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第7話 国の暗部

「何……何だよ、これ……」

「小娘、どこから入った?」


 低く冷たい声に、アリーは弾かれたように振り返った。

 鰓の張った四角い顔の男が、背後に立っていた。その後ろには、若い面長の男。どちらも白衣を着ている事から、研究所の者だろう。


 伸びてきた手から逃れるように、アリーは背後へと跳ぶ。

 若い研究員が、開かれていた扉から中をのぞく。


「あれで死なないとは、さすがは魔女ですね。十二号が持つのは、空間認識能力……それを使って、この娘が近くにいる事を察知し呼び寄せたのでしょう。あれは他に、炎と風の魔法も使えました。どこかの扉が開けられている可能性があります」


 淡々と述べると、彼は開きっぱなしになっていた扉を引いた。金属製の扉の閉まる重い音が、回廊に響く。


「くそっ、あの化け物め。その能力をもっと研究に役立てば、痛い目に合わずに済んだものを」


 四角い顔の研究員は苦々しげに吐き捨て、アリーに目を向ける。


「で、お嬢ちゃんはどこからやってきたのかな? きちんと戸締りしないといけないんでね」


 アリーは軽く腕を上げ、構えの姿勢をとる。

 相手は二人とは言え、どちらも研究員。立ち居振る舞いを見ても、非戦闘員である事は間違いない。勝算は、十分にある。

 四角い顔の研究員は、ニタニタと下卑た笑いを浮かべる。


「そう、怖い顔をしなさんな。可愛いお顔が台無しだぞ? 何、大人しくしていれば悪いようにはせん」

「悪いようには……? おじさん、本気で言ってるの? この状況、ヤバいのは弱み握られたそっちの方だと思うんだけど?」

「君こそ本気で自分が優位な立場にあると思っているのかね? 君は今、研究所の地下深く、我々の懐にいるのだぞ。君がここでどんな目に遭おうと、どうなろうと、誰にも分かりはしない」

「おじさん達二人で、僕を捕まえられるとでも?」

「誰が二人だと言った?」


 その言葉に、アリーはパッと背後を振り返る。

 しかしそこには、仄暗い回廊が続いているだけ。人の気配などありはしない。


 再び研究員達に視線を戻すと、若い研究員が拳銃を手にしていた。

 黒光りするそれを、アリーは油断なく見つめる。


「……撃てるの? 銃ってそれなりに振動あるから、あなたの筋力じゃまともに狙いも定められなさそうだけど」

「これは空砲ですよ。人を呼ぶためのものです」


 若い研究員は、淡々と答えた。


「この研究所は、軍の管理下にあります。この意味が分かりますか?」


 アリーは衝撃に打たれたようにその場に立ち尽くした。


 この研究所は、軍の管理下にある。つまり、研究員が合図を送れば、軍の者が駆けつける。

 そして、それだけではない。


 ここに来ると言う事は、軍も知っているのだ。

 この研究所で何が行われているのか。


 軍の指示――国の指示。


 アリーの脳裏を、ルエラの顔がよぎる。魔女ではあれども、人であろうとする少女。アリーを何度も救ってくれた、凛とした正義感溢れる人物。

 そして、十年前に出会った少年。後からその身分を知った、優しい翡翠色の瞳の王子様。アリーが強くなろうと、心に誓うきっかけとなった人物。


「嘘だ……」


 こんな非道な実験を、あの二人が許すはずがない。

 国の指示だなんて、あり得ない。


「でまかせを言うな! 国がこんな事、許しているはずがない!」

「随分と国に夢を見ているんだな。いいねぇ、おじさん好きだよ、そういう子。

 でも、何も嘘など言っちゃいない。少し調べれば、分かる事だ。まあ、抵抗するようなら、外へ出て調べる前にその目で確認する事になるがな」


 彼らが嘘を吐いていない事は、アリーにも分かっていた。

 ここは、軍の管理下に置かれている。ここへ来る前に、そう、聞いていたではないか。軍から地下道で繋がっていたのも、そのため。


 崩れ落ちるように、アリーはその場に膝をついた。


 信じると決めた。

 彼女も、アリーを信じてくれたから。

 何度も命を救ってくれたから。

 ヴィルマと戦う姿を、この目で見たのだから。


「嘘だよ……そんな……ルエラ……」


 足音が近付いて来る。

 研究員の手がアリーに触れようとしたその時、回廊に声が響いた。


「アリー! ここにいるのか? いたら返事しろ!」


 ハッとアリーは目を見開く。この声は――


「リン! こっちだよ!」


 バタバタと足音が近付いて来る。アリーの腕を掴み、そばの部屋に引きずり込もうとした研究員は、聞こえて来た話し声にその動作をやめた。


「誰か一緒みたいだな」


「ちっ。なんで、そんな事分かるんだ……」


 アリーを手放し、扉を閉める。そこへ、ルエラ、ディン、フレディ、アーノルドの四人が、案内していた眼鏡の研究員と共に駆け付けてきた。若い面長の研究員が、彼らに応対した。


「お連れの方ですか? 彼女、迷子になった上、体調を崩してしまったみたいで……」

「大丈夫かい?」


 四角い顔の研究員は、アリーのそばにしゃがみ込む。そして、アリーにしか聞こえない程度の声で囁いた。


「ここで見たものは他言無用だ。ただの子供に何かできると思うなよ」


「アリー、大丈夫か?」


 ルエラはもう、元の姿に戻っていた。

 アリーより少し高い背丈。ところどころ跳ねた短い銀髪に、翡翠色の瞳。


「リン……!」

「あっ。てめっ、また!」


 ルエラに抱き付くアリーに、ディンが非難の声を上げる。


「心細かったんだもーん」


 いつもの調子で、アリーは返す。いつもの調子に、なっているはず。

 安堵で涙がこぼれそうになるのを、アリーはうつむき必死に隠していた。

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