愉快な友人(2)
男を腕に抱いたまま泣いているブロックを、ノォトはそっとしておくことに決めた。
振り向けば、フィオネが遠くに立っていた。むすっとした表情を見て、彼女の考えを察する。
「……やはりだめか、ドヴェルグは」
近づいていって、ノォトが言った。フィオネは顔を背けた。
「別に、ノォトが誰と話そうが、誰を助けようが知ったことじゃないわ」
「拗ねてるのか」
「誰が拗ねてるですって!」
お前だ、と言いたくなるのをノォトは堪えた。
「しかし、ひどい被害だな」
「むっ……。そうね、これが巨人のやることなのよ。森だけでなく、街まで襲うなんて。もはやエルフにとっても、人にとっても共通の、頭の痛い問題というわけね」
一刻も早く、どうにかしないとね。フィオネはそう言った。
途端に、ノォトは自分のするべきことの重さを感じた。無力なまま生き絶えていく者……日の目をみることもなく、戦乙女の加護もなく死んでしまう。それは悲しいことなのだろう。
「ねえ、ノォト。さっきの力はなに?」
「力?」
「がれきを持ち上げてたでしょう?」
ああ、とノォトは頷いた。確かに、尋常ではない力のように映っただろう。人であれ、エルフであれ、そしてドヴェルグであれ、よほど重いものを持ち上げるのは無理な話だ。
「少し、こつがある」
「そうなの?」
「そうだ。こうやってだな……」
ノォトは身振り手振りで、どうにかして力を込める方法を伝えるべく試みる。自分でもうまく言葉にして伝えることができないが、どのようにすればいいかわかるから、伝えるのは楽なはずだと思った。
だが、フィオネは首をひねるばかり。やがて彼女は諦めるように首を横に振った。
「わからないわよ、そんなんじゃ。説明が下手なのか、私たちには理解ができないだけなのか」
そう言われて、ノォトは少しだけ落ち込んだ。少しだけだが。
* * *
やがて、日が暮れてくる。救出の作業は夜通し行うようで、人々は篝火をたいた。ノォトとフィオネも手を貸し、埋もれてしまった者を助け出し、あるいはその死を見届けた。
話を聞いている限り、この街が襲われたのは夜が明ける前だったということ。襲ったものの姿は、暗くてあまりよく見えなかった。だがそれは巨大な人のように見え、破壊の限りを尽くして、どこかへ行ってしまったと。
街から北へと向かったことだけが、その痕からみて取れた。だがその実際の大きさも、目的も、わからないままであった。
ノォトはその様から、巨人のことを思い浮かべる。力はノォトと比べるべくもないほどに強大であることは確かだが、それしかわからなかった。
少ない食料を、ノォトたちは振る舞った。グラニのいる自分たちはすぐに食料は集められる。だが、ここにいる者たちはそうではない。街に残された食料も少なく、わずかな足しにしかならなかったが、彼らは口々に感謝の言葉を述べた。
ノォトとフィオネが粥を口にしていると、唐突に会話をやめてフィオネが立ち上がった。ノォトが不思議に思い立ち上がろうとすると、腕をつかまれる。
振り向けば、腕をつかんでるのは小さな人影。ドヴェルグのブロックであった。
「よう、さっきはありがとな。どうだ、一杯」
ブロックは手に酒を持って、言った。ノォトは少しだけ驚く。
「そんなもの、どこにあった」
「俺の持ち物だ。誰にも文句は言わせねえよ。本当はめでたいことがあったときに飲もうと思ってたんだけどな」
どかっと座って、ブロックはそう言った。差し出されたぼろぼろの杯をノォトは受け取った。中に入ってるのは、濁った酒だった。
ブロックは酒を飲むと、息を吐いた。
「さっきの嬢ちゃんは、もしかしてエルフかい?」
「そうだ」
「なるほどなあ。人といるエルフなんて珍しいもんだと思って見てみれば、街のやつらを助けてるなんて、ひっくり返りそうだったぜ」
かかっ、とブロックは笑った。ノォトも酒を一口飲む。
「連れが失礼をした」
「なあに、気にしちゃあいないさ」
「お前は、エルフは平気なのか」
「俺はそんなことねえが、ドヴェルグのだいたいはエルフが嫌いだな。ついでに言えば人も神も好いちゃいない。だが、こうしているとそんなこと小さなことだなと思うな」
ブロックはそう言った。確かにな、と頷く。こうして巨人に破壊された街を見ると、人もエルフもドヴェルグも、大差はないように思えてきた。
「俺は旅人でな。端的に言えば、偏屈で陰惨なドヴェルグの中でも変わりものってことだ。何せ日が弱いのに洞窟から出てるんだからな。なに、俺を参考にしてドヴェルグどもと話したら痛い目を見るぞってだけだ」
ははは、とブロックは笑った。
このドヴェルグは相当におしゃべりのようで、ノォトは少し苦手な部類だと判断した。




