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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
剣の歌
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お前は誰だ(1)

 ノォトは夢を見ていた。それは直感的にわかった。だが、夢と割り切ってしまうにはあまりにも真実味があり、そして魅惑的であった。

 見たこともないほど荘厳な館の大広間であった。周りを見れば、何人もの屈強な戦士と、数人の戦乙女がいた。

 目の前にいるのは、どこかでみたことのある男。けれども自分は出会ったことがないはずだ。

 なにせ、その者はオーディンであるはずだからだ。片目のないその男は、悠然と座に座っている。その佇まいからすでに、只者ではないことがわかる。彼が偉大なる大神でないはずがない。

 この館は戦死者の館(ヴァルハラ)に他ならなく、周りの戦士たちもまた英霊(アインヘリヤル)であるに違いなかった。この館で昼の間は戦の腕を磨き続け、夜になれば食と酒に明け暮れる。戦士として理想の生活であった。

 その中心で、ノォトは膝をついている。こうべを垂れて、戦の神であるオーディンに礼をしていた。

 夢であれどノォトは歓喜にうち震える。自分は認められた。彼らの列に並ぶことが許されたのだと。

 もしかすると、これは約束であるのかもしれない。自分の死には英霊たちに並ぶ価値があり、そのために生をまっとうせよという。だとするならば、これ以上の名誉はない。自分は間違っていないという証左にもなった。


 数多の賞賛と羨望を浴びながらも、我が道を進んだ戦士たちの霊。

 全ての父と言われありとあらゆる智を持ちしオーディン。

 そして大神に従い戦士たちの目を奪ううつくしき戦乙女。


 彼らの末席に加わることこそ、すべての戦士の悲願。彼らと共に戦うことこそ、戦場にいる者の名誉である。

 そしてそれは、この世において戦う意味ですらあった。

 ノォトは待った。オーディンの言葉を。その一言は、世界のすべてで最も大切とされるものであるから。預言であり、命令であり、運命である。

 そしてそれこそが、自身を救うものであると信じていた。オーディンが与えたもうものこそが、空っぽの自分を満たしていく。

 オーディンが腰をあげた。隣にすっと立ったのは、これもまた美女であった。果たしてそれはフリッガか、フレイヤかはわからない。だが彼と懇意である女神であるのは確かだろう。余計な詮索は不要だ。


「新たな我が子よ、我が命に従い、我が命をまっとうし、我が命にその生を果たすことを誓うか否か」


 オーディンの言葉が、屋敷の広間に響いた。顔を上げる。そして口を開いた。


「誓おう。この身、この生、この魂はすべて我らが父のものである。その言の一つも聞き逃さず、その言の一つに従おう。我が身は剣であり、盾である」


 表情を何一つ変えることなく、オーディンは頷いた。

 そしてその手に槍を取り出すと、穂先を額に当てる。刻まれていたルーンが輝きだした。


「では、お前に名を与えよう。名を背負い、名とともに生きるのだ。然るべき救いと生を、お前に与えよう」


 オーディンの言葉を聞いて、これから生まれ変わるのだと思った。新しい名とともに、いずれ来る戦いのときを待つのだと。以前の生を忘れ、新たな時を刻んでいくのだと。


「その身は鋼鉄であり、その意味は勝利を刻みしもの。これからお前の名は————」


 そのときだった。浮遊感に襲われる。遠く、遠くへと引き離されていく感覚。

 目を閉じる間もない。上も下もなくなっていた。

 空を飛んでいる感覚とはまさに、このことか。ノォトはふと童心に帰り、けれども気持ち悪さが先だった。上下の喪失は、足をつけるべき地を失うことであり、不安定さは嫌悪感へとつながっていく。

 景色が流転する。空、雲、大樹、湖、山、雪、炎。そして光。たくさんのものが映り、やがて暗闇へと落っこちていく。

 黒の中に浮かび上がるもの。輪郭だけのそれもまた、ノォトと同じように浮かんでいた。

 人だ。そう思った。だがいったい誰なのか、よわいは、性さえもわからなかった。もしかすると知っている者であるか、いや、それはないだろう。知っている顔を思い浮かべては、そのすべてが否定されていく。

 すれ違う。目があった気がする。じっとその誰かは、自分を見ていた。そして自分もまた、その誰かを見ている。

 一瞬の交錯。そしてまた、離れていく。

 光の方へ、燃え盛る方へ。その誰かは落ちていった。

 ノォトもまた、落ちていく。暗い暗い、凍えるような闇の中へと。

 そこで意識が途切れた。

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