愉快な友人(3)
「少しだけ、話に付き合ってくれないか」
声音に悲しみを込めて、ブロックは言った。悲しいときに、何かを語りたくなることもある。ノォトはなんとなく、そう思った。
「さっきも話した通り、俺はドヴェルグの中でも変なやつでな……ふと、こうして旅をしたくなるときがあって、勝手に飛び出しては弟に怒られるんだがな」
がはは、と軽快に笑った。ノォトはなにも言わず、顔も動かさず、ブロックの話を聞いている。
「本当はよくないことなんだが、鉄の鍛え方ってのをな、少しだけ教えて回ってるんだ。お前ががれきの下から助けてくれたあいつも、その一人だった」
「助けてなど」
「感謝してるさ、あいつも。そして俺もだ。いやいや、そんなことはいい。話を戻そう。あいつは俺が旅をして少ししてから、酒屋で出会ったんだ。最初は商売の仲だったが、行く先が同じでな。それからはずっと一緒だったんだ。ああ、酒屋で出会ったというのは、まずあいつが……」
それからというものの、ブロックは彼との思い出を語った。どうやって出会い、どんな旅をしていたのか。懐かしむように、捧げるように。ノォトは相槌をうちながら、話を聞いていた。
ブロックの話には、温かさを感じた。彼ら二人が楽しく旅をしているのだと、感じられるほどに。
「なあ、お前の旅は楽しいか?」
ブロックに問われ、ノォトは考えた。
自分もこんな風に語ることができるのだろうか。フィオネとの旅を、楽しく。
そもそも、話す相手だって限られているし、楽しむための旅ではないのだから。
だが、いつか。
いつか語る日がくると思う。そう思うと、少しだけ胸に思いが湧いてきた。
「そうだな」
「なにか目的のある旅なのか? 麗しいエルフと二人旅、なんてのはなかなか乙なものじゃないか。だが、新婚旅行という雰囲気でもない」
「俺とあいつの目的は、あの巨人を倒すことだ」
「巨人を……!?」
驚きをあらわにするブロック。ノォトは頷いた。
「まさか、あの巨人をか!?」
「決して敵討ちなどではない。ただ俺とあいつは、己の為したいことがあるために巨人を追っている」
「そうか、そうか……」
ブロックは酒の入っていた杯に視線を落とした。杯の中にはもう、何も入っていなかった。
そしてその杯を脇に置いて、手を差し出す。「手を見せてみろ」とブロックは言った。ノォトは無言で己の手を見せた。
「……ほう、興味深いな。綺麗な手をしている。努力もさることながら、たくさんの才を持っている手だ。剣の使い手だな? それも相当の腕前だ。敗北を知らぬと見える。これは、お前もまたそうか、鍛冶をするのだな。戦士と鍛冶、二つの道を歩んでいる。鍛冶の腕ならドヴェルグにも劣らぬ。面白いやつだ。自らが鍛えた剣で、戦場へ行くというのか」
今度はノォトが驚く番だった。ただ手を見ただけで、そんなにもわかるものなのかと。
手を離したブロックは、にやりと笑った。
「見てきた数が違うさ。だが、こんなやつは初めてだ。本当の目的を言ってみろ。その腰にあるものも関係しているのか?」
腰にあるもの、と言われてハッとした。ノォトは腰の袋を取り出し、ブロックにその中を見せた。
出てきたのは二つに折れた魔剣。折れていてもその存在感は大きく、並ある剣を圧倒する。
ドヴェルグであるブロックは、すっかりその目つきを職人のものへと変えていた。魔剣の破片を手にとっては、いろんな角度から見定めている。
「見事な剣だったのだろうな。神の魔力が宿っている。このルーンも、勝利を刻むための力がある」
「俺はこの剣を再生させたい」
「この剣を……」
ブロックは少し考えるそぶりを見せる。そして胸元からなにがしかの紙を取り出すと、それをノォトに渡した。
「これは?」
「俺の手紙だ。これを持って、ここから北へと向かうといい。巨人もそっちに行ったから、追うつもりで行くといいだろう。イマルタの洞窟を抜けて氷鉾の山脈の麓まで行けば、ドヴェルグの国がある」
「なんだと」
スヴァルトアールヴァヘイムと呼ばれるドヴェルグの国があることは知っていた。だが、それがどこにあるかは長らくわからなかった。少なくとも、王たちは知るよしもない。賢者たちや魔法使いたちならばわかる者もいるだろうが、ノォトはまったく知らなかった。
「明かしていいのか」
「お前はそれを知ったところで、悪さはできないだろう。その代わり、必ず剣を再生させ、巨人を倒してくれ。かの巨人と言えど、この剣が輝きを取り戻せば必ず倒せる。そしておそらくだが、この剣を再生できる炉を持つのはドヴェルグだけだ」
ブロックには有無を言わさぬ迫力があった。ノォトは手紙をもらった。
次いで、ブロックは剣を差し出した。
「こいつも持っていけ。剣を持たぬ剣士など、笑い話にもならない」
ノォトは剣を受け取って、抜いた。少し大振りの剣だ。ドヴェルグが持つには大きすぎるだろう。不思議と、ノォトの手には馴染んだ。鋼の輝きは眩しく、ノォトが鍛えたもの以上の業物であることがうかがえる。旅に持ち歩くにはもったいないとさえ思える剣だった。
「……何から何まで、かたじけない」
「いいさ。お前、名前は?」
「ノォトだ」
「よろしくな、ノォト。俺はブロック。国についたら、俺がよろしくと言っていたと弟のエイトリに伝えてくれ」
ブロックはそう言って、立ち上がった。そしてノォトの手にあった杯を見て、少し酒が残っているのを確認する。
「舌に合わなかったか? まあ、ドヴェルグの酒は人には少し強いかもしれないが」
「いや」
ノォトは杯を一気に呷る。おいおい、とブロックはつぶやいた。
そして杯をブロックに突き出すと、ノォトは真顔で言った。
「悪くない酒だった」
本当はあまり美味しくはなかった。けれども、願わくばいつかまた。




