魔剣転生(1)
ノォトとフィオネ、エイトリ。そして幾人ものドヴェルグたちが一堂に会した。
森のはるか彼方に現れた巨人に対してどのように対処をするのか、彼らは話し合うべく机を囲んでいた。
と言っても、できることは限られている。一切触れることなく、嵐のように立ち去るのを待つか。それとも打って出て、ここで森の邪魔者であり災厄である巨人を討ち取るか。
多くの者が、触れずに放っておくことを意見として唱えた。数日は近くにいるかもしれない。それは困る。だがこちらに手出しさえしなければいい、という風に考えているのだ。
「いや、あの巨人が退くとは考え難い」
思わず口を挟んだノォト。フィオネが引き止めるが、ここで黙っているのは性に合わなかった。
洗いざらい、話す。自分を多くの者が狙っていること。死の女神を筆頭にし、あの巨人もその傘下にあること。そしてきっと、巨人はノォトを狙っており、ここを去ることはないということ。
それを聞いたドヴェルグたちの間に動揺が走る。そして彼らは、口々に不満を漏らした。他種族の者が災いの種をもってきたと。助けたのは間違いだった、と。
ノォトは耳が痛かった。だが、黙ったままでいるしかなかった。
フィオネも頭にきたようだったが、事実であるから大きな声で反論できないでいる。
「うろたえるな!」
エイトリが言った。彼の顔は朗らかだったが、目は笑っていない。
情けない奴らめ、と言って、周囲を睨みつける。見られた者はみな萎縮してしまった。
「ふん、さすがはノォト、人の中で最も強き者と言ったところか。お前は死に愛されながらも、死に抱かれたことのない者というわけだ。身持ちが固いか、冥府の女神がよほどの醜女だったかのどっちかだな。言わなくてもいい、後者だろう?」
その言い草に笑ったのはフィオネだった。彼女はドヴェルグたちの真ん中で大笑いをして、そして言った。
「間違いないわ、おまけにすっごく臭いのよ!」
「そいつは……勘弁だな」
下世話なことを言って、二人は笑った。ノォトは声は出さなかったが、口元だけ歪めて笑う。
その笑顔が不敵に見えたのだろう。ドヴェルグたちがわずかに、恐れをなしたのがわかった。
「ノォト、お前が巨人を討て」
「言われずとも」
ノォトはエイトリの言葉に頷いた。魔剣を鍛え直すにあたって、元よりそういう約束だった。
「俺は魔剣の鍛錬を手伝う。なに、あと少し、ノォトが打って形にすればいい。そのとき、魔剣は自ずと目覚めるさ」
「簡単に言ってくれる。だが、やろう」
「柄だとかは気にするな。お前は刃を鍛えることだけを考えろ」
「……感謝する。陣頭指揮はどうする?」
「私が執るわ」
ノォトの問いに、フィオネが言った。彼女は腕を組んで、自信ありげな顔をしている。こういうときの彼女はまさに無敵だとノォトは知っている。
「森といえば、私の庭よ。ドヴェルグより知り尽くしてるんだから。それに、森を荒らされて私が腹を立てないわけがないでしょう?」
「違いねえな。ここにいる野郎どもを好きに使え。なに、エルフでも美人な嬢ちゃんの言うことなら聞く現金なやつらだよ」
「俺のグラニも貸そう。フィオネなら、任せられる」
エイトリとノォトがそう言うと、フィオネが少しだけきょとんとした顔をする。そして嬉しげに、少しだけ照れて笑って見せた。
「なんかいいわね、こういうの」
フィオネはノォトに耳打ちをする。そうだな、とノォトは思った。
これは、ただ一時の共同戦線。巨人と同じ敵を持ったがゆえの共闘である。終わってしまえばきっと、エルフとドヴェルグは元の険悪な仲に戻り、人も彼らとは隔絶し人同士の戦いへと戻っていくのだろう。
だが、ノォトに、フィオネに、エイトリに、あるいはここにいるドヴェルグたちには残るものがあるはずだ。種を越えて手をとって戦ったという記憶が残るはずなのだ。ノォトにはそれが、大切なもののように思えてならなかった。
「よし、作戦はこうだ。エルフの嬢ちゃんが前線で指揮。巨人がある一定の線を越えたら仕掛けて、時間稼ぎをできる限りしろ。なに、一日もかかりはしない」
「やってみせるわ。エルフの誇りにかけてね」
「ノォト、お前が巨人討伐の要だ。魔剣を鍛えろ。出来上がらなかったら、俺らはみんなで大っ嫌いな冥府の女神に抱かれることになるぜ?」
冗談めかして言うが、それこそ冗談ではなかった。
皆がノォトを見つめる。言葉を待っているのだ。少しだけ顔を見渡す。
「悪いが、俺は死を恐れない。それも運命というなら受け入れよう。だが、そう簡単にこの命、くれてやるつもりはない」
ノォトは低い声で、しかししっかりと響くように言った。




