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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
死の歌
101/102

漆黒の剣(3)

 ヘズレイクの剣は鋭く、ノォトの急所を的確に突いてくる。

 彼の魔剣は確かに防御を貫いてくるが、決して魔力防御をくぐりぬけてきているわけではない。魔剣の力が防御を蝕んでいき、強引に抜けてきているのだ。

 だからこそ、ノォトは油断できないし、ヘズレイクも一撃で決めるべくノォトの首や関節を狙っている。

 剣技を比べれば、ノォトに軍配が上がるだろう。

 戦乙女の指導によって神域に踏み込んだ技の数々は、常人では見きれぬほどのものだ。

 両者がまっとうにぶつかれば、ノォトが勝つのは必定だ。生きながらにして英霊アインヘリヤルをも超える勇猛さを見せるノォトに敵うはずがない。

 ただし、それはヘズレイクが生者であれば、の話だ。

 相手にしているのは死から蘇りし魔人である。

 もともとの技量をノォトは知らないが、その技はエリオを超えるほどのものだろうということが伺えた。

 さらに、彼はもはや痛みを、死を恐れていない。

 捨て身の技が途中に紛れてくる。ノォトはその技をこそ警戒した。

 死なばもろともの技となれば、彼の魔剣は自身に届くだろう。

 それがわかるからこそ、ノォトは打って出ることができないでいる。


「どうした、生きし者のうちで最強と名高いお前が、こうも及び腰でいいのか!」


 ヘズレイクが挑発をしてくる。ノォトは歯を食いしばって、魔剣を振るった。

 高速で振るわれる剣が空を切った。だが、寸で止めて腕を引く。

 防御へと向けた魔剣が、ヘズレイクの魔剣を受け止めた。鍔迫り合いを避ける両者は、軽く触れた剣を素早く引いて、距離をとる。


「……俺の目的は、勝つことだ。そのためであれば防御にも徹しよう」

「そんな悠長なことでいいのか? 余を倒せたとして、お前の義父も間も無く死ぬぞ」


 そう、ノォトにとって気がかりなことはそれだった。

 背後にいる義父の呼吸が弱くなっているのを感じている。

 血は流れている上に、死者に囲まれては休まる暇もないだろう。


 その隙に、ヘズレイクが迫った。ノォトは反応がわずかに遅れる。

 右手で剣が振るわれる。それとほぼ同時に拳と脚が振るわれた。

 ここにきて格闘術だった。ノォトの知らない技であったが、蛇のように動く腕と脚は、通常であれば命を刈り取るに足るものであるとわかった。

 剣を横にして、ヘズレイクの魔剣を受け止める。続いて迫った拳と脚はノォトに直撃する。

 瞬間、黄金の魔力が弾けた。防御壁の魔力が圧縮され、反発したのだ。

 爆発とともに、二人は再び距離を開けた。

 ノォトは後退する一方であったが、かろうじて怪我を避けた。


「……厄介な防御だ」


 ここにきてヘズレイクは、苛立ちの感情を滲ませて言った。

 彼をして、黄金の指環の防御は突破できない。神々であっても触れ得ざる防壁は、それこそ古きドヴェルグたちが生み出した魔剣、魔槍でなければ貫けない。

 世界を統べるとさえ言われる力が、ノォトを無敵にしていた。

 ヘズレイクがノォトを討つ手段は、魔剣のみによる。


「お前には不要なものだ。死を楽しみたいのだろう?」

「ふん。古き力に守られて、なにが戦いだ。聞いて呆れたぞ、ノォト」

「そうか……ならば」


 ノォトは魔剣を地面に突き立てる。

 そしてゆっくりと、手を指にかけた。

 訝しげな顔を浮かべるヘズレイクを、じっと見つめた。


「お前、なにを」

「これで貴様が望んだ通りだ、ヘズレイク」


 黄金の指環を抜いて、真上へと投げる。

 それと同時に、二人は駆け出す。

 魔剣が二つ、白銀と漆黒が線を描いて閃いた。

 周りからすれば消えたようにも見えるだろうか。

 瞬間に、両者は計九撃が繰り出された。

 ひとつひとつを二人は撃ち落とし合った。繰り出された技は相手を討つためのものであったのか、それとも剣を受け止めるためだったのか。

 ノォトは呼吸さえ置き去りにして腕を振るう。ヘズレイクはもとより死者であり、呼吸など不要だった。

 そして、最後の一撃が繰り出される。

 振るったのはヘズレイクだった。

 指環を投げたわずかな隙が、彼に剣を一度、ノォトに先行して振るわせるだけの時を与えてしまった。

 勝利の確信に、顔を喜悦に歪ませるヘズレイク。

 だが、その顔に、ノォトの拳がめり込んだ。

 意趣返しであった。鋭い拳は、剣を振るうよりも早くヘズレイクの頭を撃ち抜く。

 剣に意識がとられすぎた隙に振るわれる格闘術に、為すすべはない。

 わずかに浮かぶ体に、今度は蹴りが入れられた。

 遠くへ弾き飛ばされるヘズレイクは、地面を転がりながらも態勢を立て直す。


「ぐう、ノォトォォォォォオオオオオ!」


 敵対者の名を叫ぶ。

 一方のノォトは、冷静だった。

 空から落ちてくる輝き。指環は主の元へと戻っていく。

 再び指にはめられた黄金は、人の王へと絶大な魔力を与えた。

 魔剣に黄金が満ちる。

 ただ一人を焼き尽くすのに、十分な魔力だった。


「偉大なりし過去の王よ、勇猛なりし過去の戦士よ」


 ノォトは勝者の口上を述べる。

 敬意を戦った相手へと向け、憐憫を死した亡者へ向ける。


「この一撃、この輝きを手向けと知れ」


 いまこそ示そう、生きる者の輝きよ。

 安らかに眠るがいい。


 魔剣〈憤怒の剣〉が振り下ろされた。

 苦悶の声とともに、光に飲まれるヘズレイク。

 絶大な威力によって薙ぎ払われた後には、なにも残らない。

 願わくば、戦士としての無念も、連れて行け。

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