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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
剣の歌
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凍り降りの洞窟(6)

 ノォトが剣を構えると魔狼が周りを囲んだ。橋を背に預けて、切っ先を向ける。

 魔の狼たちはノォトを見ながら喉を唸らせる。涎を垂らし、襲うのをいまかいまかと待っている。ノォトは気を抜けば命がないことをわかっている。代わりに、隙さえ見せなければ彼らは襲ってこない。

 じりじりと、空気が焦げていく。両者の間にある空気が、それぞれの緊張から熱を帯びていった。

 やがて痺れを切らしたのか、魔狼の一匹が飛び出した。ノォトは少し迷った末に、避けることを選ぶ。

 続いて、他の魔狼がノォトに迫る。剣が翻った。交錯したときに、その前足を切り落とした。大ぶりの剣は、その鋭さで以って肉と骨を断った。

 そんな感動もつかの間、魔狼の猛攻は続いた。ノォトはかわし、弾きながら、狼たちを次々とあしらっていく。

 そして隙をうかがっていた人狼が、いよいよ牙を剥いた。魔狼たちを抑え、ノォトの前に立つ。二足で立つ獣たる彼は、その牙を覗かせてノォトを威嚇いかくした。

 動じず、ノォトは剣を構える。肩に担ぐ構え。人と戦う武器で、獣と戦うための型。牽制など必要ではない。ただ一撃を入れるためのもの。


「来い」


 ノォトは短く、そう言った。言葉を交わすことは叶わない。だが、自分たちは戦士だ。己の得物さえあれば、会話は十分だ。

 人狼がかき消える。とっさに上半身を引いた。短剣のような爪がノォトの目前に現れた。体の姿勢を低くし、突進してきたのだ。

 とっさに脚が出た。人狼の体を蹴飛ばし、距離を取る。今度はノォトが仕掛けた。小細工なしの一閃。剣に重なるように、爪が動いた。激しい音が鳴り響く。火花が散って、それぞれが後ずさった。

 お互いを見て、もう一度迫った。人狼の俊敏さは圧倒的であるが、こうも狭い場所であればその差はほぼ無になる。

 剣を振るい続けるノォト。この剣はノォトに全力を出させていた。ブロックの鍛冶師としての腕前と、ドヴェルグの持つ工房がいかに優れているかを思い知らされるほどに。

 そしてそれは、ノォトを前に進ませる動機にもなった。この先にはこれほどの技を持つ者と、これほどの剣を鍛える炉がある。魔剣の再生が、できる。

 思考をそこまでにし、追いやる。目を細めて、戦いに集中し始める。

 ついに剣と爪は、十を数えるほどに交わった。一進一退の攻防が続いた。架け橋の上へと戦いの舞台が移っていく。不安定な足場で、ノォトは力をこめた踏み込みができず、人狼もまた地の利を得ることができないでいる。

 互いに決め手が欠けている。だが、その中で見えてくるものがあった。


「なるほど、これは」


 ノォトは少しずつ、この人狼の動きに慣れてくる。

 人狼との戦いは戦場ではまず見ない、短剣の術を思わせた。細かい手数と、身のこなしからこちらの剣を封じてくる。獣のような荒々しさの中で、芯のある術理をノォトは感じ取っていた。


「ただの戦士では、お前には到底敵わないだろう。獣でありながら戦士たるお前には。認めよう、お前はいままで戦った誰よりも強い」


 人狼は獣としての力と、剣の術を合わせた我流の戦い方でノォトを翻弄する。けれども、それもここまでだ、とノォトは迫った。術を見破ってしまえば、そこには崩す術もあるというのがノォトの戦いにおける理だった。それこそが戦場において、ノォトが絶対の自信を持ち、恐れを知らずに飛び込める理由であった。

 構えを変える。手先の動きを細かくするために、剣を正面へと向けた。

 尖らせた感覚が、爪の動きを見破っていく。ノォトは大ぶりの剣で、その一振りを弾き、あるいは躱していく。ここが洞窟の中であり、目の前にいるのは人ならざる者であるということを忘れそうになるほどの高揚感があった。

 相手の間合いに入らないように、大ぶりの剣という特性を活かしていく。けれども、そろそろ決着をつけるころだろう。

 ノォトは間合いを一気に詰めた。剣を大きく振りかぶり、必殺の一撃を放つために。

 だが、それよりも早く。

 人狼がノォトへ迫った。まるで恐れを知らないように。どんと、腹に衝撃が走った。二人は衝突するも、先に駆け出した人狼の力が優っている。勢いあまって、背中から飛んでいく。その身が宙に投げ出された。


(しまった……!)


 落ちていく先は、谷の底。そして組みついている人狼は、自らも落下しているのにもかかわらずその腕を大きく振り上げた。

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