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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
竜の歌
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異変の村(3)

「ほう、驚かないのか。お前のひっくり返る姿を見てみたかったぞ」


 笑う人狼……いいや、その姿形はもはや魔狼と言った方がいいだろう。その底には憎悪が渦巻いているようにノォトには見えた。ただそこにいるだけで相手を圧倒するほどの感情を発している。肌が痺れて、呼吸すらもままならない。

 これでは、村の猟師どころか並いる戦士ですら、前に立つだけで生きた心地などしないだろう。目で見られただけで、待ち受けるのが死だと悟ってしまう。

 そして、その姿形もまた見る者を恐怖へと落としていく。過去に戦ったときとはまったく違う姿。より禍々しく変化した姿は、まるで彼の怒りを表したかのようだ。


「生憎だったな。戦士として、思いもしないことには備えておくものだ」


 とは言うものの、ノォトは己の感情を押し殺すのに精一杯だった。戦士としての本能が、目の前の獣は只者ではなく、戦っていいものではないと告げていた。

 しかし退くことはもはやできない。この村のために、そして己の誓いのために、戦うことは避けられない。もとより、避けるつもりもない。


「かっかっか、なるほど、なるほどなあ」


 魔狼は言った。ノォトは魔剣〈憤怒の剣〉を深く構える。

 一触即発の空気であった。互いが指の一本でも動かせば、すぐにでも戦いが始まる。

 もはや両者に言葉は不要であるが、それでもノォトは問わずにはいられなかった。


「お前、なぜ人を食う?」


 ノォトの知っている魔狼といえば、人を食うようなものではなかった。獣の理にしたがって、そして戦士の理にしたがって生きる者だった。それが、人を食うなどという獣ですらしないであろうことをしでかすとは考えにくい。

 ならば、なにか理由があるにちがいないのだ。ノォトはそう思った。

 かか、と魔狼は笑った。不気味な笑いだ。


「なぜ、なぜというか。ならば言おうか」


 面白がるように魔狼は言う。


「それはこの世(ミズガルズ)に留まるためよ」

「この世に留まる?」

「然り。この身はすでにこの世のものではない。本当ならば戦乙女の腕に抱かれ、オーディンの下に迎えられるべき身であると自負していた。だがこの身を出迎えたのは忌々しいヘルとロキであった。そして奴らは、この俺を世にもう一度放とうと言ったのだ」


 魔狼は言った。ノォトは今度こそ、目を見張って驚いた。

 かつては戦士であっただろうことは察していた。しかし、死んだはずの彼をこの世に送り込んできたのがよもや、ロキであったとは。

 ロキの噂は聞いていた。悪戯を好み、オーディンに神々の一柱として出迎えてもらったとは聞き及んでいた。だが、その実態をノォトは知らない。

 いったいなぜ。ノォトの頭の中は疑問でいっぱいであった。


「だが、ただ蘇るならいざ知らず、化け物の身と成り果て幽鬼としてさまようには、魂がいるのだ。それも生きた魂を。瑞々しい魂を! この世に留まるべく、俺は食わねばならない。腹を満たし、胸を満たさなければならない!」


 魔狼はそう言って吠える。大気を揺るがすような咆哮に、ノォトは少しだけ気圧される。魔剣を握り、歯を食いしばった。一歩も動くまいと力を込める。


「そうか、そうしてお前の体は変わっていったのか。そして言葉も」

「いかにも。人から離れれば離れるほどに、この身はこの有様よ。お前と最後に戦ってから、かれこれ三つは村を食ってきた。そのたびに軋む音を立てて、この身は牙にまみれていった」


 魔狼は自嘲する。ノォトはおぞましく思った。生き返ることも、化け物になることも、その身を変化させることも。どれほどの苦痛と恥辱を伴うか、想像に難くなかった。


「そうまでして、お前はこの世になにを望んだ?」

「お前の魔剣だ」


 じぃと、魔狼は瞳を鋭くした。その瞳に映っているのは、ノォトが握る一振りだ。


「その魔剣が欲しいのだ。俺はそのために生きていた。その魔剣を手に入れ、この世の支配者となるために生きていた。なのに、どうしてお前などがその剣を握っている。どうしてだ、どうしてだああああ!」

「……!」


 憎悪が膨れ上がる。その憎悪は形となって、周囲を蝕んでいく。地を腐らせ、空気にわずかな雷が走る。

 なるほど、これはもはやこの世のものではない。人や獣などという域を超えている。破壊の狼フェンリルへと近づいて行っているのだ。

 もはや、生かすわけにはいかない。これ以上この魔狼を放っていてはいけない。ノォトはその確信とともに、剣を構えなおした。

 なぜ、魔剣を狙うのか。それはわからない。だがこれ以上、問答をする余裕はなさそうだった。

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