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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
剣の歌
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凍り降りの洞窟(1)

 ノォトとフィオネはまっすぐ北東へと向かっていった。森の中の旅路は、ときに進むべき方向を見失いそうであったが、フィオネの感覚はとても優れており、すぐに進むべき方を指し示した。

 いくつかの困難はあったが、概ね順調と言っていい。このままなら、あと半日もあればイマルタの洞窟に到着する。そうすると少しの安心感と、未知の恐怖があった。

 洞窟、というものをノォトは知らない。城下でほとんどを過ごし、遠出しても行軍のときだけである。獣は、植生は、あるいは洞窟そのものの作りはどうなっているのか。気になることはたくさんある。


「洞窟での私には、あまり期待しないでね」


 珍しく、フィオネは弱った声でそう言った。グラニの背にまたがった二人。フィオネは後ろに座っていた。

 ノォトが首をそちらに向けると、彼女はいつもの笑顔だった。


「土の中とか、苦手なの。全力を出せないから、お願いね。あ、火の番はするわ。グラニの背でだけど」

「…………」


 ノォトはしばらくフィオネを見て、再び前を向いた。無視するな、とノォトの背中をフィオネは叩く。


「エルフはね、木々や水の側じゃないと力がでないの。それも日の光を浴びたね。地下になんか行ったら、もうだめ」

「魔術はどうだ」

「まったく使えないわ」


 どうしてか胸を張って、フィオネは言った。そうか、とだけ答えてノォトはグラニの足を進める。

 洞窟の中では自分の力のみが頼り、ということになる。いままではそれが当たり前だったのに、このとき限りは心細く感じた。


「洞窟を抜けるだけなら訳無い、と思いたいところだが」

「そうはいかないでしょうね」


 二人はそんなことを話しながら、森を進んでいく。木々の間から大きな山が、先に見えた。あの山々が氷鉾の山脈である。その麓まですぐに行ける洞窟がこの地下にあるらしく、二人はその入り口を探していた。

 フィオネが、ふっと顔を上げた。ノォトもすぐさま、構える。だんだんと、フィオネの態度からなにが起こっているのか把握できるようになっていた。彼女が顔を上げるということは、何か嫌なものが近づいてきているということだ。


「くる……これは、まさか」


 そこまでフィオネが言ったとき、ノォトもまたその正体を掴んでいた。

 遠くから大きな足音。続いて振動。大きな何かが激しく動いている。それも、こちらに近づいてきている。明確な敵意をもって。


「ノォト!」

「わかってる! しっかり掴まれ、振り落とされるぞ!」


 ノォトはグラニを駆る。二人を乗せているが、グラニはよく走った。森という足場の悪い中でもお構いなく進んでいく。

 けれども、背後から迫ってくるものはそれを超える速さで迫ってきていた。木々をなぎ倒し、地面をえぐって、自分が進むのを阻むものはすべて弾き飛ばす。止まらぬ波となって、それはきた。

 ふと、振り返る。一瞬だけ見えたのは、燦々(さんさん)と輝く金の瞳。巨大な黒い影。それは人の形をしていたが、おおよそ人とは違うものであることはすぐにわかった。あれは巨人だ。自分たちが追っている、森の災厄である。

 平地であるならば、まだグラニの方が速いだろう。しかし、森の中ではグラニは本調子では走れないし、ましてや二人も乗せているのだから、追いつかれてしまうのは時間の問題だろう。

 グラニは上手く、木々を避けて、根を越えていく。自分の意思で判断していくグラニは、常にもっとも走りやすい道筋をたどっていった。

 フィオネが揺れる馬上であるにもかかわらず、弓を前へと突き出した。


「おい!」

「大丈夫よ」


 そう言って、普通の矢を取り出す。狙いを定めてから放つまで、まばたきをする間もなかった。飛んで行った矢は、不安定な足場から放たれたとは思えないほどまっすぐに、吸い込まれるように巨人の頭、瞳へと向かっていった。

 だが、巨人は首をわずかに引いてその矢を避けてみせた。ほとんど速度も落とすこともなかった。


「えらく器用なやつだ。芸達者ってやつだな」

「感心してる場合じゃないわ。この調子が続くなら先に矢がなくなる。追いつかれるのも時間の問題ね。洞窟に逃げ込んだ方がいい」


 ノォトは周囲に目を配らせた。洞窟の入り口を探す。だが、走る馬の上では前方しか上手くみることができない。ましてや、森の中である。上手く見つけられるわけがないが、少しでも賭けるべきだとノォトは思った。

 すると、グラニがわずかに首を振って、方向を変えた。その先には池があり、そしてその脇には穴があった。穴、というよりも神殿のようでもあり、誰かが作ったであろう、切り出された石の入り口が整備されていた。


「フィオネ」

「えっ、きゃあっ!」


 ノォトはフィオネを抱え込むようにして、身を小さくした。入り口の穴は馬一頭がどうにか潜れる程度しかない。こうする他になかった。

 狭い入り口にグラニは臆することなく、そのままの速さで通っていく。大きく跳躍すると、どうにか潜り抜けることができた。

 続いて、巨人の腕が伸びてきた。腕はノォトたちを探すように地面を叩いたが、見つからずそっと手を引いた。

 ノォトはグラニを止めて、振り返る。入り口から大きな金の瞳が見えた。その瞳はノォトと視線を交わすと、離れていった。

 ようやく安心したのか、フィオネはため息をついた。


「あれが、巨人? あんな大きいのにあの速さ、そしてあの力。大したものよ。でも入ってこれない、ということは体の大きさを自在に変える力、というわけではなさそうね」


 冷静に、フィオネはそう言った。

 あれがいまの自分たちの敵。戦争で戦ったなによりも違っていて、そして強大だった。

 果たして勝ち目はあるのか。魔剣を手に入れたところで、勝てるのか。

 一抹の不安がありながらも、ノォトは、いまは進むしかないと思った。

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