戦士はともになれない(1)
それからもノォトとブロムは、素性の知れぬ者たちの襲撃を受け続けた。ちょっとしたちょっかいから、大掛かりな攻勢まで様々あった。
そのたびにノォトの剣術と、ブロムの魔法によって切り抜けてきたが、手口の多様さに驚かされる。ごろつきのような者でさえ、どこかの暗部の手先であった。
その分、ノォトは容赦をしなかった。覚悟とともに、剣を振るった。しかし彼らは有力な手がかりを残さぬうちに退いていく。
襲撃したところで、ノォトの首は取れない。そうわかっているはずなのに、どうして彼らは襲ってくるのだろうか。ノォトは、それは自分とブロムを疲弊させるためなのだと推測していた。ブロムはそれに同意した。だが、それ以上のことがあるような気がしてならないとも言っていた。
日が暮れてくる。夜に動く獣たちは、ここらにはいないだろうとブロムは言った。だが、夜襲が考えられる以上、油断をすることはできなかった。
暗闇の中で、炎は目立った。捕まえた魚を焼いている最中であったが、ノォトは気配を感じて立ち上がる。ブロムも、頷いて立ち上がった。グラニとブロムの馬は、二人に寄り添う。
「やはり、今日もくるか」
「……月のいない夜だ。わかっていたことだろう」
月明かりのないこのときに、襲うのは彼らの常套である。ノォトは魔剣を抜いた。暗い中でも仄かに光るその剣は、ノォトの居場所を示していた。
ブロムと背中を合わせ、全方位を見た。どこから襲われてもいいように。
石が飛んできた。鋭い石は、ノォトを傷つける意思を持っていた。それを弾いて、ノォトは石のきた方を睨んだ。
これは囮だろう、とノォトは思った。勘などではなく、戦略眼からだ。自分の居る場所を誤認させる牽制だ。
正々堂々を矜持としているノォトにとっては許しがたい手ではあるが、有効な手であることは確かだ。特に、ノォトのような者に対してはそうだろう。
相手は間違いなくノォトのことをよくわかっている者だろう、というのが見立てであった。ノォトのできないこと、考えることを理解しながら、こうして夜襲を仕掛けているのだ。
「来い。俺はこのまま一晩過ごしてもいいんだぞ」
ノォトは言った。はったりではない。それだけの体力と自信があった。
だが、それは敵わないだろうという風にも考えていた。ブロムの体力を考えれば、あまり無茶もできない。ここで彼や馬を失ってしまえば、相当な痛手でもある。
「ノォト、こうも暗くてはいたずらに魔法を使うことも敵わぬ」
ブロムの言葉に、心得ている、とノォトは返した。
空気が張りつめる。時折、風を切るような音とともに石が飛んでくる。そのたびにノォトとブロムは、それぞれの技を駆使して凌いでいった。
どれくらいの時が経ったろうか。ノォトはやがて、一点を見つめた。濃厚な死の気配をそこにみていた。
じりじりと、焦げるような感覚がする。やがて、向こうから何かが躍り出た。手には短剣が握られている。
愚かだったな。ノォトは思わず口にした。
焦りからか、思わず飛び出てしまったのだろう。本人の顔からもそれが伺えた。
得物の長さは、戦いにおいて絶対的な差異である。ノォトの魔剣の方が、暗殺者の武具よりも先に届くのは必然だった。
血しぶきとともに、暗殺者は崩れ落ちた。ノォトは剣を再び構え直す。これを隙と見て、乗じて襲ってくるかもしれない。
だが、一向に襲ってくる気配はなかった。それどころか、木々に紛れていた殺意もなくなっている。
撤退したか、と思ったが、そうではないとわかったのは向こうから何者かが現れたからだった。
「待て待て、敵じゃあない」
あんな奴らに襲われた後じゃあ、信じられないかもしれないがな。
現れた男はそう言った。手には槍が握られていた。その穂先は血に濡れている。自分たちのものではないから、誰のものかは明白だった。
「こうしてお前たちを守ったんだから、話くらいは聞いてくれや」
「それこそ、無理な話だろう。こんなときに現れたお前を、どう信用しろと言う」
「火に寄ってくるのは、害虫ばかりじゃねえ。すがりたいやつだっているはずだ」
そうだろう? 男は言った。ノォトは苦笑いを浮かべるしかなかった。
「素直に従うと思うたか。このブロムは魔法を使う身よ。戦士の道理を通さないでもらおうか」
ブロムの言葉に男は、はいはい、と槍を捨てた。敵意はありませんよ、と言いながら近づいてくる。
明かりに浮かび上がったのは、いかにも軽薄そうな男だった。無精ひげを生やして、眼は垂れ下がっている。
戦場で出会いたくないやつだ、とノォトは思った。こういう戦士はとてもしぶとい。負けることはまずないだろうが、大局と己の命を優先されては敵わないだろうとも思う。
「おや……これはこれは、むさ苦しい組み合わせだな。せめて美人が一人いれば楽しめたが」
にやりと笑う男。ノォトは目を細めて、彼を見た。
「……ひとまずは、火に寄るがいい。助けられたのは事実だ」
助かるぜ、と言って男はどかっと座った。




