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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
竜の歌
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帰還(2)

「自由? そんなものを得てどうする? 王になるのではないのか。それが夢だと、そのための戦いだとずっと言っていたろう」


 アルヴァルトは言った。

 ノォトは首を横に振る。それは、自分のためだったのではないか、と問いかけて。


「なにを言うか!」


 アルヴァルトが激昂した。


「そもそも、王として自国の利にならぬなら何もせぬぞ! そんなもの当然だ!」


 その上でお前の王への道と、その実力は高く買っていたのだぞ。

 アルヴァルトはそう叫ぶ。

 それが本音か、とノォトは心の中で言った。

 そして、それは道理だ、とも思った。ノォトとて、一国の王であればそうしていたにちがいない。


「そうだ。だから俺も、一人の王として、この縁を切らせていただく」

「どこにお前の国がある。どこが国土だ。どこに統べるべき民はいる。何を言っているのかさっぱりわからん」

「わからないか。お前の前に立つこの俺こそが俺の領土であり、民であり、王だ」


 ノォトはそう言った。

 無論、当てがなくて言っているわけではない。

 アルヴァルトへの答えとして、ふさわしいものを選んだのみだった。

 めちゃくちゃなことを言っているのは自覚している。

 だが本心であった。


「……楯つくというのか、我らに」

「そうではない。俺は俺の道を行こうと言うのだ。お前に害を為すことはしない」

「信じると思うか? このアルヴァルトが、他国の王に油断、慢心をすると?」


 アルヴァルトが殺気を向けた。それは一人の戦士が、他の戦士と相対したことを意味する。

 ノォトもまた睨み返す。邪竜の瞳に比べれば、なんと他愛のないことか。

 それでも一人の戦士と向かい合うことに、誠意を示した。

 だが、それは戦士同士のやり取りであった。

 王として振舞えなかったアルヴァルトに、他の臣下たちはついてこれていない。

 つまり国として、ノォトと戦えないということだった。

 いまやノォトは邪竜すら墜とした戦士である。

 そのことを悟ったアルヴァルトは渋々と玉座に座った。


「……なるほど、お前の心算こころづもりはわかった。出て行くなら好きにするがいい。いずれ、後悔することになるだろう」

「そうならないことを祈っている」


 ノォトは不敵に笑った。

 これより自分の周りの全員が敵である、少なくとも味方ではないはずなのに、笑みを浮かべる彼が畏怖すべき存在のように見えた。

 そしてようやく、そこに集まっている者たちはノォトが異質な存在であるということに気づいたのだった。

 ただの戦士ではない。ただの王ではない。

 その姿は、在りし日の、ノォトの父を思わせるものだ。

 誰も寄せ付けない。恐ろしいくもたくましい存在。

 竜を殺して変わったのか。

 はたまた、これがこの男の本来の素質であったのか。

 わからない。故に、恐ろしい。

 しかしだからこそ、魅せられてしまう。

 そしてそれこそが、邪竜や天上の神々へ抱くものと同じであった。

 ノォトが腕を振るった。それだけで、緊張が走る。


「俺は行く。悪いな、これまで世話になった……。ここまで育ててくれたことを嬉しく思うし、お前が義父であったことを誇りに思う。男と見込んで、母を頼む」


 そう言ってノォトは王たちに背を向けた。

 去りゆく王子を、誰も止めなかった。止められるはずもない。覚悟を決めた戦士がいかほどか、その場にいる者は知っている。

 アルヴァルトは観念したように言う。


「ならば行くがいい。その果てに見るものは、もはや人ではないだろう。そうだろう、勝利と歓喜の者(シグルド)よ」


 それは讃える言葉。剣を交わすことなく、目の前の男を手放すしかないということ。

 アルヴァルトの敗北宣言でもあった。

 ノォトは王の間を出る。寂しさと清々しさがない交ぜになって、息ができなかった。

 誰も追う者はいない。これは決別だった。そして決まっていたこと。

 子が親元を離れる瞬間だ。

 ノォトのあとには誰もついてこないはず、だった。

 ただ一人だけ、その後を追う者がいた。


「ノォト!」


 王の間から出て、少し歩いたところでノォトは呼び止められた。

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