表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
剣の歌
37/102

魔剣転生(2)

 工房に立ったノォト。目の前の、ノォトが使っていたものよりも大きな金床に、熱されて赤くなった金属の塊が置かれた。

 その赤い熱の塊は、ノォトの持っていた折れた魔剣、フィオネの持っていた魔銀のやじりに加えて、ドヴェルグたちの持っている鉱石が詰まっている。

 幾重にも折りたたまれ、一つの塊になっていた。そしてそれらは決して崩れることなく、そこにあった。


「あんな滅茶苦茶な素材で、よくできる」

「なに、俺らの祖先は女の髭だとか、猫の足音で縄を作ったんだ。むしろ似たものでできてるだけ、まだ納得がいくもんだろ」


 それもそうだ、とノォトは思った。手に金槌を握る。久しぶりに握ったが、感覚は手が覚えていた。


「さあ、ノォト。こいつを鍛えろ!」


 エイトリが言った。ノォトは金槌を大きく振るった。

 かん、と鈍い音が響いた。いままでに感じたことのない手応えに、ノォトは目を白黒とさせた。それは当然だ。これはただの鉄ではない。魔銀を超えたものなのだ。

 これからの作業の困難と、出来上がるだろう剣へと思いを馳せる。間違いなく、王の剣としてこの上なく素晴らしいものになるだろう。地上で最も美しく、強い剣に。そしてそれを鍛えるのは他でもない自分なのだ。

 ノォトはそれから、槌で再び熱の塊を叩き始めた。叩くたびに、少しずつ形を変えていく。表面が剥がれ落ちていった。元は巨大な鉄の塊でも叩いているうちにその大きさを変えていき、最後には元の数分の一しか残らない。こうして剣の形は決まっていく。

 そこからは、いつもなら無心で作業をしていたはずだった。

 金槌を振るい、鉄を熱し、形を整える。その繰り返しのはずだった。

 けれども、ノォトは雑念を捨てきれない。

 王になるという想いでここまでやってきた。そのための魔剣であった。

 だが、この状況はいったいどういうことだろう。エルフの少女に導かれ、王とは一体どういうものなのかを知らしめられた。ドヴェルグの国にやってきて、彼らの技術と理念に打ちのめされた。

 そして、夢で見た彼ら。戦乙女の言った為すべきこと。父王が貫いた、潔いまでの愛情。

 それらはノォトが信じていたことを大きく揺るがした。間違いだった、とは言わない。ただ自分が追っていたものが、幻影のようなものだったのではないかと思った。

 自分の中で描いていた王の像が変わっていく。

 いいや、もっともっと、具体的な形になってきたのだ。

 まるで、この剣のようではないか。たくさん打たれて、その身から錆びが落ちていく。大きかったものが削がれていく。その衝撃が大きいほど、この剣は鋭くなっていく。


(いま一度、剣となろう)


 そう思った。自分は剣だ、と。

 鋭く、硬く、けれどもしなやかに。意志を貫き、突き通し。誰もが憧れ、畏怖するような。

 そんな剣に、王に、なりたい。いいや、なるのだと。

 ノォトはそう願いながら、剣を打ち続けた。これは決意であり、己に課しているのだ。

 この剣で戦うというのはそういうことだ。この旅で手に入れたすべてを背負うということなのだ。それはすなわち、この身を剣にするも同じ。

 自分自身の影を落とすように、ノォトは剣に金槌を叩きつけていた。

 叩いて、叩いて、熱い塊を伸ばす。

 どれだけの時間を費やしたのだろうか。気づけば、剣は大きなものになっていた。ノォトの肩から足までありそうな刀身を持っている。とても人が持つものではない。巨人の持つもの、あるいは神々の武具と言われた方が納得するような異様さだった。

 このときだろう、とノォトは金槌を引いた。気づけばエイトリを含む数人がかりで剣は支えられていた。

 剣を油に浸け焼き入れをする。こうすることで、剣は硬度を手に入れる。炎をあげるも、冷やされていく刀身をノォトは眺めた。

 かつて、養父であるブロムに聞かされた話を思い出した。この世界がいかにして生まれたかだった。魔法使いである彼は、かつて巫女が語ったという創世の物語の一端を語ってくれた。

 彼によれば、この世界が生まれる前は灼熱ムスペルヘイム氷霧ニヴルヘイムしかなかったのだという。その熱気と冷気から生命が生まれ、やがて大地となった。

 剣もまたそうやって生まれるのだ、と彼は鍛冶のときに教えてくれた。熱し、冷まし、また熱す。

 冷まされた剣が再び、熱の中へと入れられた。焼戻しという作業だ。この繰り返しが、剣をより強固なものにする。


「お前ら、下がれ!」


 エイトリがそう言った。途端、剣を入れていた炉から激しい火が上がった。それが光だ、と気づいたのは少ししてからだった。

 光が晴れて、そこには崩れた炉と、剣があった。ついに完成したのだ、とノォトは思った。

 刀身を握らぬよう、茎を持った。どうしてか熱くはなかった。まるで、いますぐにでも使えと言っているようだった。


「ノォト、こいつを使え」


 そう言ってエイトリは、茎の部分に柄を差し込む。それは咄嗟に作られた荒削りの柄であったが、剣に合っていた。

 ノォトはついにできあがった剣を持った。握るだけで、力が溢れてくるようだ。魔剣、と呼ぶに相応しい威容を持っている。いっそうの輝きを放っていて、並の剣でないことが一目で伺えた。柄も合わせれば背の丈ほどもある大剣であるが、それだけではない。剣の中にある魔力が、いまかいまかと暴れまわっている。解き放たれるのを待っているのだ。

 それを持ち上げて、ノォトは言った。


「……行ってくる」

「なっ、ちょっと待て! まだ使えたもんじゃない。お前だって休息が必要だ。それよりノォト、その剣をどうしてそう軽々と持てる!?」


 ノォトはエイトリを見た。その目は戦いに支配されたものではなかった。己のやるべきことをわかっている、悟った目だった。静かでありながら、他者を圧倒する目だった。

 エイトリは息を飲んだ。そしてため息をつく。


「どうしてこう、俺らの武具を使うやつってのは……行って来い。お前の全てをぶつけてやれ!」


 その言葉に、ノォトは頷いた。魔剣を握りしめて駆け出す。遥か地上で行なわれているであろう、戦いを終わらせるべく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ