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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
剣の歌
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凍り降りの洞窟(7)

 ノォトは思わず、目を剥いた。そして知る。この人狼がどれほどまでに、自分を殺したいのか。理由はわからない。けれども、彼の抱いている怨念は並大抵のものではない。

 剣で迎え撃とうにも、この大ぶりの剣では人狼の爪には間に合わないだろう。であれば躱すしかないが、宙に浮いているのでは動くこともままならない。

 まさに万事休すだった。ノォトは歯噛みしながら、爪を見た。

 振り下ろされるそのときだった。矢が一つ降ってくる。それは人狼の爪を弾いた。そしてその腕の隙を縫うように、光る短剣が落ちてきた。フィオネの持つエルフの短剣だ。


(これだけ離れていても、共に戦ってくれるというのか)


 心の底から、フィオネに敬意と感謝を送った。万全の状態でないにも関わらず、援護の弓矢を放ち、さらには戦うための武器すらも与えてくれる。彼女の胆力や決断力は、ノォトのそれをはるかに超えている。

 ノォトは短剣を手にとった。光り輝く短剣の柄には温かさが残っていた。そのことに少し笑った。彼女が側にいるような気がした。けれども容赦なくノォトは短剣を人狼の肩へ突き刺した。

 悲鳴をあげる人狼。痛みからか、涎を撒き散らしながら首を振っている。しかしその痛みを受けてなおも、ノォトにその牙を向けていた。何度も何度も、噛みつこうとしてくるたびに、ノォトは短剣を深く深くへと刺した。

 落下しながら、二人は体を入れ替え続けた。上へ下へと、自由の利かない宙で戦う。

 拳を使って人狼の牙を避け続けた。人狼も諦めずに、かかんに攻めてくる。恐怖を知らない二人は、落下しているその状況ですら相手を討つことしか考えていなかった。

 やがて短剣が折れた。ノォトの力に耐えられなかったのだ。それとともに、込められていた魔力が行き場をなくして爆発する。その爆風はノォトを襲ったが、それ以上に短剣を刺されていた人狼は爆発の煽りを受けた。

 吹き飛ばされたノォトと人狼は離れることを余儀なくされた。咄嗟にノォトは人狼の腹を蹴飛ばす。谷の壁にノォトは打ち付けられたが、人狼はそのまま落下していくのが見えた。

 それは他人事ではない。ノォトは剣を壁に突き立てる。落下する勢いは止めるために。ブロックの鍛えた剣が悲鳴をあげていた。火花を散らして、岩壁を削っていった。


「く、ううううっ」


 唸り声をあげる。剣に、腕に、体に、耐えろと言い聞かせる。この深い底へと落ちていけば、ただでは済まないだろう。ヘルの言葉が、頭をよぎった。彼女の元に行くなど考えたくもなかった。そのとき、戦乙女のことを思い出す。あの戦いの日に現れた者ではなく、夢で見た甲冑の戦乙女のことだった。

 一瞬が長く感じられたが、それも途中までだった。岩に突き立てていた剣が折れる。限界を迎えたのだった。時間が急に、早く流れ始めた。

 いかなノォトであっても、谷の底へ落ちるという経験は初めてだった。遠くから自分の名を呼ぶ声が聞こえるも、だんだんと小さくなっていく。やがては暗黒が視界を飲み込む。何も見えなくなっていく。落下する感覚だけが頭の中を支配した。

 大きな音をたてて、ノォトは何かに叩きつけられた。一瞬だけ意識が飛び、冷たい気配と痛みでまた目覚める。全身を打ったような感覚がするも、思っていたものと違う。どうやら谷底は川になっているようで、一気に沈んでいく感覚がした。全身の鎧を脱ぎ捨てようとするも、突然空気を失ったノォトは息をすることもままならなかった。

 果たして、この川はどこへ続いているのだろうか。元はきっと、ニブルヘイムなのではないだろうか。そんなことしか思うことができずにいた。手を天に伸ばすも、救いの手は降りてこない。


(フィオネが落ちるよりはましか)


 そんなことを思った。為す術もなくノォトは流されていく。ここで死ぬ。そんな思いがあった。途方にくれたまま、ノォトは再び意識を手放してしまった。

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