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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
剣の歌
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愉快な友人(1)

言語統一のためドワーフ→ドヴェルグと変更しました。

 ロドワースの街を、まるで巨大な何かが通ったかのように抉っていた。森から伸びている破壊の痕が、まるでなにも目に映っていなかったかのように、街を通っていた。無慈悲な嵐が通り過ぎたかのようだった。

 おおよそ、人の手ではありえぬ惨状に、ノォトは言葉を失った。そして察する。これこそがアルヴァルトが言っていた巨人のもたらした災厄なのだと。


「これは……」

「ノォト、急いで! 襲われてそう時間は経ってない。まだ誰か生きてるかもしれない!」


 フィオネの言葉に頷いて、ノォトはグラニを走らせる。あっという間に丘を下り、街へと降り立った。

 突然現れた二人に気づくことができるほど、そこにいる者たちに余裕はなかった。ノォトとフィオネはグラニから降りると、近くにいた軽い傷を負っている若者に声をかける。

 その若者は、うつろな目をしているが、意識はしっかりあるようだった。二人の顔を見ると、かすかに表情を動かした。


「あんたたち……外から来たのか。あいにくだが、この有様だよ」

「なにがあったんだ。教えてくれ」


 ノォトが言うと、若者は微かに笑う。それは諦めであり、痛々しい笑いだった。


「ちょっと遅かったな。いや、運がよかったって言うべきか。巨人が襲ってきたんだよ。森の向こうからな。あっという間だったよ。中を駆け抜けていったんだ。まるでなにもないかのように」

「やっぱり巨人の仕業ね。ありがとう、傷を癒しなさい」


 フィオネはそう言って、崩れた街中へと入っていく。ノォトもそのあとを追った。

 生き残った者たちが、がれきをどかしていく。生き残った者を探しているのか、まだ使えそうなものを探していくのか。嘆く者も、寝てる者も、死んでいる者も、そこらにあふれている。恨みの言葉が、悲しみの言葉が、祈りの言葉が、あふれている。

 戦場よりも悲惨だ、とノォトは思った。戦えぬ無辜の民が無下に死んでいく。なにもできないままに、何の理由もなく。

 なるほど、アルヴァルトが自分を遣わしたのも理解ができる。これほどの被害を起こすものは、どうにかして止めなければならない。

 領内でこんなことがあちこちで起こっているのだろう。一刻も早く解決しなければならないが、いまは諸国との戦に追われており、巨人については防衛する一方になっているのが現状だ。

 自分に課せられた役割と、己の中にある不条理への怒り。ノォトは思わず、拳に力を込めた。

 火事が起こっていた。火の手が回り、家が一つ燃え上がっている。柱が焼け折れたのか、大きな音をたてて崩れ始める。火の粉が舞って、空に上がった。ノォトとフィオネは立ち止まって、それを見ていた。


「おうい、誰か、手を貸してくれ!」


 声がした。ノォトはその声がした方へと向かっていく。

 そこにいたのは外套を頭にまで被った、ひときわ小柄な者だった。だが、外套からはみ出るほどに生えた立派な髭が子どもではないことを示していた。その姿の特徴に、ノォトは見覚えがあった。鍛冶の種族、ドヴェルグだった。

 見れば、がれきを必死になってどかそうとしていた。ノォトが隣に並ぶと、ドヴェルグは顔を向けた。


「頼む、手伝ってくれ。この下に友がいるんだ」

「俺がやる。離れてくれ」

「一人でか!? 手伝ってくれとは言ったが」

「造作もない」


 ノォトはそう言って、がれきに手をかけた。なるほど、この重さではとてもではないが動かすことはできないだろう。

 力を込めて、持ち上げる。するとがれきが少しずつ動いた。ドヴェルグはおおっ、と言葉を漏らす。

 やがて、足が見えた。もう少しで助けられる。ノォトはそう思い、ぐっとさらに持ち上げた。

 その隙にドヴェルグが、下敷きになった者を助け出した。がれきを下ろすと、ノォトは助け出された者を見る。それは自分と同じ人の男であった。


「おい、しっかりしろ!」

「う、ああ、ブロック、か?」


 ドヴェルグの方はブロックという名らしい。ブロックは男を揺さぶって、声をかけ続ける。


「そうだ! 目を覚ませ、気をしっかりさせろ!」

「はは……僕はもう助からない。でも、よかった。最期をがれきではなくて、日の下で迎えられるなんてな。ドヴェルグにとっては、変な話かもしれないけど」

「そんなことを言うな。大丈夫だ、すぐに……」


 ブロックがそう言うが、男の体から力が失われたのがわかった。それでもなお、声をかけ続けながら男の体をブロックは揺らす。見ていられず、ノォトはブロックの肩をつかんだ。


「わかってる、わかってるさ……だがいまは泣かせてくれ」


 ブロックは泣いた。声をあげて、悔しそうに。痛みを必死に堪えるように。

 こうして泣いている者は、この街にはたくさんいた。だがそれぞれの悲しみがあり、理由があるのだと思った。

 ノォトはその涙を止める術を持っていなかった。涙を流させないための術も。

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