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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
剣の歌
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開拓村(4)

「聞いたことは。見た者はいません。なにせ、やつが歩いた後は何も残りませんから。木々から頭一つ抜けたほどの高さであり、ただ命を食うために歩いていると聞いています」

「なるほど……」

「悪いことは言いません、やつを追うのはよした方がいい。あなた方のためだ」

「いいえ、私は森を守る使命があるの。だから行かないといけないわ」


 アンドレは、フィオネの言葉を聞いてやれやれと首を振って呆れていた。ノォトは手を挙げ、言葉を遮る。


「巨人について詳しく知っている者はいるか。その昔に出てきた、などということは」

「街に行けば知っている者もいるかもしれませぬ。だが、私が生きている間に現れたという話は聞いたことがありませんから、なんとも」


 詳しいことは誰も知らない、ということだろう。詳しいことがわかるのならば、抜け目のないアルヴァルトならすでに知っていて、ノォトに伝えるはずだとも思った。が、自分の足で情報を知ることも重要であるとノォトは知っている。


「承知したわ。ひとまず、街へ向かうことにする。その街の名前は?」

「ロドワースです。馬でいけば、半日で着くでしょう。見送りをしましょう」

「結構よ。お世話になったわ。お肉も野菜も、とても美味しかった。森を愛する貴方たちに幸のあらんことを」


 フィオネは腕を折って胸に掲げる礼をして家を出た。ノォトも礼をして、フィオネのあとを追った。

 二人はうまやへと向かう。そこはいま、グラニを預けていところだった。ノォトはそんなフィオネの肩を掴む。振り向いたフィオネは、不満そうな顔をしていた。


「おい待て」

「なによ」

「グラニは俺の愛馬だ。俺が先に乗る」


 ノォトがそう言うと、フィオネはぽかんとした顔をした。そして吹き出すと、腹を抱えて笑った。


「なに、それ。おかしい、ははっ」

「……変なことを言ったか?」

「だって、馬で妬いてるなんて。おかしいでしょ。いいわ、先を譲ってあげる」


 そう言って、フィオネはグラニの首を撫でた。「お前のご主人様は、とってもけちよ」などと言っている。ノォトは心外だ、と思いながらもグラニの背にまたがった。フィオネがそれに続いて、グラニの背に乗る。

 二人は村をあとにした。彼らの出発はとても静かなもので、気づいた者は手を振ったが、おそらくは村のほとんどの者が二人が出発したことに気づいてないだろう。

 走らせることはなく、ゆっくりと進ませる。それでもただ歩くより、ずっと早い。疲れもとれているようで、グラニは調子がよさそうだった。


「ねえ、ノォト」

「なんだ」

「巨人を倒す、と言ってたけど。その手段はあるの?」

「……どんなものだって、頭を潰せば勝てる」


 フィオネはため息を吐いた。

 それは戦場の道理。ノォトはそういう世界で生きてきた。戦いとは相手の息の根を止めることであり、生半可なことではそれはできない。

 しかし、木々よりも高いと言われてる巨人に、その道理は通じるものではないだろう。


「考えなしね。でも、あんたならやっちゃいそうな気がする。まずは剣を探さないとだけどね」

「そうだな」


 フィオネはなにも言わない。ノォトもまた、黙った。

 ロドワースまでさほど距離はないと言っていたが、それでも村からはだいぶ離れている。物が行き来しているから、道はある程度あるのだが。

 森の中を進むよりかはいい。そう思うことにした。いつもは戦場まで歩いて向かっていたし、労力は大したことない、と思っておく。

 気まずい沈黙が流れた。ノォトは前を見据えていた。フィオネの方を振り向くことなく。少しだけ、口下手な自分の身を呪った。

 しばらくして。フィオネがノォトの肩をつかんで身を乗り出した。ノォトは驚きながらも、グラニの手綱をしっかりと握る。


「どうした」

「見て、あれ!」


 ロドワースはまだ先であるはずなのに、フィオネは焦ったように言った。

 ノォトの目ではまだ見えない。エルフの優れた目ならば見えるのだろうか。グラニの脚を早める。

 じっと目を凝らして、少しする。見えた先には煙があがっていた。それも黒い煙。狼煙にしてもよからぬものであり、そうでなければ何か災難があったということが窺い知れる。


「火事か? ……ともあれ、急いだ方が良さそうだ」

「そうね。グラニ、頑張って」


 フィオネの言葉に応じたかは知らないが、グラニは鳴いた。そして速度を上げて、煙の上がっている方へ向かっていく。

 小高い丘を登る。そこを越えれば、おそらくロドワースに着くはずだった。


「え……」


 眼下に広がった光景に、フィオネは息を漏らした。ノォトもまた、言葉を失う。

 そこにあったはずの街並みは、ことごとくが破壊されていた。

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