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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
剣の歌
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エルフの里(3)

 ノォトが連れてこられたのは、一つの空き家だった。木でつくられた家は、寝台と小さな机が一つのみ置かれており、とても簡素だった。

 この部屋に押し込められたノォトは、一人にされる。これからどうなるかはフィオネに託されている。彼女の交渉次第で、いかようにもなってしまう。

 もちろん、いざ殺されてしまうことになっても抵抗する気ではいる。負けるつもりもない。だが、戦わないに越したことはないし、願うことならばエルフを手にかけたくない。

 そう願ったところで、仕方ないことはわかっている。ノォトは少し自嘲した。

 しばらくは一人で過ごした。この家は、日が差さない上に窓枠のせいで外を見ることもできない。時の感覚がおかしくなりそうだったが、日が暮れるころになっただろうとは思った。

 ため息をついて、ぼうっとしていると、扉の前に気配を感じた。


「誰だ」


 フィオネでなければ、敵である。少なくともいまのところは。

 そう思いながらノォトは声をかけた。びくり、と向こうで反応がある。少なくとも戦いの心得のある者ではないようだった。


「お食事をお持ちしました」


 そう言って、そっと扉を開けたのはエルフの女性だった。入ってきたその姿を見て、少しだけノォトは驚いた。フィオネとも違う柔らかい女性らしい雰囲気を持っており、けれども同じような美しさを見せていた。

 手には、いくつかの果実が握られていた。それをおずおずとノォトに差し出す。


「とって食ったりはしない。エルフというのは小食なのか?」


 ふと、フィオネを思い出して言った。彼女はあまり食にこだわりがないようだった。


「人と比べれば、少ないかと」

「なるほど」

「気になるのですか」

「この通り、暇を持て余している」


 ノォトがそう言うと、エルフの女は笑った。くすくすと、上品な笑いである。


「失礼しました。囚われの身であるのに、そのようなことを仰られるなんて」


 少し馬鹿にされたような気もしたノォトだったが、腹を立てても仕方ないと思い、ため息だけ吐いた。

 女はひとしきり笑って、そして言った。


「ノォト様、とお名前は伺ってます。人の戦士のかがみのような方と夫が言うものですから、恐ろしい方かと思っていましたが、こんな愉快な方だなんて」

「夫? まさか」

「はい。貴方を捕らえた者が私の夫、オルキスです。私の名前はケルル」


 ケルルと名乗った女のエルフは、少し頭を下げた。ノォトもつられて、頭をさげる。

 さっきとはうって変わってにこにこした笑顔を浮かべるケルルは、それからは饒舌だった。


「このようなところに押し込めて申し訳ありません。いましばらく、辛抱くださいませ」

「明日の命もどうなっているかわからぬ者に、言う言葉ではないと思うが」

「村の者はみな殺気だっておりまして。貴方がたも仰られている巨人に、森のあちこちを壊されています。ただ、ことはそれだけではありませんから」

「それだけではない?」

「……人の間ではまだ、知られてないこと。いいえ、知らずともいいことです。お気になさらないよう」


 尤も、そのことがオルキスたちが貴方がた人を、軽蔑している理由なのですが。

 ケルルはそう言った。ノォトは無性に腹が立った。理由もわからぬことで矢を向けられ、そしていまもこうして幽閉されているなど、馬鹿げている。そう思ったところで、暴れても仕方ないからいまは黙るしかできなかった。


「それは、俺も知っていいことなのか」

「悪いことはないでしょう。むしろ、知るべきことです。ですが、それは私の口から語られるべきことではありません」


 厳然としてケルルは言った。さすがは、エルフの戦士の妻だとノォトは感心した。己の果たすべき役割をまっとうしている。


「ですけど、心配は無用です。ふふっ」


 今度は少女っぽい笑いをケルルは浮かべた。少しだけ、母に似ているように思えた。


「ノォト様はフィオネ様に想われているのですね」

「そんな関係ではない」

「はい、わかっていますとも。けれども、フィオネ様は『ノォトに何かしたら、覚えてなさい!』だなんておっしゃってまして。それはもう、微笑ましいものでした」


 どうしてか、その話を聞いて、ノォトもまた気恥ずかしくなる。

 そして悟る。いまのこの状況……ケルルが食事を持ってきたり、誰かが何かの仕打ちをしてくることもないのは、フィオネがそうして言ってくれているからなのだと。

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