ぺたん娘が行く! ~巨乳への道~
勢いで書き上げました。
貴族設定や町の設定は適当です。突っ込まないでくれるとありがたいです。
「お兄様! 巨乳になる方法を教えてください!」
突如扉を開け飛び込んできた妹のフィリーゼに、部屋の中に居たお茶を用意していた侍女が驚きのあまりカップを滑らせテーブルに零してしまう。
だが部屋の主である兄のファルヴァは読んでいた本から顔を上げ、何事も無かったかのようにフィリーゼに話しかけた。
「リーゼ、男爵令嬢ともあろうものがはしたないよ。ビックリしたじゃないか」
ファルヴァはそうは言うものの、その顔はとても驚いているようには見えなかった。
テルプレア男爵の後継ぎとして生を受け15年。大人顔負けの冷静さから付けられた渾名が『氷の貴公子』。
家族ですら笑った顔や驚いた顔を見たことが無いとすらされている。
それに対しフィリーゼは10歳と言う年齢から考えれば年相応ではあるが、少々お転婆が過ぎる天真爛漫な女の子だ。
そんな彼女が少々怒ったような表情で兄のファルヴァに詰め寄ってきたのだ。
「それで、どうしたんだい? リーゼ。突然巨乳になりたいだなんて」
「お兄様の御存じのとおり先日婚約者であるオーパル様と初めてご対面いたしましたわ」
オパール・パーイヴァルはパーイヴァル伯爵の長男でありフィリーゼの婚約者だ。
ファルヴァにも婚約者がおり、その伝手を使ってテルプレア男爵はパーイヴァル伯爵に縁談を持ち掛け12歳になるオパールとフィリーゼを婚約することにこぎ着けたのだ。
「ああ、聞いているよ。盛大に婚約破棄されたんだってね」
「ええ、こともあろうにその理由が巨乳じゃないからですって!」
フィリーゼはその時の事を思い出しながら大層憤慨していた。
そのフィリーゼの胸は絶壁・・・10歳の年齢ならまだこれからとも言えるし、もう大きくなってもいいとも言われる年齢だが、フィリーゼの胸は小さい頃から少しも成長はしていなかった。
すなわちフィリーゼはぺたん娘なのだ。
婚約して初めての顔合わせでフィリーゼはオパールからこう言われたのだ。
『俺、巨乳好きだから。この婚約は無かったことにしてもらう』
そしてオパールは早々にフィリーゼの前から去って行ったのだ。
初めての顔合わせでドキドキしていた気持ちは吹き飛び、フィリーゼはただただ呆然とするしかなかった。
「それで悔しいから私巨乳になってオパール様を見返すんですの!」
「また突拍子もない事を考えるね。しかもその理由が見返すためだと」
「それでお兄様、巨乳になるにはどうしたらいいですか?」
「そうだね。男の人に胸を揉んでもらうと大きくなると聞いたことがあるね」
ファルヴァは少し考えてからとんでもないことを言いだした。
お茶を片づけていた侍女もあまりの事にあんぐりと口を開けてしまう。
だが常に前向きのフィリーゼは素直にそのことを受け入れていた。
「分かりました! 男の人に胸を揉んでもらうんですね!」
「そうだね。そうそう、好きな男の人に胸を揉んでもらうとより効果があるらしいよ」
「好きな男の人ですか? お兄様やお父様とかじゃだめなのですか?」
まさかの禁断の関係!などと想像してしまいそうなのだが、当の本人のファルヴァは平然としていた。
「僕や父上でもいいけど、ジャックとかの方が効果がありそうだね」
ジャックとはテルプレア男爵が治めるエバックの町に住む子供だ。
エバックの町は田舎町でテルプレア男爵と町人が親しい付き合いをしている。
フィリーゼもそれにならって常に町中を歩きまわり同い年の子供であるジャック達と幼馴染と言える関係だ。
「ジャックですか。そうですね、ジャックに胸を揉んでもらうように頼みましょう。
では、早速行ってきます!」
言うが否や、フィリーゼは颯爽と部屋を飛び出した。
「あの・・・お坊ちゃま。いいのですか?」
余りの出来事に呆然としていた侍女はフィリーゼが部屋から出て行ってから恐る恐るファルヴァに尋ねた。
「ん? 何か問題があるかな?」
「いえ、あの、この事を知ったらお館様が激怒なされるんじゃ・・・」
「大丈夫だよ。父上もリーゼが巨乳になれば喜ぶだろうし」
はたして喜ぶのだろうか?
侍女はそう思うものの、フィリーゼに甘いテルプレア男爵はファルヴァに言いくるめられる姿が思い浮かんでいた。
「それにジャックも男の子なら障害に立ち向かっていかなくちゃ」
「・・・それはジャックにはいろんな意味で難しいと思いますよ?」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「という訳で、ジャック! 私の胸を揉みなさい!」
「・・・オマエハナニヲイッテイルンダ?」
突如現れたフィリーゼの宣言にジャックは半眼になって言い返した。
ジャックの他にはもう1人の幼馴染のスピノザが居たが、彼は比較的大人しくフィリーゼとジャックに振り回される役でもあった。
その所為かスピノザは大抵の事じゃ物怖じしない性格になっていた。
そんな彼も流石にフィリーゼの爆弾発言には目を白黒している。
「何って・・・巨乳になりたいから胸を揉んでくださいと申してますの」
「胸を揉んで大きくなるんだったらそこら中の女の人は巨乳だらけになるだろうよ!」
「まぁ! お兄様が嘘を付いたと仰るの?」
「ああ・・・またあの兄貴の変な入れ知恵か・・・」
事の原因を知ったジャックは思わず頭を抱え込む。
そんな彼をスピノザは肩を叩いて励ます。
「頑張って!」
「お前面白がっているだろう!?」
最初は驚いていたものの、スピノザは直ぐに順応して物見の見物に回っていた。
「さぁ! 胸を揉むのです!」
そう言いながらフィリーゼは胸をジャックの方へと突き出す。
当然そんなことは出来るわけが無い。
ただでさえ、周囲の視線もあるのだ。
今ジャック達が居るのは道のど真ん中だ。
事もあろうにフィリーゼは道のど真ん中で胸を揉めと言っているのだ。
周囲の視線もフィリーゼの奇行には慣れた様子で、いつもの事かと通り過ぎる人も居れば、面白がって囃し立てる人も居た。
「あのな、リーゼ。胸を揉んで大きくなると言うのは迷信だからな」
「・・・大きくなりませんの?」
さっきまで威勢が良かったフィリーゼが急にしおらしくなって尋ねてくる。
「まったくと言ったわけでは無いけど、ほぼ出鱈目だから」
「・・・1%の可能性もありませんの?」
「・・・1%くらいならあるのかな・・・?」
「なら私は1%の可能性に掛けますわ! さぁ! 胸を揉んでください!」
フィリーゼはさっきまでのしおらしい姿が嘘のように急に元気になって胸を突き出して来た。
こいつ計算してやっているんじゃないのか?などと思いながらもジャックはどうしようか頭を悩ませる。
「ジャック、これはチャンスだよ」
「何のチャンスだよ!? つーか、俺はこんなやり方認めないからな!」
ジャックの気持ちを知っているスピノザは発破をかけるが、当の本人は身分の違いもあることに気を遣い正攻法で攻めることにしていた。
何故なら一番の障害であるフィリーゼの父親・・・テルプレア男爵にちゃんと認めてもらいたいからだ。
揉めに揉めていると、ふとジャックの背後に何やら寒気が感じた。
恐る恐る振り返るとそこには幽鬼を漂わせたようなテルプレア男爵が立っていた。
「あ、お父様」
「お・お館様、こんにちは・・・」
辛うじてだがジャックは挨拶することが出来たが、テルプレア男爵は満面の笑顔を見せているだけだった。
但し目は笑っていない。
「随分と面白いことを言っているね。ジャック。
誰が誰の胸を揉むって? しかもこんな往来の中で」
いえ、言っているのはお宅の娘さんです。
そう思いながらもジャックは蛇に睨まれたカエルの如くただ黙っているだけだった。
「ん~~、君には失望したなぁ~~ もう少し気概のある少年だと思っていたんだが。
まさかこんな手を使ってこようとはね・・・これは少々お仕置きが必要かな?」
「ちょっ!? 待ってくださいお館様!? 俺何もしてないですよ!?」
「問答無用ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?」
いきなり腰の剣を抜き放ちジャックに襲い掛かるテルプレア男爵。
堪らず逃げるジャック。
町の人にしてみればいつもの慣れた光景でもあった。
「あの・・・私の胸はどうなったのですの・・・?
あ、スピノザが揉んでくださいます?」
「いえ、謹んで遠慮させてもらいます」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「お兄様! 巨乳になる方法を教えてください!」
フィリーゼは再び部屋の扉を開け、くつろいでいたファルヴァに巨乳になる方法を聞きに来た。
「おや、揉んでもらうのはどうしたんだい?」
「お父様に禁止にされました」
当然である。
「そうか、それは残念だね」
だがファルヴァは左程気にした風ではなかったが、せっかくのチャンスを不意にしたジャックに残念がっていた。
「それで他に巨乳になる方法はありませんですの?」
「うーん、そうだね。牛乳を飲むと大きくなると聞いたことがあるね」
「牛乳ですか!」
「そう、それも沢山飲むといいらしいよ」
「分かりました! 牛乳をたくさん飲んできます!」
そう言ってフィリーゼは部屋から飛び出す。
ファルヴァ付きの侍女はフィリーゼが部屋から飛び出していった扉を見てからファルヴァに声を掛ける。
「お坊ちゃま、牛乳を飲んで胸が大きくなるのって迷信ですよ?」
「そうなんだ。でも毎日飲めば影響は出て来るよね」
「まぁその可能性はありますが・・・ところでお坊ちゃまはワザと沢山と言いました?」
「僕は嘘は言っていないよ?」
相変わらずの無表情で感情は読めないが、先ほどの胸を揉む件然り、長年お付になっている侍女から見て明らかに楽しんでいる風に見えた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「おうぇっぷ・・・お兄様、沢山牛乳を飲んできました・・・これで私の胸は大きくなるのですね」
どれだけ牛乳を飲んだのか、フィリーゼの顔は真っ青だった。
フィリーゼは歩くたびお腹の中がたぷんたぷんと音がするような気がした。
「そうだね。毎日沢山飲むといいらしいよ」
「ま・毎日ですか・・・!?」
「そうだよ。こういうのは毎日継続するのが効果があるんだよ」
「毎日・・・これを毎日・・・うっぷ」
毎日沢山の牛乳を飲む姿を想像してフィリーゼの顔は真っ青になり、思わず胃の中のものを戻してしまう。
「おろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろ・・・」
「きゃぁ! お嬢様!?」
淑女にあるまじき行為にファルヴァ付きの侍女は悲鳴を上げる。
そんなフィリーゼを相変わらず無表情ながらファルヴァは眺めていたが、心なしか楽しそうに見えた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「お兄様! 巨乳になる方法を教えてください!」
三度フィリーゼは部屋の扉を開け、勉強をしていたファルヴァに巨乳になる方法を聞きに来た。
ファルヴァに勉強を教えていた教師は突然のフィリーゼの来訪に嫌な顔をする。
こうして勉強を邪魔されるのは1度や2度ではないからだ。
「もう牛乳はいいのかい?」
「牛乳はもうこりごりですわ。しかも直ぐに効果が現れないのであれば意味が有りませんもの。
それでお兄様。他の方法はありませんですの?」
「うーん、そうだな。巨乳になるのは遺伝が必要だと聞いたことがあるよ」
「遺伝・・・ですの?」
「そう、リーゼが母上に似ているのはその遺伝があるからなんだ」
「まぁ! ならお母様に似た私は巨乳になるんですのね!」
一筋の光明を見つけたフィリーゼは喜びのあまり部屋の中を踊りまくる。
「リーゼ、焦ってはいけないよ。君は父上の血も引いている。父上の遺伝も受け継いでいるんだよ。
つまりリーゼのぺたん娘の胸は父上の遺伝の所為でもあるんだ」
ファルヴァの衝撃の発言にフィリーゼはガーンと言う衝撃音と共に崩れ落ち、地面に手を付いて項垂れてしまった。
そしてふと何かを思いついたかのようにキッと顔上げるとそのまま部屋から出て行ってしまった。
「お父様に抗議に行ってきますわ!」
ファルヴァはそんな言葉を残しながら出て行ったフィリーゼを見送った後、何事も無かったかのように教師に続きを促した。
「先生、どうしました?」
「・・・いえ、ファルヴァ様は将来大物になりますね・・・」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「お父様なんか大っ嫌いです!」
「何故にっ!?」
「お父様の胸が小さいから私の胸も小さいのです! 遺伝なのです! だから小さい胸のお父様は大っ嫌いです!」
「娘よっ!? それは大きな勘違いだぞっ!?」
テルプレア男爵はフィリーゼに女の子の胸の大きさには父親の遺伝は全く関係ない事を誠心誠意説明し納得してもらうまで数日を要した。
後日、テルプレア男爵は「息子の事なら一瞬で信じるのに何故儂の言葉は直ぐに信じてくれないのだ・・・何でもいう事を聞いてあげているのに・・・パパ泣いちゃう」などと愚痴をこぼしていたと言う。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「お兄様! 巨乳になる方法を教えてください!」
朝早く部屋の扉を開け、まだ寝ていたファルヴァを無理やりおこしながらフィリーゼは四度巨乳になる方法を聞きに来た。
朝早くから起こされたにも拘らずファルヴァは嫌な顔をせずにフィリーゼに尋ねた。
「リーゼ、君はまだあきらめていないのかい?」
「ええ! こうなれば意地ですわ! 絶対巨乳になって見せますわ! これは乙女の果て無き夢への挑戦ですの!」
最早フィリーゼは当初の目的は忘れ、今はただ巨乳になる事だけしか見えてなかった。
「そうか、それ程の決意があるのならとっておきの方法がある。
これはリーゼにとってもとても大変な方法だよ。それでもやるかい?」
「そんな方法があるのですか!
勿論やります! どんな方法でもリーゼは見事巨乳になって見せます!」
「分かった。その方法を教えよう。その方法とは――――――」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
数か月後、フィリーゼは見事に巨乳になっていた。
その噂を聞きつけたのか、何とこの国の第四王子がフィリーゼに目を付け婚約を申し出てきた。
実は少々お転婆なものの天真爛漫で美しいフィリーゼは貴族の中でも噂の的だったのだ。
唯一の欠点はぺたん娘だと言うことだけだった。
その唯一の弱点が克服したとなっては手を出さない理由はない。
そんなフィリーゼを狙っていた令息たちはこぞってテルプレア男爵に婚約を持ちかけたのだ。
その中でウエスタニア王国の第四王子であるフォルス・クラブ・ウエスタニアがフィリーゼとの婚約を申し出た。
これにはテルプレア男爵も大いに喜んだ。
娘に甘く、娘の幸せの為由緒ある家でなければ嫁に出さんと公言しているテルプレア男爵であるが、流石に王家ともなればこれ以上とない縁談でもある。
そうして話はとんとん拍子に進み、フィリーゼとフォルス王子の対面が決まった。
フォルス王子は部屋の中でフィリーゼが来るのを待っていた。
テルプレア男爵の妻であるエリスティアは隣国のエレガント王国の王族の血を引いており、その容姿は大変美しいと評判だった。
その血を引いているフィリーゼも幼いながらも美しいと噂になっていた。
そのフィリーゼとの対面をフォルス王子は楽しみにしていたのだが・・・
ガチャリ
「フォルス様、お待たせして申し訳ありませんでした」
部屋の扉が開きフィリーゼが部屋の中へと入ってくる。
そしてフォルス王子の一言。
「チェンジで」
「なんでですのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!?」
思わず雄叫びを上げるフィリーゼ。
「折角巨乳になったのに! フォルス様は巨乳がお嫌いですの!?」
視線を逸らしつつフォルス王子は申し訳なさそうに言ってくる。
「フィリーゼ嬢、それは巨乳とは言わない。ただのおデブだよ」
そう、フィリーゼは確かに巨乳にはなっていた。
但し巨乳と一緒に体の面積が横に大きく広がってはいたが。
ファルヴァの提案した覚悟のいる方法とは太る事だったのだ。
太ることによって胸も太ると言う至極単純で的外れな方法だった。
フィリーゼはフォルス王子の一言を受けその場にガラガラと崩れ落ちる。
数か月後、見事ダイエットに成功しフィリーゼは元の体形に戻ることが出来た。
但し胸も一緒に痩せて、前と同じぺたん娘に戻ったのは言うまでもない。