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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
竜の歌
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異変の村(2)

 村の中に入る。この時期であれば、収穫などで人が多く賑わっているはずなのだが、どうしてか人の姿はまばらであった。

 ノォトは、馬を村の中心まで進めていった。やはり、少ない。徴兵をしてもこうはならないだろう。狩り出払っているにしても、異様であると言えよう。


「これは、どういうことだ?」


 ブロムもまた、この村のおかしさを感じているようだった。

 そのうち、村人の一人がノォトを見つけた。その男は怯えた表情を浮かべて、手に持っていた薪を落としてノォトの足元までやってきた。


「この村はどうなっている。どうしてこうも、人が少ない」


 そう聞けば、村人は少し驚いた顔を浮かべた。そしてすぐに、安心したような顔をする。


「ああ、よかった。貴方は彼ではないのですね」

「彼とは?」


 ノォトが聞き返せば、その村人は背筋を伸ばして、頭をさげる。


「失礼しました。かねてよりこの村に、ある男がやってくるのです」


 その村人が語るに、ここひと月のことである。最初にある獣がやってきた。姿形はなんとも形容することができなかったが、四つの足で歩く毛皮を持った獣であることはわかった。矢も槍も避けて見せ、村の狩人たちは次々に倒れていった。

 そこでその獣は急に、男に変わった。驚く村人の前でその男は言った。これより毎日、まずは女を一人ずつ食っていく。そしてその次の日に、男と戦おう。その次に女を食う。それを繰り返す。誰を差し出すのか決めるのだ、と。また、誰かを外へ報せに走らせようものなら、手始めにこの村のすべてを食らってやろうとも言った。


「それからは我らが一人ずつ、男と女を差し出しておりました。まずは女を、次にその女の夫や恋人、子や父が、と続いていきました。ですが誰も歯が立ちません。先日は女を食われ……」

「なるほど」


 ノォトは頷いた。獣に変わる人、というのを聞いてまず思い浮かべたのが、フィオネの魔法であった。もちろん、あの魔法を他の者が扱えたとしてもまったくおかしいことではない。

 だが、だとしても女を、人を食うというのはわからなかった。元が人であるのだとしたら、人を食うなどありえないことである。


「ノォト、これはよからぬことよ」


 ブロムが言った。


「確かに恐怖はあろうが、人を差し出したのは紛れもないこやつらよ。我が身かわいさに、隣人たちを死に追いやったのだ。そんな者たちの味方をすることはない」


 たくさんの言葉を用いて、ブロムは村人たちを非難する。本当であれば、早く逃げればよかったのだ。村を大切にしたいと言うなら、村の者全員で逃げるなり立ち向かえばよかったのだ、と言う。

 それは道理であり、正論であると思えた。村人はそれを聞いて、瞳に涙をこらえて、拳を握っていた。

 だが、ノォトは首を横に振る。


「ない力を振るうことはできまい。そして、無闇に死ぬことは誰も望まない。人は弱い者だ。だから、人は誰かを求める。己を救う者を」


 それは、いかに強い力を持つ者とて変わりはない。ノォトの父とて、どれほどの力を持とうと、富を得ようと、名声を捧げられたとしても、満たされぬものがあった。それを求めて、グリエルを頼り、母ヒルディースを求めた。

 至上の王であった者でさえそうなのだ。この村人ならば、仕方のないことであろう。そしてそれはアルヴァルトも、ブロムも変わりない。


(きっと俺も……)


 ノォトは少しだけ、そう思った。だが、それが何なのかはわからなかった。自分がいったい、なにを求めているのかも。


「俺が戦おう」

「ノォト!」

「今日は男が戦う番なのだろう?」


 ノォトが言うと、村人は頷いた。


「であれば、俺が行くしかないだろう。これ以上、無用な死を出さないためにも」

「だが、ここはお前の領地ではない」

「そうとも。ここは俺が治める領地ではない。だが、俺はまだ王ではない。人のために戦おうとすることを阻む道理もないだろう」


 ついにブロムは黙った。こうなったノォトは言うことを聞かないと知っている養父である。

 ノォトが馬から降り、村人に向き合うと、彼は申し訳なさでいっぱいの顔を浮かべる。

 やがて、ノォトの耳に足音が聞こえた。それは獣の足音だ。

 視線を森にやった。それとともに、ノォトは胸騒ぎがした。この胸騒ぎの正体を知っている。それはすなわち、いま目の前にあらわれようとしている敵についても知っているということ。

 そしてノォトが逃した敵は、この世においてただ一人しかいない。


「全員、下がれ! 村人たちを集め、決してこっちに近づくなと伝えろ!」


 珍しく、ノォトは声を荒げた。ブロムたちはそれに従って、ノォトから離れていく。

 魔剣を引き抜いた。それとほとんど同時に、それは現れる。


「久しぶりだな。イマルタの洞窟以来か」


 目の前に現れたのは、狼に似た獣だ。だがいまやその姿は異様とも言える。体から牙が生え、爪が生え、尾は四つ。瞳の黄金が怪しく輝いている。口からは涎を垂らし、獲物をいまかいまかと狙っていた。


「久しいな、小僧。お前を食う日をいまかいまかと待っておったぞ」


 人狼はそう言った。獣が言葉を発した。そのことに驚きつつも、ノォトは瞳を細めた。

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