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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
竜の歌
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そして戦士は(1)

 ノォトは王城を出立して、しばらくが経った。

 休憩しながらの、気ままな旅だった。なにに追われることもなく、背負うこともなく。

 ただ、この先に待っているものがある。

 思えば二度も旅をしていたが、ひとりで旅をするのはこれが初めてだった。

 最初の旅はフィオネと出会い、二度目の旅は養父ブロムと共にいた。

 新鮮さと寂しさがあったが、それもきっと、もうすぐ終わるだろう。

 見渡す先には森があった。さすがに森の外からは見えないが、この森のどこかに茨の城があるはずだ。

 こんなところに城があるなど聞いたことがない。少なくとも、森の中に作る利点はない。

 遠い昔に、誰かが作って朽ち果て森となってしまったか。そ想像もつかなかった。

 けれどもその城には、彼女がいる。そう思えば、この脚も逸るというもの。

 実際に歩くのはグラニであるが。


「ようやくか、もう、なのか。わからないな」


 森の入り口に差し掛かると、奥から誰かがやってきた。

 それはいつぞやの、帽子の男だった。手に持っている槍は妖しく光っている。

 ノォトは、グラニから降りてその男を出迎えた。

 彼の正体を、ノォトは掴んできている。

 片方の目を隠しており、刻印ルーンの描かれた槍を手に持った老人。

 世界広しと言えど、そんな人物はこの者しかいないだろう。


「お前はオーディンなのか」

「さて……どうだったかな。前も言ったろう。私の言葉が、私が何者かで変わることはない。であれば、お前は私が何者であるかなど問題にしてはならんのだ」


 などと帽子の男は言った。

 ノォトは、そういうことにしておこうと思った。目の前の男が何者でも構わないが、オーディンとなれば複雑な思いがする。

 それはこの世界で最も偉大な神の名であり、神々の王である。そしてすべての戦いと戦士を司る神でもあった。

 だが、それは父を真に殺した者の名でもある。そこに何か思いを抱かないと言えば、嘘になるだろう。

 考えない方がこの男と話すにはいい。


「それで、今度は何の用だ」

「よくぞ竜を討ち取った。そのことへ、賛辞を送ろうと思ってな」

「だったら邪竜を討った直後にでも来ればいいものを。なぜいまさら」

「ここでなければ、いかんのだ。お前は黄金を手放した。真の輝きを手に入れたお前は、黄金に取り憑かれなかった。でなければ、竜に勝ったなどと言えない。竜を討ったとて、竜と同じ者になることだってある」


 ノォトはぶるり、と震えた。

 そう、自分がアルヴァルトやブロムに突きつけたのと同じように。自分もまた突きつけられた者だった。

 目の前にあった黄金の山。内から発せられる輝きを失おうとも、贅沢をし尽くしてもなくならない。

 それに目を眩ませるのは人ならあり得ることだろう。

 だが、ノォトは元から黄金に興味がなかった。「財産は王になるために必要だ」とブロムが言っていた。それはノォトの興味を黄金から離すための言葉だっただろうが、それが功を奏した。

 そしてノォトは、真に邪竜に勝利したのだ。


「その黄金の指環は、証だ。お前が竜を倒した証であり、お前が竜の力を手に入れた証だ。尤も、その指環が力そのものというわけではないが」


 輝きは、内から発するものだ。何かを持っているからではない。帽子の男はそう言った。

 なるほど、とノォトは頷いた。


「これからお前を待ち受けるのは、人の運命ではない。だが、お前は竜を倒した者だ。運命を超え得る力を手に入れたと言っても過言ではない」

「それが、竜の力?」

「その一端に過ぎない。いいや、本来は運命を乗り越える力などではない。その力の副産物とでも言うべきものだ」


 帽子の男は言った。ノォトは自分が持つ知識を動員して考えたものの、その意味はさっぱり理解できなかった。

 竜の力の正体を孤独だとノォトは思っている。だが、それ以上の意味があるようだ、ということは理解できた。


「……では、参ろうか」


 帽子の男から急に、殺気が溢れた。あまりにも唐突な殺気に、ノォトは魔剣を反射的に抜いた。

 邪竜に匹敵するかと思うほどの気迫だ。魔剣をずい、と構える。

 あまりに急なことに動転した。帽子の男は好戦的な笑みを浮かべて笑う。


「まさか、こんな話をするためだけに出てきたと思うたか?」

「前はそれだけのために出てきたろう」

「そうだったか? 見ての通り老いぼれよ、期待するでない」


 とぼけるように帽子の男は言った。絶対にわざとだ、とノォトは思った。

 槍の切っ先が向けられる。ただの槍ではない。緊張感が走る。


「これで仕舞いにしよう。お前の旅の最後を飾るのは、この私だ」

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