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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
剣の歌
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開拓村(1)

 近くにあった集落は森を拓くために集まった開拓村であった。

 ノォトとフィオネがその村を見ると、彼らは弓矢を慌ただしく用意していた。狼の群れが近づいてきていたのだから、当然の備えだと言える。

 そして彼らへと近づいていくと、彼らは二人を見て驚いていた。


「あの狼の群れを、二人で追い返したのか。一人は剣の一つで狼たちを倒していたぞ」

「女の方は姿も変わっていた。あれが魔術ってやつか」


 そうやって口々に言っている。戦いぶりが見えていたのだろう。戦士でない者に戦っているところを見られるというのは、どことなく恥ずかしい感じがした。

 そして、グラニに乗っているフィオネを見ると、村の者はさらに騒然とした。耳の尖ったもの、エルフが現れたと聞いて、一目見ようと家にいた者たちまでもが出てくる。興奮は冷めやらぬ様子だった。

 一方のノォトとフィオネは、もう疲れがたまっていて、いますぐにでも休息を必要としていた。

 馬を降りると、一人の男が歩み出てきた。その男は、他の村人と比べれば恰幅がよい。武具も良いものであるが、ノォトの目から見るとそう大したものではない。

 けれども、一目でその男がこの村の長であることはわかった。


「これは……よもやエルフの者がこの村へ訪れるとは思いもしませんでした。そちらはお付きの者かな? 初めまして、この村の長を務めるアンドレという」

「初めまして、アンドレ。私はフィオネ。エルフだとか、あまり気にする必要はないわ」

「ノォトだ」


 付き人、と言われて少しむくれるが、ノォトはいまやフィオネに従う身であるのだから、仕方ない。

 ノォトの偉丈夫然とした出で立ちも人目をひくためか、フィオネとの組み合わせはごく自然なもののようにも思われ、村人たちは特にいうことはなかった。


「いやはや、エルフは豊穣をもたらす者ですから。それに、狼たちも追い払った様子。私たちはあなたがた英雄を歓迎しましょう!」


 調子のいいアンドレは、そんなことを言った。図らずも、ここで休息を得られることにノォトは安堵した。

 グラニの背を撫でてやると、彼もまた休みたがっていたようで、低く鳴いた。


「思ったより歓迎してくれたわね」


 アンドレが狼たちへの備えと客人のための用意を忙しく指示しているのを見ながら、フィオネは言った。


「驚きはしていたな」

「本当にあんたの言った通りね」

「エルフは豊穣をもたらす者と思われているからな。彼らにとって、よい風なのだろう」

「人にとってはそうなのかもしれないけど、実のところ違うわ。私たちがいる場所が満ちるのではなく、満ちた場所に私たちがいるのよ」

「それが、乾いた大地に住むドヴェルグと仲が悪い理由か?」


 ノォトがそういうと、フィオネは足を踏んできた。いささかしとやかさに欠ける。どうやら彼女にとって、ドヴェルグの話はしてはならないらしい。


「少なくとも私の前で二度とあいつらの話はしないこと。いい? わかった?」

「ああ」


 あまりこのじゃじゃ馬エルフの機嫌を損ねるのはよくない。今後の旅にも関わってくる。

 だが、こうして彼女と触れ合うのが楽しい自分がいることもまた、否定することはできない。


「ま、それはともかくとして、ここから先にフレイ様の領土があることも教えないとね。勝手に入って、猪に襲われたりしたらたまらないわ」


 フィオネの言葉を聞いて、なんとなくノォトは、エルフが開拓する者にとって幸福をもたらす存在なのかわかった気がした。恩に対し恩で返し、仇に対し仇で返す彼らの言葉に従えば、森の中であっても様々な恩恵にあずかることができる。

 文字通り、豊穣をもたらす者。なるほど、と一人で頷いていた。

 戦士として、鍛冶師として、いずれ王になる者として多くを学んできたが、こうして村に腰を据えて見えるものもあるかもしれない。そう思った。

 そして己の未熟も知った。あの人狼との戦い。フィオネがいなければ、これが戦場ならば。思いつくだけで、何度も命を落としていた。そしてそのたびに誰かに救われたという嬉しさと悔しさがあった。

 やはり旅に出てよかった。素直にそう思えた。

 自分に合った剣を得ることを第一にしながらも、王位に向かって進めているという実感が、自分の手にあったのだ。


「ノォト! みんながご飯を用意してくれるって! 行きましょ!」


 気づけば遠くにいるフィオネが、そんなことを言っていた。ノォトは自分がぼうっとしていたことに、そのときなってようやく気づいた。

 隣を見ると、グラニの瞳があった。相棒も疲れているが、ぼうっとしていた主人の様子に呆れているようだった。

 グラニの首を撫でて、ノォトは歩きはじめた。まずは腹を満たそう。寝て、起きて、また旅に備えなければ。

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