死者の手紙(5)
「ごめん。すごく、嫌な思いをさせた……」
何も言わずに出ていったフェリスを、公園の入り口で呼び止めた。
「良かれと思ってやったことが、裏目に出てしまいましたね」
フェリスは怒っていないと告げるように、アルバの頭を帽子の上から撫でた。
「これから大変かもしれませんよ」
「うん。でも、姉さんには荒療治が必要だったと思う。だから、後悔はしてない」
「頼もしいですね。その年で、それだけしっかりしていれば」
「僕は……姉さんの重荷になってるから。しっかりしているっていうんじゃないよ。罪悪感があるだけ」
「重荷というのは?」
「姉さんが失恋したのは、全部ってわけじゃないけど、僕のせいなんだ。貧乏な女は嫌だって、相手もはっきり言ったって……」
「そんな男と結婚せずに済んで、良かったではありませんか」
「そうだけど、姉さんは好きだったんだよ。そんなふうに開きないれないよ」
フェリスが痛ましげに自分を見ていることに気づいて、アルバは口をつぐんだ。嫌な想いをさせたから、その謝罪に来たというのに、愚痴を吐くなんて最低だ。
「ごめんなさい。もう、迷惑はかけないから……」
「迷惑なんて思いませんが……そうですね、私と賭けをしませんか」
「賭け?」
「そう。貴女の言葉が耳から離れないんです。お姉さまを立ち直らせて、自分も幸せな恋をするのでしょう? 本当にそんなことが可能なのか、見てみたいんです」
「姉さんを支えるっていうのは本当だけど、僕が幸せな恋を出きるかなんて、そんなことは言ってないよ……大体、そんなの賭けとして成立しないし」
「回りくどい言い方をしてしまいましたね。私はただ、うちで働く気はないか、とお誘いするつもりだったのですが」
アルバは歩みを止めて、フェリスの顔を見つめた。本気か、という問いを込めて見つめても、フェリスの真剣な顔は揺らがなかった。
「もしかして、同情してくれてる?」
「まさか。私が誰かを憐れむとしたら、自分以外に誰もいませんよ」
引っ掛かる言い回しだけど、今それを根掘り葉掘り聞くのは違うような気がして、言葉を失う。そんなアルバを見てどう思ったのか、フェリスは初めて明るい笑みを浮かべた。
「あなたは勘がいい。話したくないけれど、気づいて欲しいと思っていることを察してくれる」
「僕はそんなに器用じゃないよ」
「無意識だからいいんです。私の奇妙な力を見ても、こうして普通に話してくれますし」
そこでようやく、フェリスは本当に自分を必要としてくれるかもしれない、と確信した。
しかし、アルバが黙りこんだのを別の意味に捉えたのか、フェリスは微苦笑を浮かべて沈黙を遮った。
「こんなところで立ち話する話でもありませんね。お姉さまのこともあるでしょうし、もしその気になったら店まで来てください。もちろん、お客様としても大歓迎ですよ」
お姉さまのそばにいてあげてください、と言われてしまえば、そうするしかない。実際、泣き崩れている姉をそのままにしておくのは危険かもしれないのだ。
「それでは、また」
「うん……またね、ありがとう」
アルバとフェリスは、噴水の前で別れた。