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灰色の道標(5)

「魔女への攻撃は、お前の独断か? ポーラ・ブィックス准尉」


 魔女を捕らえ、第一部隊へと引き渡したブィックスを待っていたのは、賞賛でも何でもなく、キーウェルトの突き刺さるような視線と厳しい問いかけだった。

 ブィックスの頬を、汗が伝う。


「幸運にも魔女に当たり、陛下から離れたから良かったものの、そうでなければ陛下はお亡くなりになっていた」

「……お言葉ですが、あの場でただ見守っていただけの場合も、陛下の命はなかったでしょう」

「私が、何の策も無しに手をこまねいていたと? 彼らの狙いは、ノエル殿下ではなかった。我々が動けば、混乱に乗じて姫様を殺しに行く――彼らはそう言う算段だった。その計画を潰す必要があった」


 ブィックスは言葉を詰まらせる。

 それでは、キーウェルトは会場で膠着状態に陥っていたあの時から、気付いていたのだ。彼らの真の目的に。だから、隊を動かそうとはしなかった。


「あの中には、魔女がいた。魔女の能力は未知数だ。その力を見極めるためにも、先に彼らから動いてもらう必要があった。それをお前は、あまりにもリスクの高い方法で割って入ったのだ」

「リスクなど無かった。彼は、確実に魔女を仕留めたさ」


 朗々とした声が、その場に響いた。

 ルエラが、ブィックスとキーウェルトの方へと歩いて来ていた。


「彼の判断は、私の命令によるものだ。私が、お父様の奪還へ向かうよう指示した。結果、彼は成功した。魔女も捕らえただろう?」

「姫様! どうして、このような者に――」

「彼の実力は確かだと確信していたからさ。

 さあ、行こう。ブィックス。そろそろ、お前を守衛隊に返さないとな。私もここにいるのが見つかったら、またブルザに怒られてしまう。

 キーウェルト将軍、そう言う訳だから、ブルザには言うなよ」


 ルエラはふいと背を向け、歩き出す。ブィックスはキーウェルトに敬礼すると、急いでその後を追って行った。


「ありがとうございます、姫様」

「礼を言われるような事はしていない。私はただ、事実を述べたまでだ。

 ところでブィックス、いったいどうして、あの女の狙いが私だと気付いた?」


「彼らのやり方は、王族を狙うにはあまりにも派手過ぎました。本当にノエル殿下を殺したいなら、魔女に暗殺させれば良い。陛下を人質にせずとも、真っ先に殿下を狙えば良かった。しかし、それをしなかった――殿下のお命を狙うと言うその事自体が、デモンストレーションだったからです。姫様派の過激派だと思わせ、姫様のお立場を悪くするためにも。彼らは混乱に乗じて、姫様を亡き者にするつもりだった」


「なるほど……私も、まだまだだな。あっさりと、彼らの仮面を信じ込んでしまうとは」

「素直さで可愛らしいじゃないですか」


 ブィックスはニコニコと答える。ルエラは、不服そうに口を尖らせた。


「私を子供扱いするのか?」

「いいえ」


 ブィックスは跪くと、ルエラの手を取った。小さな手の甲に、そっと口付ける。


「素直さは、女性の美徳ですよ。あなたがご無事で良かった。しかし、随分とタイミング良く水道管が暴発したものですよね」

「私は悪運が強いからな」

「またまた。きっと、姫様のお美しさに惚れた神が味方してくれたのでしょう」


 ルエラはむず痒そうに、そっぽを向く。


「……お前は、随分と恥ずかしい台詞を言うんだな」

「そうですか? 女性に優しくするのは、当然の事ですよ」

「そう……なのか?」




 ルエラとブィックスは無言で、後宮へと歩いて行った。

 後宮が近付き、人気の無い廊下で、ルエラはふと立ち止まった。


「――ところで、ブィックス。私軍に入った者は、守衛として二年の経験を積んだ後に、各部署に配属される。どの王族の護衛につくかは、志願制だ。志願する隊は、もう決まっているのか?」


 当然、国王の護衛である第一部隊に。

 そう心に決めていたはずだが、その言葉は、出て来なかった。


「いえ……まだ……」

「もし決めていないなら、私の隊へ来ないか? 国王、王妃、その次となる第三部隊だ」

「……なぜ、私めを? 今回の事にしても……。

 私は魔法使いではありますが、まだ新人の身です。経験も浅く、目立った功績もない。士官学校での授業も、魔法使い故に免除されているものが多く、他の者達が学んでいる事を学んでいない。姫様が確信してくださっていた魔法も、姫様には当てられず――」

「魔法使いがいくつかの授業を免除されるのは、その授業で習う事を魔法使いは既に身につけているからだ。お前が免除された授業で教えていたのは、お前が既に知っている事、出来る事ばかりだよ。

 私に魔法を当てられなかった事なら、気にするな。お前の狙いは正確だった。正確だったからこそ、私は避けられた。狙われるのには、慣れているんでね」


 後宮の門からの明かりが、彼女を照らす。

 その眩しさに、ブィックスは目を細めた。


「ポーラ・ブィックス准尉。お前の魔法は、私の隊と相性が良い。もし、お前に少しでもその気があれば、第三部隊への志願も考えてみて欲しい」

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