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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
竜の歌
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邪悪なる咆哮(1)

 洞窟の入り口から現れるそれを、ノォトは見上げた。

 いいや、見上げるなどという表現は相応しくない。目の前に現れた異形は、ノォトの想像を絶していた。

 村を丸ごと飲み込めるような顎。捩れた角は天を突き刺す様だった。

 腕は太く、その一振りで城壁も崩せるだろう。

 身体を覆う鱗は矢どころか剣も槍も弾いてしまいそうな硬質を感じた。

 畳まれた翼を広げたときの姿は嵐が起きるのと同義だろう、とすら思えた。

 その瞳は、ノォトを見ている。青い瞳は、それだけで矢を番えているかのような緊張を与えていた。

 見た目は蛇か蜥蜴とかげかを思わせる。いずれも危険な生き物であるのに変わりはないが、果たしてそれらと並べることが正しいことなのだろうか。

 これが、邪竜なのか。ノォトは冷や汗を流す。

 生き物と考えるのもおかしなことだ。火山か、荒野を相手にすると見るべきだ、と考えていたがそれは正しいことを嫌でも思わされた。

 魔剣があれば勝てるなど、なんて馬鹿なことを考えていたのだろう。この巨体に対して、針の一刺しになるかもわからないというのに。


「不届きものめ、何をしにここへ来た」


 邪竜がそう言った。ノォトは背中にある魔剣の柄を握り、答える。


「お前を討つためにきた」

「ほう、我を前にして口を開けるか。まだ、見どころがあるだろうな」


 侮っているわけではない。ただの感心の言葉を口にしただけ。

 であるが、ノォトは知る。ああ、いままでこの邪竜に挑んだ者は、為すすべなく死んでいったのかと。


「問おう、恐れを知らぬ人の子よ。汝はその魔剣で我を討ちに来たのだろう? その故を述べよ。答えの如何を問わず、お前を食うことは決まっている。せめてその心を語れ」


 邪竜が一歩踏み出す。洞窟全体が震えた気がした。

 ノォトは一歩引いた。だが、口を出す。


「俺が王になるためだ。そのために、お前を討たねばならない」

「ほう、明確な死が待っているとしてもか」

「困難を越えなければ、何も手にできないだろう」


 そう言うと、邪竜は笑った。小さく、しかし確かに。


「困難を越えなければ、か。人は誰しもがそういう幻想に取り憑かれる。何かを手にした者は、何かを乗り越えた者だと思わずにはいられない。そうでなければ、自分が何も持っていないことを言い訳できないのだ。そして自分のしていることが、報われると信じたいのだ」


 まさしく、毒の息だった。

 邪竜の言葉は、一つ一つがノォトを突き刺すものであった。

 その通りだと思ってしまった。認めざるを得なかった。

 自分の努力が足りぬと言った。自分がやっていることが、無駄ではないと思いたかった。

 落ち込みそうな気持ちを、魔剣を握ることで立て直す。

 目を細める邪竜を、ノォトは睨み返した。


「その通りだ。だが、それは俺が決めたこと。俺は俺が決めたものを守らなければならない。それが俺の矜持になる。王としての気風になる。そう思ったから、そう動くのだ」

「果たして、それはどうかな。本当に汝が決めたのか。汝を利用する誰かがいるとは思わなかったのか。汝をそのようにした誰かがいるとは思わなかったのか」


 ノォトは、無言で魔剣を抜いた。

 きっとその通りなのだろうと、思ってしまったから。

 アルヴァルトがノォトを利用しようというのは知っている。頭ではわかっている。

 自分の意志で、彼らが求めるそれに応えようとしてきたのだから。

 弱き者、力を持たぬ者の声に応えてこその王だと。求められるものに応えてこそ、王なのだと。そう考えてきたから。

 だが、それは違うのだとフィオネから学んだ。


「そうだったとしても、俺は俺の意志で剣をとった。俺の意志で、王への道を歩んだ。理想の王を思い描いた。それは確かだ。どれほど裏切られようと、利用されようと、構うものか。俺は俺を裏切りたくない」


 ノォトの言葉に、邪竜はさらに笑った。こんなに面白いものはないと言うように。

 そして、再び揺れた。ノォトから見えない尻尾を地面に叩きつけたのだろう。この揺れから、相当に尻尾も長いのだとわかる。


「よかろう、では王と為ろうとする者よ。我が屍を踏もうとする者よ。我が財を奪おうとする者よ。その心を以って、我を超えて行けるものか、試してやろう。これは賭けだ。お互いが持つもの総てを賭けよ!」


 邪竜が吼える。いままでで、一番大きく洞窟が揺れた。

 こうして戦いの火蓋は落とされる。邪竜の叫びに応えるように、ノォトは魔剣を抜いた。

 甲高い音が響く。背にしている黄金にも負けない輝きを、魔剣は放っていた。

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