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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
竜の歌
79/102

そして戦士は(2)

12/23の20時に前話である第77話を投稿しています。

 ノォトは魔剣を構えた。

 目の前の者がオーディンだとすれば、あの槍は危険極まるものだ。

 名は〈選定の槍(グングニル)〉、この世で最も恐ろしい力を持った一つ。ありとあらゆる魔法を超える力を持つ魔の槍である。


 曰く、投げればひとりでに戻ってくる。

 曰く、穂先に触れた者は死に天にある神々の館(ヴァルハラ)へと導かれる。

 曰く、刻まれた刻印ルーン灼熱ムスペルのもの。


 ノォトの頬に汗が流れた。それは本来、戦うべき相手ではない。

 いいや、戦ってはならないのである。穂先を向けられれば負けるなど、反則もいいところだ。

 だが……目の前にいるのは、戦士だ。

 お互いに戦士であれば戦える。勝つこともあれば、負けることだってある。

 無敵の神王がなにするものぞ。ノォトは気迫を発する。


「いい気迫だ」


 帽子の男は、槍を深く構えた。あれは投げる前の動作だ。

 ノォトは魔剣を大きく振り上げた。

 本来、それは攻めるための構え。剣をより早く、より強く振るうためのもの。振り下ろすという基本にして最大の術を発揮するもの。

 しかし、あろうことかノォトはその構えを()()ために使っていた。

 ありえない。構えの使い方を間違えているのはおろか、選定の槍(グングニル)に対して待つなど自殺するの等しい行為だ。

 あの槍の対処といえば、投げられる前に倒すこと。それ以外にありえないはずだ。


(だが、それでは到底間に合わないだろう)


 ノォトはそう判断した。

 自分が斬るよりも早く——本当に悔しいことに——帽子の男は魔槍の投げる。いかにしても先制をとるのはあちらだ。先を取るのは不可能である。

 であれば、後の先を取るか。槍を投げる、その瞬間を狙って踏み込んで斬るか。

 無理だ。先も言ったように、あの槍が投げられてしまえばそれで終わりだ。死が待っているのが、鮮明にわかる。

 であるから。


 ノォトは迎え撃つことにした。


 常人の発想ではない。

 死そのものである魔の神槍を、正面から受けようなどと。

 だが、そもそもノォトは常人ではない。

 大神オーディンの血を引きし王子であり、魔剣を自らの手で再生させた鍛冶師であり、邪竜とて討ち取ってみせた戦士なのである。

 死を迎え撃つ程度の無茶無謀は押し通してみせる。それだけの気概があった。

 ノォトを見て、帽子の男は、帽子の影から目を覗かせた。その瞳は、とても澄んでいる。

 自分の思考が読まれていると感じる。

 それでも、とノォトは奮起した。運命にだって負けないと誓った身なのだから。


「……行くぞ、我が必殺の一撃を受けるがいい」


 帽子の男はそう言って、腕を振るった。それとともに、ノォトも魔剣を振るった。

 直後、凄まじい音とともに、魔剣〈憤怒の剣(グラム)〉と魔槍〈選定の槍(グングニル)〉がぶつかった。

 激しい火花と荒れ狂う魔力に、ノォトは圧される。魔剣が折れないのが奇跡だと思えるような力だった。

 目の前に迫る死に抗う。剣を押し続ける。

 それでも、とノォトは魔剣に力を込める。魔剣から光を発する。

 溢れ出た光は黄金の色に変わる。竜の力が宿ったのだ。

 ノォトが一歩、踏み出す。魔剣が煌めいた。

 そして、静寂が訪れる。

 ついに魔槍を折ったのだ。二つに折れた槍が音を立てて転がる。

 一番驚いたのはノォトだった。いまなにが起こったのか、理解が追いつかなかった。


「見事だった」


 帽子の男が言った。荘厳な雰囲気に対して、軽い笑みであった。


「我が槍の力は、相手の運命を確定させること。どのような運命があったとて、それを捻じ曲げ、終わりを与える。真に恐るべき力だろうが、お前の剣はそれを乗り越えてみせた。運命を、超えたのだ」


 惜しみない賛辞を送ろう。帽子の男は言った。

 ノォトは自分の手を見た。あまりに強い力だった。いまだ、痺れが残っている。

 だが、あの〈選定の槍(グングニル)〉を打ち破った事実がここにあった。


「では、行くがいい。運命を越えし者よ。試練を超えた者よ。人を超えた者よ。お前が掴みたいものを掴むがいい」


 帽子の男はそう言った。ノォトは頷いて、グラニとともに駆け出す。

 隣を横切ったとき、帽子の男の口が動いた。


「幸せになれ、我が子よ」


 この先に待っている者に向けてだろうか。

 ノォトは森に続く道の先を見た。ずっと先には、茨の城がある。

 そこに眠る者と会うために、ノォトはグラニを急かした。

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