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第12話 地下の戦い

 見張りを気絶させた何者かの侵入。

 私軍の監査員による真相の露見。

 謎の爆発と子供達の逃亡。


 立て続けに起こる出来事に、所員達はてんやわんやだった。


「ああ、この騒ぎのせいで研究費がカットされたらどうしよう……」

「嘆いてないで、早くガキ共を移動させるぞ。事が露見すれば、その研究自体できなくなってしまうのだからな」


 二人の研究員は、一つの部屋の扉を開ける。この部屋にも、後、六人ほどの子供達が囚われていた。床には他の牢と同じように魔法陣が描かれているが、少し模様が違っていた。そして、この部屋では同じ魔法陣が子供達の肌にも描かれていた。

 若い研究員が子供達を移動用の檻へと詰めながら、不安げに問う。


「でも、この子達ここから動かして大丈夫なんですか? この子達の魔力で、この広い地下を支えているのでしょう?」

「何、支えると言ったって、どうせ気休めみたいなもんだ。そう直ぐに崩れやしないさ。この地下を作る時からこいつらがいた訳じゃあるまいし」

「なるほど、確かになあ。それじゃ、子供達は逃げちゃっても問題ありませんね」


 研究員達の背後で、金髪の研究員が言った。


 覚えのない三人目の声に、二人は振り返る。

 同時に、突き出された剣先が若い研究員を襲う。剣先を腹に食らった研究員は吹っ飛び、壁に強く頭と背中を打ち付け、ずるずると壁を伝って崩れ落ちた。


「なっ、貴様……」


 分厚い伊達眼鏡の奥で、青色の眼が光る。彼は突き出した剣をそのまま横に払った。残る研究員は逃げる間もなく、その場に倒れ込み動かなくなった。


「一丁上がりっと」


 呟き、剣を下ろす。

 檻の中から、小さく震えるような声がした。


「……この人たち、死んじゃったの?」

「ん? いや、気絶させただけだよ。鞘付けたまんまだしな」


 彼は、手に持った剣を軽く上げて見せる。柄の所に青い宝石が埋め込まれたそれ。


「いつまでもんな所入ってないで、出て来いよ。もう大丈夫だから」


 子供達は困惑したように顔を見合わせると、恐々と檻から出て来た。


「良かった。皆、自分で歩けるな? そしたら、この廊下を真っ直ぐ進んで行くんだ。背が高くて髪の長い兄ちゃんが、案内してくれるから」

「お兄さんは、いっしょに行かないの?」

「俺はまだ、やる事があるからな。

 ……ああ、そうだ。その前にそこの二人、ちょっと手伝ってくれ」


 男子二名を指名し、地面に伸びた研究員を三人がかりで抱え上げる。


「はいはい、悪い大人はしまっちゃおうねー」


 子供達が入っていた檻に研究員を閉じ込めると、更にその滑車の付いた檻を牢の中に残して彼らは廊下へと出た。


「本当に大丈夫かなあ……。こんな事、見つかったら酷い目に……」

「大丈夫、大丈夫。俺が強いの、さっき見ただろ? この先にいる兄ちゃん達も強いから」

「でも、ここを出てどこへ行くの? 国中が、私達を憎んでる。国中が、私たちを殺そうとするよ。火炙りにしろって」


 中でも比較的年齢の高い女の子が、沈んだ声色で呟いた。

 返答はなかった。ぐるぐると渦を巻くほどに分厚い眼鏡は光に反射し、その奥の表情を見て取ることはできない。


「……大丈夫。少なくとも、あいつは――お前達のお姫様は、お前達を憎んでなんかいねーよ。

 さっ、グズグズしてる暇はないぜ。この廊下を真っ直ぐ行って、俺の仲間と落ち合うんだ」




 不安げな子供たちを励まし見送ると、子供達とは反対方向へと駆けて行く。

 先祖代々伝わる国宝の剣は白衣の下に隠れ、分厚い眼鏡で顔も誤魔化されている。その容姿は、研究員そのもの。


 広い廊下に出ると、軍の者達が慌ただしく動き回っていた。

 彼は、その中に駆け込み叫ぶ。


「い、いました! 私軍の少年が、上の階に!!」

「何っ!?」


 兵士達は、バタバタと階段を駆け上がって行く。彼は更に走り、また別のブロックで巡回する兵士達に向かって叫んだ。


「私軍の少年が、第二研究室の方で見つかったぞ!」


 兵士達はどよめき、建物の南側へと走る。

 また別のブロックで、彼は叫んだ。


「研究庫のそばに、私軍の少年が!」


 兵士達を西へと走らせ、彼はまた別のブロックへと向かう。


 いくつもの異なる目撃情報に、軍はすっかり混乱してしまっていた。

 柱の陰に身を隠してその様子を見つめながら、研究員に扮した金髪の男――ディンは、ニッと悪戯っ子のような笑みを浮かべた。


「こっちは計画通り。後は頼むぜ、ルエラ……!」

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