思ったままに言え、と言っているように見える。

 ノォトは首をかしげたまま、その通りに口を開いた。


「ああ、綺麗だな。花を飾る、とは思いもしなかった。女というものは、衣服と化粧ばかりだと思っていたが、リィンには花がふさわしい」


 果たして、それは褒め言葉であっただろうか。あまりにも素直に言い過ぎやしてまいか。

 ノォトの思いとは裏腹に、リィンは顔を真っ赤にさせた。

 まあ、だとか、ああ、だとか言いながら、顔に両手を当てて。

 その様子があまりに愛おしく、ノォトまで照れてしまう始末だ。


「あ、あの、城の中も……せめて居間に花を飾ろうと思うのだけれど、いい?」

「俺は構わないが」


 承諾すると、リィンは走って再び外へ出て行ってしまった。

 戦乙女である彼女の健脚は、並み居る戦士たちでも追いつくことはできない。鎧を着ていても、あれほど早く走って見せる。

 驚いた表情を浮かべつつも、テルエスは彼女の後を追いかけた。

 ぼうっと眺めていたノォトは、エリオに肩を叩かれて気づく。


「さすがは王子と言ったところか」

「どういうことだ」

「人をその気にさせるのが上手いってことだ。あるいは、女にだけか。どれだけの女を泣かしてきたのか」

「そんなつもりはない」


 そもそも、ノォトが関わった女性など、たかが知れている。

 エリオの方が女性を泣かせていそうでもある。


「大方、テルエスの意向だろうな。あの子は花が好きな子だ。これを機に城を飾ってみてはどうだ?」

「……客人など、考えてもいなかったからな」

「なにを言うか。日々の彩りは、生の彩りだ。その色は人それぞれだがな。まずは着飾ることから始めても損はない」


 ノォトは頷く。その意味はわからなかったが、限りある生の中にそんな余暇があっても、構わないだろうと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ