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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
竜の歌
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魔狼惨禍(1)

 ノォトは魔剣を構えた。魔狼との戦いはこれで三度目である。それほどに戦えば、相手の手の内は見えたも同然である。

 過去に戦った魔狼は、獣でありながら戦士の技を使っていた。その戦いぶりは短剣での戦技を思い起こさせるものであり、ノォトの持つ魔剣では苦手な相手のように感じられた。

 だが、ノォトとていつまでも無策ではない。いずれ来るであろう、魔狼との戦いに備え、短剣を持つ相手であっても臆さない。

 それは魔狼にも言えること。過去の戦いから、ノォトの技のほとんどは露呈している。武器が魔剣になったという違いはあっても、剣であることに変わりはないのだから、その術理は割られていると思っていいだろう。

 長い戦いになる。確信だった。ノォトは魔剣の構えを変える。正面に剣を構えた。人と戦うときの構えだった。

 心の底から渦巻く感情に、ノォトは戸惑った。いつだって冷静に戦ってきたはずだった。氷のようだとさえ言われた顔を、猛々しく歪めてしまっているのがわかる。

 怒り、憎しみ。そんな感情を放つ魔狼に当てられてしまったか。


「行くぞ」


 ノォトの喉から出たのは、猛る感情に反して凍気さえ発しているかのような、底冷えした声だった。応える魔狼は、咆哮を繰り返した。

 そして何のきっかけもなく、激突する。

 先に仕掛けたのは魔狼だった。荒々しさに反したまっすぐな動きで、ノォトの首筋を食いちぎろうと迫った。その速さは、前に戦ったときの比ではなかった。もはや別物である。

 獣は人よりも早く成長する。それは魔狼にとって大きな有利であった。かえって、人は急激に変わることはできない。すぐに足が早くなったり、腕力が上がったりはしないのだ。

 だからこそ、技を弄するのである。

 ノォトは正確に魔剣を操った。素早い動作で相手の懐へと潜り込もうとする。魔狼はそれを嫌って、正面からの衝突を避ける。

 続いてノォトが仕掛けた。細かい動作からの突きからの払い。威力をともなわないはずの攻撃であるが、その武器が魔剣であるならば別である。わずかな一撃でさえ命取りであり、それこそがノォトの持っている強みであった。

 魔狼はその攻撃を大きく後ろへと飛んで避けて見せた。そのことにノォトは違和感を覚える。

 獣の毛皮というのは、刃を通しにくいものである。剣とは人と戦うための武具であり、決して獣と戦うためのものではない。弓矢や槍など貫くものを用いて狩る、というのが定石である。

 ゆえに、いままでこの魔狼と戦ったときでさえ、ノォトは剣をいかに操ろうとも傷つけることができないでいた。

 しかし、このときは違った。魔剣の冴えは頑丈な皮を持つはずである魔狼でさえも、避けざるを得ないものであった。


(……やはりか)


 ノォトは悟る。この魔狼は、ただ魔剣〈憤怒の剣〉の存在を知っているだけでない。魔剣による一振りがいかに強力であるかも知っている。

 かつてこの地に魔剣のために生きたというこの魔狼の正体を、ノォトは掴めないでいる。


(父の縁者か、あるいは敵対者か。少なくとも、父と関わった者であることは確かであろう)


 魔剣を巡って戦いでもしたか。あるいは以前の持ち主だったか。ノォトはそこまで考えたものの、魔狼の腕が目の前を掠めていったのを見て、意識を戦いに戻した。

 一撃が致命になるのはノォトもまた同じ。この魔狼の一撃を侮ってはいけない。少しでも触れれば血で大地を汚すことになるだろう。痛みなどいくらでも耐えることはできようが、血を失ってしまえば人は戦うことができない。

 すべてを紙一重で避ければいい。言葉の上ではひどく簡単だ。そのための技や、神経は相当なものであった。ノォトは魔剣を手繰って、魔狼の攻撃をやり過ごすものの、反撃のための隙が見つからない。

 苦しい時間が続く。ノォトは焦れて、大きな一撃を繰り出した。その一振りは大上段からの振り下ろし。魔狼は間一髪で避けてみせる。だが、剣が発した風が地面を切り裂き、魔狼の体も飛ばす。威力の大きさを、地面にできた痕が物語っていた。


「ふん……厄介な魔剣だ。その切っ先に触れれば、この俺とてただでは済まないだろう」


 魔狼がそう言った。やはり魔剣か、とノォトは心のうちで言った。

 この魔剣がある限り、ノォトは魔狼と張り合うことができる。しかし逆を言えば、この手に握っているのが魔剣でなければ勝ち目などなかったということ。己の巡りのよさに感謝する。

 剣を深く構えた。一撃を加えさえすれば、勝てる。その意識と反して、相手の一撃をどこかで恐れている自分がいた。ぎゅっと剣の柄を握りしめる。

 いざとなれば、巨人でさえ一撃で払った“あの力”を使うしかない。だが、あれは威力が大きすぎて、この村が無事では済まされないだろう。それはだめだ、と自戒した。

 ならば残された手段は……ノォトは眼前の敵に気を配らせた。ありとあらゆる手段を考え、そして削っていく。魔狼に対し有効な技、そうでない技、牽制、そしてどう一撃を入れるか。

 ノォトは魔剣を上段に構える。それを見た魔狼は、笑った気がした。


「なるほど、決めようと言うのか。だがそう急くでない」


 俺の方が早いのだからな。

 ノォトは目で見たわけでもない、ただの直感に従って、魔剣を振るった。

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