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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
竜の歌
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穂先が指す方(1)

 ノォトとブロムは村を出立した。

 これより目指すのは、邪竜がいると言われている霊峰だ。村からはさほど離れてはいないものの、誰一人として近づく者はいない地である。

 理由は、近くまで来てみればすぐにわかった。


「これは驚いたな」


 ブロムがそう言った。ノォトもまた頷く。

 目の前に広がるのは荒野であった。村長が言っていたように、邪竜の毒によって周辺の草木を枯らしてしまったのだ。

 背中の方には鬱蒼とした木々があるのに、足元から先は土が露出し、そのさらに先には草の一つも生えていない。

 その奇妙さは、平衡感覚を失ってしまいそうなほどであった。

 だが、逆に言えば、それはこの先に邪竜がいることの証左でもあった。


「ノォト、ここからは一人で行くのだ」


 ブロムが言った。それは前から言っていた通りだ。

 邪竜を相手にするのに、ブロムやグラニは足手まといになってしまう。

 尤も、ノォトが狙うのは、邪竜が水を飲みに洞窟を出たときである。先の村の村長から、細かいことまで聞き出せば、夜明けと日暮れのときに邪竜は遠くまで飛んでいき、水を飲むらしい。その隙に洞窟の中に入ればいいだろうと。

 外で戦うのに、大きな翼をもつ邪竜は相手にできない。空を飛び回られてしまってはこちらからできることなどなくなってしまう。ならば、狭い洞窟内ならまだ勝ち目はあるというものだ。

 その上で狭い中で戦うにはブロムは足手まといになってしまうし、馬であるグラニも不向きだ。

 だから、ここから先はノォト一人で行かなければならない。

 グラニとブロムに一時の別れを告げたノォトは、荒野を歩き出す。土を踏むがおかしな感覚だった。土の質が違うのか、あるいは何かに変わってしまっているのかわからない。

 ともあれ、この荒野を進むのは骨が折れるぞ、とノォトは思った。

 しばらく進むと、山道になり、やがて岩場が増えて行く。いよいよ、邪竜に挑むのだと思うと、少しだけ震えてきた。

 ノォトは身を潜めて、日暮れまで待つことにした。

 洞窟からほどなく離れて、一息つく。魔剣を抜いて、その輝きを見つめた。

 これより、この魔剣で邪竜を討つのである。入念に感覚を確かめた。

 これまでで最も好調であったとしても、まだ足りない。実力も足りなければ、経験も足りない。そして、己で足りなければきっと、邪竜に勝てる者などいないだろう、とノォトは冷静に思った。

 魔剣を収めた。きんっと、甲高い音が鳴った。


「ついにここまで来たか」


 ノォトに、そう声をかけた男がいた。

 その男は長い髭に大きな帽子を被っている。手には槍が握られていた。片目を帽子で隠し、もう片方の目は赤い瞳をしていた。歳にとるしわを隠せていない。

 どこかで会ったはずだ。どこかで見たはずだ。だが思い出すことができない。名はなんといったか、どういった人物か。知っているはずなのに、まるで霧をつかもうとしているかのような感覚に襲われる。

 敵対する意思を感じなかったから、剣は抜かなかった。だが剣を抜いたところで、届く気がしなかった。

 彼はノォトの前に腰掛けた。少しだけ、目線はノォトより高い位置にあった。老体であるが、ノォトより背が高かった。


「何の用だ」


 ノォトは端的に言った。

 帽子の男は答える。


「お前と少し、話をしたくなったのだ」

「だが、俺はお前を」

「知っていようと、知らなかろうと、それは関係のないこと。私の言葉が、私が何者かによって変わることなどないのだから」


 帽子の男はそう言った。確かにその通りだ、とノォトは思った。

 ここにいるのは、王子ではなくただの男。邪竜を討とうとしているだけ。

 相手は何者でもない、旅人。そして面白そうなものがあると声をかけずにいられない奇人。

 そんな二人で話そうというのである。


「これより竜を討とうとする者よ、かの竜がどのようなものか、そもそも竜がどのようなものか知っているか?」

「それを知っているというのならば、教えてくれ。あの邪竜のことは知っている。だが、竜とは何だ。巨人とは違うものなのか。氷霧ニブル獄炎ムスペルか、いずれかの者なのか」


 ノォトがそう聞いた。帽子の男は首を横に振る。


「いいや、奴はおおよそ、この世の理から外れた存在だ」

「つまり生死という法則に囚われないと?」

「話は最後まで聞くのだ。それが何かを得るこつだ」


 帽子の男はノォトをそう嗜める。ノォトはおとなしく、話を聞こうと決めた。

 この男からは、ブロムとは比べものにならない知を感じた。そしてそれは、グリエルとも違うものだ。少しだけ、ノォトは楽しみになった。この男が次に何を語るのだろうか。

 まるで、幼少の頃、寝物語として昔話を聞いていたあの日に戻ったようだった。

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