表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
竜の歌
54/102

賢王の予言(2)

 グリエルは、椅子に座るとノォトにも座ることを勧めた。魔剣を置いて、ノォトも用意されていた椅子に座った。


「さて、では……彼が私の元を訪れたときのことを話そう。彼の過去にはたくさんのことがあったが、いまのそなたにはそれで十分であろう」


 そう前置きをして、グリエルは語り始める。在りし日の父の姿を。




   *   *   *




 その男は、当代において無敵を誇っていた。

 手にする魔剣はあらゆるものを斬り裂いた。敵であろうと容赦なく、ときには城壁でさえ斬ってみせる。その武勇は知れ渡るところであり、神の加護とともにある、とさえ言われた。

 しかし、彼と戦いたがる戦士も王も絶えなかった。誰もが当代において無敵の勇士を倒すことと、その名誉を望んでいた。

 戦い、戦い、戦った。年老いた彼はやがて、戦いに飽きたのか、防衛のみに専念するようになった。

 誰もが彼をそしった。だが彼の優れた治世は、戦いの武勲に勝るとも劣らないものであり、民は満足していた。

 そんなある日であった。彼は少ない兵とともに、グリエルの元を訪ねた。そのとき、二人は初めて出会った。その日もまた、雨の日であったという。


「グンナル王、私にはこの上ない飢えがあるのだ」


 彼はそう言った。グリエル王はそれを聞いて大変驚いた。


「私は予言の力によって、そなたのことを知っている。そなたが何を求めていて、何が救いになるのかも」


 よもやそれを飢えと呼ぶとは。グリエルにとって、そのことが驚きであった。

 ある程度を見通せるとはいえその意思までは読み取れない。予言の力と言えど、万能ではないのだ。


「そなたの生を思えば、それも仕方ないことであろう。兄弟たちを失い、子たちもまた運命に呪われていた。妻もまたそなたに見合うものではなかった。たくさんの復讐をし、死を見て、死を与え続けてきた。だがそなたは王であった。それを罪責だなどと言える者もおらぬし、私もまたそなたを責めることはできない」


 もし彼を責めることができるのだとしたら、それは神々のみであろう。

 しかしその神々とて、魔剣がある限り味方である。無条件であらゆることが認められているのだった。


「俺が望むものがわかるというのか」


 彼は言った。年老いてなお、その気迫はこの世で最も優れた戦士たるものであった。

 だがグンナルは臆さない。未来を見通すグリエルは己の死期すらも知っている。そしてこの男が本当は、とても優しいということも。


「如何にも。そしてそれは、そなたの知らぬもの」

「教えてくれ。俺の心をこうまで蝕むものはなんだ。俺には何が足りないんだ。この飢えがいったい何なのか、教えてくれ!」


 その叫びは王にあるまじきもの。その嘆きは戦士にあるまじきもの。

 まるで春を待つ子どもだ。グリエルはそう思った。人並みの生き方を許されず、戦い続けた王は、ようやく少年になったのだ。

 遥か過去から生きていた王は、人としては年老いた、しかし自分から見ればほんの子どもに過ぎない王を見て、笑った。きっと息子がいればこんな気持ちになったろうとも。


「ここより東に向かうがよい。エイリミ、という王の元を尋ねよ」


 グリエルは言った。それは問いへの答えにはなっていない。魔剣の王はそう言ったが、グリエルは何も言わなかった。


「そなたならば、きっと向かえばわかるだろう。お前は何かを求めている。であれば、それに出会えばその何かがわかるというもの。人は何者かに答えを教えてもらうより、何者かに出会う方がはるかにたくさんのものを得ることができる」


 それきり、魔剣の王は黙った。なるほど、と納得して頷いてみせる。


「非礼を詫びよう。はしたない真似をしてしまった」


 そして謝ってさえ見せた。王たる者が簡単に頭を下げるのは愚行と言わざるを得ない。王たる示しがつかないからだ。

 だが、この王はきちんと相手を選べる者なのだ、とグリエルは思った。それこそが優れた王の秘訣なのだろうとも。


「はっはっは、王と言えど、人だ。人であるうちは過ちも犯そう。それはいくつ歳をとっても同じこと」


 だが、気をつけるのだぞ。グリエルは言った。


「私が伝えたのは、そなたの言う飢えを癒すことだ。それが必ずしも、そなたの運命を明るいものにするわけではない」

「回りくどいな。素直に言ったらどうだ。その先に待ち受けるのは破滅だと」


 魔剣の王は言った。不敵な笑みだった。覚悟を決めている者の笑みだった。

 即断即決であり、決めたからには迷いがない。わかっていたとしても進むしかない。進むことしか知らない。まことに潔い者よ。愚者だと罵る者もいよう。だが、グリエルはこの戦士に敬服の念を覚えた。


「では、行くがよい」

「ありがとう、賢王グリエル。貴方との出会いに感謝を」


 しばらくの雑談を経て、魔剣の王は再び出て行った。その後ろ姿は、やってきたときよりずっと勇ましく見えていた。




   *   *   *



 忘れられぬ出会いであった。グリエルは語った。長いようで短い話であった。そこにはたくさんのものが詰まっていて、一度に咀嚼するのは難しかった。


「あとの顛末は、そなたが知っての通りだ」


 ノォトは頷いた。きっと、その先で出会ったにちがいない。己の運命の相手に。そして……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ