表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
剣の歌
17/102

愉快な友人(3)

「少しだけ、話に付き合ってくれないか」


 声音に悲しみを込めて、ブロックは言った。悲しいときに、何かを語りたくなることもある。ノォトはなんとなく、そう思った。


「さっきも話した通り、俺はドヴェルグの中でも変なやつでな……ふと、こうして旅をしたくなるときがあって、勝手に飛び出しては弟に怒られるんだがな」


 がはは、と軽快に笑った。ノォトはなにも言わず、顔も動かさず、ブロックの話を聞いている。


「本当はよくないことなんだが、鉄の鍛え方ってのをな、少しだけ教えて回ってるんだ。お前ががれきの下から助けてくれたあいつも、その一人だった」

「助けてなど」

「感謝してるさ、あいつも。そして俺もだ。いやいや、そんなことはいい。話を戻そう。あいつは俺が旅をして少ししてから、酒屋で出会ったんだ。最初は商売の仲だったが、行く先が同じでな。それからはずっと一緒だったんだ。ああ、酒屋で出会ったというのは、まずあいつが……」


 それからというものの、ブロックは彼との思い出を語った。どうやって出会い、どんな旅をしていたのか。懐かしむように、捧げるように。ノォトは相槌をうちながら、話を聞いていた。

 ブロックの話には、温かさを感じた。彼ら二人が楽しく旅をしているのだと、感じられるほどに。


「なあ、お前の旅は楽しいか?」


 ブロックに問われ、ノォトは考えた。

 自分もこんな風に語ることができるのだろうか。フィオネとの旅を、楽しく。

 そもそも、話す相手だって限られているし、楽しむための旅ではないのだから。

 だが、いつか。

 いつか語る日がくると思う。そう思うと、少しだけ胸に思いが湧いてきた。


「そうだな」

「なにか目的のある旅なのか? 麗しいエルフと二人旅、なんてのはなかなか乙なものじゃないか。だが、新婚旅行という雰囲気でもない」

「俺とあいつの目的は、あの巨人を倒すことだ」

「巨人を……!?」


 驚きをあらわにするブロック。ノォトは頷いた。


「まさか、あの巨人をか!?」

「決して敵討ちなどではない。ただ俺とあいつは、己の為したいことがあるために巨人を追っている」

「そうか、そうか……」


 ブロックは酒の入っていた杯に視線を落とした。杯の中にはもう、何も入っていなかった。

 そしてその杯を脇に置いて、手を差し出す。「手を見せてみろ」とブロックは言った。ノォトは無言で己の手を見せた。


「……ほう、興味深いな。綺麗な手をしている。努力もさることながら、たくさんの才を持っている手だ。剣の使い手だな? それも相当の腕前だ。敗北を知らぬと見える。これは、お前もまたそうか、鍛冶をするのだな。戦士と鍛冶、二つの道を歩んでいる。鍛冶の腕ならドヴェルグにも劣らぬ。面白いやつだ。自らが鍛えた剣で、戦場へ行くというのか」


 今度はノォトが驚く番だった。ただ手を見ただけで、そんなにもわかるものなのかと。

 手を離したブロックは、にやりと笑った。


「見てきた数が違うさ。だが、こんなやつは初めてだ。本当の目的を言ってみろ。その腰にあるものも関係しているのか?」


 腰にあるもの、と言われてハッとした。ノォトは腰の袋を取り出し、ブロックにその中を見せた。

 出てきたのは二つに折れた魔剣。折れていてもその存在感は大きく、並ある剣を圧倒する。

 ドヴェルグであるブロックは、すっかりその目つきを職人のものへと変えていた。魔剣の破片を手にとっては、いろんな角度から見定めている。


「見事な剣だったのだろうな。神の魔力が宿っている。このルーンも、勝利を刻むための力がある」

「俺はこの剣を再生させたい」

「この剣を……」


 ブロックは少し考えるそぶりを見せる。そして胸元からなにがしかの紙を取り出すと、それをノォトに渡した。


「これは?」

「俺の手紙だ。これを持って、ここから北へと向かうといい。巨人もそっちに行ったから、追うつもりで行くといいだろう。イマルタの洞窟を抜けて氷鉾の山脈の麓まで行けば、ドヴェルグの国がある」

「なんだと」


 スヴァルトアールヴァヘイムと呼ばれるドヴェルグの国があることは知っていた。だが、それがどこにあるかは長らくわからなかった。少なくとも、王たちは知るよしもない。賢者たちや魔法使いたちならばわかる者もいるだろうが、ノォトはまったく知らなかった。


「明かしていいのか」

「お前はそれを知ったところで、悪さはできないだろう。その代わり、必ず剣を再生させ、巨人を倒してくれ。かの巨人と言えど、この剣が輝きを取り戻せば必ず倒せる。そしておそらくだが、この剣を再生できる炉を持つのはドヴェルグだけだ」


 ブロックには有無を言わさぬ迫力があった。ノォトは手紙をもらった。

 次いで、ブロックは剣を差し出した。


「こいつも持っていけ。剣を持たぬ剣士など、笑い話にもならない」


 ノォトは剣を受け取って、抜いた。少し大振りの剣だ。ドヴェルグが持つには大きすぎるだろう。不思議と、ノォトの手には馴染んだ。鋼の輝きは眩しく、ノォトが鍛えたもの以上の業物であることがうかがえる。旅に持ち歩くにはもったいないとさえ思える剣だった。


「……何から何まで、かたじけない」

「いいさ。お前、名前は?」

「ノォトだ」

「よろしくな、ノォト。俺はブロック。国についたら、俺がよろしくと言っていたと弟のエイトリに伝えてくれ」


 ブロックはそう言って、立ち上がった。そしてノォトの手にあった杯を見て、少し酒が残っているのを確認する。


「舌に合わなかったか? まあ、ドヴェルグの酒は人には少し強いかもしれないが」

「いや」


 ノォトは杯を一気に呷る。おいおい、とブロックはつぶやいた。

 そして杯をブロックに突き出すと、ノォトは真顔で言った。


「悪くない酒だった」


 本当はあまり美味しくはなかった。けれども、願わくばいつかまた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ