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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
竜の歌
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邪悪なる咆哮(2)

 ノォトは魔剣を肩に担いだ。獣と戦う構えである。

 この邪竜に対して、牽制も剣での防御も意味を為さないであろう。その一撃はすべて必殺である。食らってしまえばひとたまりもない。

 邪竜が腕を振り上げる。ノォトはその身をとっさに退いた。

 振り下ろされた腕が、大きな轟音とともに土煙をあげる。ノォトがいた場所は抉れた。その衝撃の大きさに、ノォトは背中に嫌なものを感じる。

 魔狼の腕の比ではない。巨人の一撃ですら、はるかに超えているであろう。

 しかし、かえってノォトは安心した。ここは洞窟であるから、邪竜は自由に飛び回ることはできない。あんな腕を持ったものが、魔剣の届かないはるか上から攻めてきたら手も足も出なかっただろう。

 魔剣を構え、ノォトは飛びかかる。目指すは心臓だ。いかに邪竜と言えど、心臓を貫けば勝てる。

 勇気ある踏み込みであったが、それは邪竜の咆哮で止まった。

 ただの咆哮ではない。風を伴う攻撃である。突風とたとえるのもおこがましいほどの勢いに、鎧に魔剣を身につけているはずのノォトの身が浮いた。

 地面から離れてしまえば、ものは簡単に飛んでいく。ノォトは風に巻きあげられ、壁に叩きつけられ黄金に体を埋めた。

 魔剣を手放さなかったのは、意地でなければ奇跡だ。

 輝く黄金の中から、体をあげる。


(化け物め!)


 目の前にいるのは、正真正銘の化け物だった。ノォトの理解のずっと上を行っている。

 そしてその力をこともなげに使ってみせる。人智を超えているとはまさにこのこと。


「どうした、その程度か」

「侮るなよ。首を掻かれたくなければな」

「ふん、これは事実だ。驕りではない。鋼鉄をも弾く我が鱗は決して破れない」

「それはどうか、試すほかないだろう」


 ノォトは反撃に出る。黄金の山を駆け下りる。

 再び腕が迫った。その腕を、今度は前に進みながら避ける。脚の速さの緩急をつけて狙いを逸らした。

 そしてその腕に、ノォトは魔剣を叩きつけた。大きな一振りであり、会心の一振りでもあった。

 だが、剣は大きく上に跳ね上がった。弾かれたのだ、と気づくのに少しかかり、受け入れるのにしばらくかかった。

 馬鹿な、と思わず口にした。

 この魔剣はノォトの誇りである。歩んできた道を形にしたものであり、目指すべき場所を描いたものである。そして何より、自分に協力してくれた者たちとの繋がりでもあった。

 それが通じない。信じられなかった。

 戦士としての意識が、ノォトの体を動かした。残心をとらせ、次の攻撃に備える。

 だが、邪竜は……笑うだけだった。竜の表情などわからないが、瞳は確かに笑っていた。


「見たことか。我に汝の剣は通じぬ」

「……まだ負けてはいない。そういうことは勝ってから言ったらどうだ」

「これは我にとっては戯れぞ。何をそんな本気になることがある」


 ノォトは憤りを覚える。自分をまっとうに敵として見られていない、というのは確かであった。

 戦いにおいて冷静さも大切だ、とわかっていながらも、ノォトの矜持は大きく傷つけられた。はやりそうになるたびに、魔剣を握って落ち着かせる。


「誰の入れ知恵かは知らないが、心臓を狙っているのだろう。なるほど、だが汝に我が心臓に刃を届けることなどできるのか」

「そのために、考えている」


 ノォトはそう言った。再び爪が、今度は薙ぐように動いた。引かざるを得ないノォトは、邪竜との距離が離されたことに歯噛みする。


「ひとつ、話してやろう。汝は言ったな、すべて自分で決めたことだと。誰かに作られたものだとしても、汝の裡にあるものは本物であると」


 だが、それはどうかな。邪竜は言った。


「人とは、いいや、この世にあるあらゆるものは利己的なものだ。己に利することがあれば、人は善行も積むだろうし悪行も重ねるだろう」


 見よ、この黄金を。

 この黄金こそ、人々が争いの果てに手に入れたものよ。美神フレイヤの涙たる黄金は人にとっては甘美の味がする雫であり、渇きを癒すものである。

 故に、人々は争った。巨人もまた争った。

 かの美を手に入れるために、どこまでも利己なものになれる。非道にもなれる。


「そして他者でさえ利用する。汝は誰の言葉を信ずる? 出会ってきた全てか。妖精の女王にでも誑かされたか? 土塊の王に絆されでもしたか? その魔剣は、誰の欲が固まったものなのか知って振るっているのか?」


 ノォトは魔剣を振り上げた。

 これ以上、この邪竜に話させてはいけない。なにか致命的な言葉を発するに違いないから、ここで葬らねばならない。

 魔剣から光が溢れた。巨人を薙ぎ払った、圧倒的な熱量を持つ一振りを放つべく。

 七つの色が集まり、さらにまばゆい光となる。黄金の放つ光すら霞むほどの光量である。

 この光条は邪竜の鱗鎧であっても、溶かすことができるという自負があった。

 ずっと凝縮された光が、剣の形となった。放たれるのを今か今かと待っている。

 魔剣の名前、〈憤怒の剣(グラム)〉を象徴するような一撃を、ノォトはいま解き放つ。


「……これで、終わりだ」


 ノォトは魔剣を振り抜いた。光が洞窟を走り、邪竜を覆い尽くした。

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