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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
竜の歌
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魔狼惨禍(3)

 ノォトは魔狼だった男を抱きかかえる。その顔はどう見ても父に似ているのだが、記憶の中にある父より少し若すぎるように思えた。

 よく見れば、腕や足には獣の皮が縫い付けられている。あちこちに無理やりな継ぎ接ぎがされているものの、それは鎧として機能しているようにノォトには思えた。

 真っ当な戦士ではなかっただろう。だが、その術や戦いにかける信念は相当なものであったと思えた。そして己の持ちうるすべてを賭けて戦ってくれたことに、ノォトは深い感謝を述べた。


「終わったか、ノォト」


 ブロムがやってきた。そしてノォトが抱きかかえた男を見て、顔をしかめる。


「そいつがあの、禍々しい狼の正体なのか」

「ああ」


 ノォトは短く答えた。ブロムは何も言わなかった。この男の顔を見れば、ノォトとのことを何かしら察することができる。ブロムにしては珍しい気遣いだった。

 しばらく黙して、先に口を開いたのはノォトだ。


「……俺の父のことを、どれほど知っている?」

「風聞に聞く程度だ。誉れ高き王、魔剣を持ち数多の敵を斬ってきた。だが、その男については皆目見当もつかない。お前の父か、その兄弟か、子か、親か。いずれにせよ、お前に因縁のある相手であることは間違いないだろう」


 ブロムはそう言う。ノォトはうなだれるしかなかった。

 間違いなく、自分の縁者であっただろう。しかしそれがいったい誰なのかもわからないままなのは、悲しい。利用され、二度の死を味わい、体まで変えさせられ、その恥辱を思うと胸が苦しくなるほどだった。

 他にもできたことはあるのではないか。ノォトはそう思ったが、自分には戦うことしかできない。


「ブロムよ」


 ノォトは自分の養父へと声をかけた。


「俺が王になったならば、この悲しみもなくなるというのか」


 それはノォトが漏らした、ぎりぎりの弱音だった。

 果たしてこの悲しみを、自分が王になればなくすことができるのか。この世からも、自分からも。

 自分の中に、おぞましい感情が渦巻いていることに気づく。

 運命の理不尽さ。ヘル、ロキらの策謀。オーディンの血統。魔剣の呪い。王となる使命。いずれ来る終焉のとき。

 ありとあらゆるものが、ノォトを縛っていた。拳を痛いほど握りしめて、地面へと叩きつける。手の平から、血が垂れる。


「俺はあと、どれほどの悲しみを重ねればいい」


 フンディングの死、フーゴの死、そしてこの因縁のある者の死。

 いままでなにも考えずに戦ってきた自分が、王として振舞うためにはなにもしてこなかったことを知った。憧れても、そこへ向かう術を知らなかった。

 やるせない思いだけが募って、吐き出してしまいそうだった。だがそれを必死に堪えて、顔を上げる。


「邪竜を討て、ノォト」


 ブロムはそう言った。瞳には妖しい光が宿っている。魅入られるように、ノォトはその光を見た。


「お前が王になれば、すべてが解決するとは言わない。だが、お前にはいま力が足りない。権力も、財力も、武力もだ。それらの力はお前の願いを成就させるために必要なものだ。ならば、邪竜を討ち、王になるのだ。そうすればすべてはお前の思うままだ。フンディングの国も救えよう、兵士たちはお前に膝をつこう、そしてアルヴァルトもお前に従うだろう」


 それほどの王になる素質がある。

 ブロムはそう言った。魔法使いの言葉は、強力なものであった。

 たくさんの言葉を尽くして、ブロムはノォトに王となることの利を伝えた。巧みに言い換えて、ノォトを奮い立たせるべく。

 もちろん、王となることはそれ相応の責務を背負うことになる。言葉の一つ、腕の動き一つに、誰かの命をかけなければならない。その秤には己の命すらも載せなければいけない。

 上等だ。ノォトは思った。それが王となるために必要なことだと言うならば、やってやろう。

 ノォトの胸に、火が灯った。突き動かされるように、立ち上がる。


「許さないぞ、ヘル、そしてロキ。お前たちの好きにはさせない。必ずやこの運命を超えてみせよう」


 そして、いつかは。その先は口にしなかった。

 神々でさえできないはずのそれを、ノォトは誓う。神々まで届く刃は持っていない。

 けれども、己の歩みを阻むことごとくを乗り越えてみせる。それが呪いであっても、運命であっても、神々の仕組んだ策だとしても。

 ノォトが誓った復讐だった。

 ならばまずは、邪竜を討つ。そして王となり、力を手に入れる。

 至上の王になるのだ。もう、この腕に悲しみを負うことはないようにするのだ。

 それが己の願いであり、己が果たすべきことだと、ノォトは疑わなかった。


 それこそが運命なのだと、知らなかったから。

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