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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
竜の歌
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王の選択(1)

 ここから先は、晴れ晴れしい物語ではありません。

 私たちは孤独です。

 この世において、別のものとして在り続ける。皆、寂しさを抱えて生きています。

 ましてや私や、彼は。神によって孤独となりました。

 けれども、それは口にはしませんでした。もしかすると、自覚もなかったのかもしれません。

 ですから知らなかったのです。それが苦しいものだったと。あまりに当たり前のことでしたから、疑いもしなかったのです。

 この身を焼いてしまいそうになるほどのものだとわからなかったのです。

 これから彼は、たくさんの苦しみを負います。あとから聞いた私でさえ、悲しくなってしまいそうな。

 彼の代わりに背負うことができたなら、どれだけよかったでしょう。

 ええ、わかってます。彼はそれを背負ったからこそ、彼なのだと。


 これより語るは、苦しい旅路の話。


 でも大丈夫。孤独だったとしても、寄り添う誰かがいてくれるのだから。

 あなたが誇りを忘れなければ、きっと出会えるはずだから。

 私が彼に出会ったように。彼が私と出会ったように。

 これは彼と私が、特別になったときのこと。


 私と彼が、互いの孤独を癒す物語。




 *    *    *




 フンディングと彼の国との戦いは、一方的なものであった。

 宣戦布告が為されて、アルヴァルトとノォトが率いる軍は圧倒的であり、フンディングの軍を相手に快進撃を続ける。誰もが勝利を疑っていなかった。

 彼らが勝ち続けた理由はたくさんある。フンディング王の悪政による民の疲弊、指揮系統の乱れ。あるいは、アルヴァルトが講じていた策が実を結んだか。

 だが、なによりもノォトの活躍があった。

 輝かしき魔剣を掲げ、グラニに跨がる彼の姿は、敵兵からはさぞ脅威に映ったことだろう。それも以前は、戦場において恐れを知らず、とさえ言われた戦士である。

 黒き鎧を纏う銀髪の死神は、将でありながら軍団の先頭を走る。そして真っ先に首級をあげて、戦意を上げていった。兵士たちもノォトの活躍に応えようと、奮闘していた。

 ときの 声が戦場に響き渡る。勝利に勝利を重ねながら、ノォトは父の仇へと近づいていっていた。

 だが、ノォトは不安がぬぐえなかった。戦場でいくつ勝利しようとも、以前のような飢餓も、達成感もなかった。募るのは不安ばかりだった。

 父の、兄弟の仇をとることは、戦士としての責務であった。己の果たせなかった勝利を子に託すことも少なくない世である。自分の行いは間違いではない、そのはずななのだ。

 しかし、ノォトは剣を振るうたびに、己の中に大きな空白が生まれていくのを感じていた。

 その正体がつかめないまま、ノォトは戦い続ける。悩みをかき消すように叫び、戦いに耽溺たんできしようとする。それも無駄なことだと、わかっていながら。

 敵城に突撃した。一軍の先頭に立ったノォトは、他の兵を振り切ってフンディングの元へと向かった。

 そうしてたどり着いたのは、城の一番奥だった。敵ではあるが、将として皆を率いなければならない立場の者が後ろに閉じこもっているのは情けなく思えた。ましてや、それがかつて父の敵であったと思うと頭が痛くなる。

 扉を破れば、王の間であった。兵士たちが殺到してくるも、魔剣がノォトの技に応え、彼らを振り払っていく。

 やがて戦士たちはいなくなり、奥に一人だけ残っていた。


「お前がフンディングに相違ないな。その首、貰い受けにきた」


 そこにいたのは、フンディングだ。贅沢がたたったのか、訓練を怠ったのか、丸い身体をしている。かつて、一人の戦士として母を巡り父王と争った恋敵だとはとても思えなかった。人は老いる者であり衰える者だ。かつての姿を保つことは難しい。だが、それでもノォトは失望の念が隠せなかった。


「お、お前は……その魔剣……まさか……」


 恐れをなして、震えるフンディング。ノォトは魔剣を手にして、近づいていった。


「そうか、お前、あの男の、そしてヒルディースの子だな!? ふん、今になって我が首をとりにきたか。しかもわざわざ折れた魔剣を取り戻して。大した執念だな」


 フンディングが吐き捨てるように言った。ノォトはそれを無視する。明らかな挑発だった。

 魔剣を一度、地面に叩きつける。フンディングはぞっとして飛び上がった。そして尻餅をつくと、わなわなとした手で自分の顔を守る。


「おやめなさい!」


 そう言ってノォトとフンディングの間に飛び込んできたのは、一人の少女だった。年若く、フンディングの妻かと最初は思った。だが、その目はフンディングによく似ていることから、娘なのだと気づく。ノォトは思わず、その手を止めた。


「父の仇を取りにきたのでしょう。であるならば、娘である私も殺しなさい。私が身篭った暁には、その首を掻くように育てるわ。貴方がいま、そうしているように!」


 女はそう言った。どうかしている、とノォトは思った。だが、この女にはそうするしか方法がないのだとも思った。父を愛しているから、ここで共に死ぬか、あるいは母となり子に剣を持たせるか。

 ノォトは魔剣を振り上げるも、その手取りは遅かった。しかし、女もフンディングも逃げたりはしなかった。

 女と視線が交わる。瞳の奥に、恐怖が見えた。震えていて、涙ぐみ、けれども視線を逸らさなかった。

 そしてノォトは、そのことに気圧される。夢を思い出してしまったのだ。父はフンディングと戦い死んだ。母は一人残された。その実、父の死は神々によって仕組まれたものであった。父もフンディングも、利用されたのだ。

 もちろん、父をあやめたその事実はなくならない。だが、ノォトは何かが違う気がした。その何かはきっと、言葉にするのならば。


「これは、俺が為すべきことではない」


 剣を納める。唖然とする二人に背を向けて、ノォトは言った。


「軍を退かせ、降伏の通達を徹底せよ。そしてこの国をあるべきところへ戻せ。これ以上の死に意味など……ない」


 そう言った。虚しさと、心の軽さがないまぜになっている。だが、これでいいという気持ちが不思議と湧いてきた。

 胸を張れ、とノォトは自分に言い聞かせた。自分のした決断に間違いなどないと。


「いやああああああああ!?」


 つん裂くような、悲鳴。女のものだった。

 ノォトは振り向く。まさか、という表情を浮かべて。

 そこには、首のないフンディングと、顔を赤に染めた女と、剣を持ったアルヴァルトがいて。ノォトはすべてを悟った。

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