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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
竜の歌
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魔狼惨禍(2)

 本能に従った一振り。目に頼らない、直感でしかない。

 魔狼が消えたのは見えた。だが、それとほとんど同時に、危機感に急かされるようにして魔剣を振るった。

 真横の振るわれた剣。広い範囲を射程に入れた一撃は、魔狼への牽制になるかと思った。

 だが、魔狼はここで思わぬ動きをとっていた。ノォトの頭上、はるか高くを飛んでいる。その背中には、不格好ながらも翼が生えているではないか。思わず、目を見張った。

 視界の端にどうにか捉えたものの、体は追いつかない。

 視線が交わった。にやり、と黄金の瞳が細く歪む。ノォトは歯噛みをした。

 背後を取られる。それは戦士にとって致命的な失態だ。無防備な背中はいかに屈強な人物であっても、刃の一突きを防ぐことはできない。

 ノォトは、魔狼が獣の理と戦士の理のふたつで動いていることを失念していた。頭上を飛ぶは獣の理。そして奴は、とんでもない勢いで成長する。それがよもや、翼が生えるなど思いもしなかった。

 

「う、おおおおおおっ!」


 雄叫びをあげたのはノォトだった。体の限界を超えて、頭に描いた動きをとる。


(そんなに欲しければ、くれてやる)


 ノォトの敗北は必至だった。ここまで追い詰められてしまえば、戦士としてのノォトは死ぬしかない。

 だが、相手が獣なのだとすれば、ノォトは最後まで人として戦わねばならない。なんとしてでも、生きるのだ。

 血が吹き出た。あたりを朱に染める。

 そしてその血は、魔狼から出たものであった。

 ノォトの手元から、魔剣が矢のように放たれた。振り切った魔剣を、そのまま手から離したのだった。戦士としてあるまじき技であったが、それは魔狼にとっても失念していたこと。戦士のままに戦っていたノォトがそれを手放すなどと思いもしなかったのだろう。

 魔剣はまっすぐ魔狼の腹に突き刺さり、彼を吹き飛ばしたのだった。腹に魔剣を刺し、倒れる魔狼をノォトは膝をついて見た。

 かなりの無茶をした体は、あちこちで悲鳴をあげている。だが、立たねばならないと思った。

 相手は獣である。どれだけの傷を負わせたとしても、油断していい相手ではない。

 びくり、と魔狼が動いた。まだ生きている。ノォトは立ち上がった。戦わねばならない。そうしなければいずれまた、魔狼は自分の前に立ちはだかるだろう。いまよりも大きな力を持って。そのときに、勝てるかどうかなど考えたくもなかった。

 足を引きずって、魔狼の元に寄った。黄金の瞳がノォトを見る。


「俺を殺すか。お前の呪われた運命の一端たる俺を。それもいいだろう。だが後悔はしないことだな。お前が選んだことなのだから」


 魔狼はそう言った。ノォトは、それがどういう意味なのかはわからない。

 だが何か声をかけるべきだろうと思った。


「俺の負けだ。戦士として戦い、お前に負けた。だが魔剣も命も、やることはできない」

「ふん。生きれば勝ちだ。そもそも、俺は死んだ。死んでいた。すでに負けた者だ。それがもう一度、こうして意地汚くやってやろうとしたのだ。お前は元から勝っているんだ」


 ノォトは、魔狼の言葉にどうしてか温かみを感じた。

 暴れまわるだけ暴れ、その末にこんな言葉をかけられる。ノォトはもはや、この魔狼と言葉を交わすことはないだろうと思うと、少しの寂しさを覚えた。

 それはお互いの運命の巡りの為すことか。あるいは、数度と戦い己の手の内を見せ合った仲だからからか。

 魔剣の柄を握る。そして、一度だけ引き抜くと、もう一度刺した。

 やがて魔狼は瞳を閉じた。もはや動く気配もなかった。ここで戦いは終わった。ノォトは、遅れて汗を流した。これほどまでに緊張を強いられた戦いは初めてであった。

 魔狼の姿が小さくなっていく。めきめきと、姿を変えていた。魔狼を支えていたものが崩れていっているのだとノォトにはわかった。

 やがて、その姿は一人の人へと変わっていく。魔狼が変わる前の姿、きっとそれは生前の姿だろう。


「…………」


 その姿を見て、ノォトは言葉を失った。

 見間違えるはずがない。どうして、と言葉が漏れる。問うたところで、誰も答えてはくれない。


 それは、夢に見た父によく似ていた。

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