魔法使いの言葉(1)
鍛冶場に戻ったノォトは、魔剣〈憤怒の剣〉を手に入れた後でも剣を鍛え続けていた。もはや癖であったし、なにより己を確かめる手段になっていた。
また剣が出来上がる。魔剣ほどの冴えを持つ剣は二度と作れないだろう。だが、この剣は旅に出るより前に作られたものとは比べものにはならないほどに鋭く硬かった。
ため息をついて、その剣を研磨する。ドヴェルグたちと過ごした日々を思い出していた。鍛冶をするものにとっては夢のような生活であり、己の至らなさも確認する日々であった。
こうして、剣が並んでいく。あの旅から戻ってきてからこれで八本目であった。
「ノォト、聞いたぞ」
声をかけてきたのは、養父のブロムだった。彼は目を細めている。口調のわりのは怒っていなさそうだった。
「あのアルヴァルト王を怒らせたそうじゃないか。私にまで言ってきたよ。『お前はどう育ててくれたのだ』とね。私は『旅で何かを得たのだろうよ』と答えたが、どうだ」
「迷惑をかけたな」
「なに、自分の手で育てなかった者の戯言だ」
そう言ってブロムは、ノォトが鍛えた剣を眺めた。
腕を上げたな、と彼は言って剣の一つを持った。剣士でない彼はそれを上手く振るうことはできないが、目利きは確かであった。
「それで、親の仇をしてどうなった? 考えろ、どうしてお前はまだ王じゃない。そもそも、親の仇が王たる条件ではないのだから」
「血の復讐は、一人前の戦士である証明だ。まして、フンディングは俺の父の国土を支配していた。奴を討たねば俺が王になれないのだ」
「ならばなぜ、お前を真の王と名乗らせずに攻め入らせた。そもそもが……いや、過ぎたことはいい」
ブロムは、ノォトの対面に座った。鍛冶場は二人きりであった。
「ノォト、アルヴァルトはお前を認めていない。いや、認めることができないのだ。魔剣を握り、巨人を倒し、エルフとドヴェルグらと親交を持ったお前を。なぜかわかるか?」
ノォトは黙った。見当はついている。だが、自分の口から言うことは憚られた。
それを察したのか、ブロムは笑う。計算された笑みだ、とノォトは思った。
「わかっているならば、それでいい。だが、お前が王に相応しい人物であることは示さなくてはならない。幸いにして、手段はある」
「……竜殺し、か」
「然り」
かかか、とブロムは笑う。
そもそも魔剣を手に入れた本当の目的こそ、かの邪竜を討つことにあった。
竜を討つという難業と、彼が持つ黄金とを持って、王たる威光を示すべし。
それこそが、ブロムがノォトへと向けた助言であり、ノォトが魔剣を鍛える旅に出たきっかけである。
この剣であれば、邪竜を討てる。その確信があった。父の誇りだった魔剣。そして自分と、エルフやドヴェルグたちのつながりたる証。
「いまなら、こいつなら奴を討てるのか」
邪竜について、ノォトは出会ったことはないが、噂を聞いている。
鋼のような硬度の鱗を持ち、吐く息は濃い毒である。脚は大地を揺らし、羽ばたく翼は嵐を起こし大空を飛ぶ。人の言葉を解し、その目は魂の過去までをも見通す。蓄えた黄金は孫の孫の代に至るまで遊んで暮らせるほど。
どこまでが本当で、どこからがただの噂なのかわからない。しかし何人も手を出すことができずにいるのは真実だ。
「できるとも。その剣に斬れぬものなどない。悔しいが、私がどのように鍛えてもその剣には敵わなんだ」
ブロムはそう言った。
「輝かしき魔剣の使い手であり、個にして万軍に値する武力の持ち主、エルフとドヴェルグと友好を持ち、暴虐なる巨人と邪悪なる竜を討った英雄であり、そして莫大な黄金の持ち主。誰もがお前を王と認めざるを得ないだろう」
「……なるほど」
ノォトはそう言って、立ち上がる。〈憤怒の剣〉を背負った。
この魔剣は、ノォトの力に応えてくれる。いままで振るっていた武器とはまったく違う。むしろ、ノォトが振り回されているのではないかと思うほどに。
ブロムもまた、立ち上がった。よく見れば、彼もまた旅支度を整えている。
「私も同行しよう。かの邪竜の居場所を知っている者はそういない。なに、魔法使いの助けというのは、貴重だぞ?」
ノォトは頷いた。彼が優れた魔法使いであることはノォトは知っている。旅のともとしてこれ以上に頼もしい者はいなかった。




