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第13話 惨劇の真実

「今朝も、いらっしゃっていたようだ」


 城の高層、限られた者だけが入室を許される王女の執務室。

 主の机の前に座る人物に、彼は言った。


「城に入れろ、説明をしろと主張なさっていたが、言われた通り、門前払いにしておいた」

「……そっか。それじゃ、自分が本物だって不用意に外で明かしたりはしなかったんだね。ディン辺りが止めてくれたのかな」


 アリーは微笑む。そして、目の前に立つ大男を見上げた。


「でも、まさかあなたが協力してくれるとは思わなかったよ、オゾン中将」


 オゾンの顔が、ふっと綻ぶ。


「あの方のご命令だからな」

「あの方? 中将より上? ルエラ以外となると……大将さん?」

「いや。――今も昔も、私の主はただ一人だけだ」


 オゾンの曖昧な物言いに、アリーは首をひねる。


「中将も、ルエラの秘密を知ってたんだね。ルエラは、あなたには伏せているみたいだったのに。それも、『あの方』から聞いていたの?」

「いや。はっきりした事は何も」

「じゃあ、自分で気づいたの?」


 アリーは目を瞬く。

 オゾンは軽く笑った。


「生まれた頃からずっとそばに仕えている少女が、髪を短くして軍服を着て他人のふりをしたところで、気付かないと思うかね?」

「あー……」


 アリーは苦笑する。

 王女の素顔など、誰も知らない。しかしそれは、一般市民の話だ。私軍の、それも王女の護衛隊の隊長ともなれば、彼女が素顔の時に護衛する事もあるだろう。


「それじゃ、ルエラの事知ってる人って意外と多い?」

「そうでもない。護衛隊でも寝室周りの護衛任務に就く者は限られているし、ブルザが来てからと言うものは、姫様ご自身の希望でブルザがそばに就くことが多くなったからな。着替えなどは逆にブルザを嫌がるものだから、私や別の者がついていたが。あの姫様にも、そんないじらしい頃があったのだよ。もっとも、当のブルザの方は、自分に向けられている好意に微塵も気付いていなかったようだが」


 そう言って、オゾンはクツクツと笑う。


「私の他に、姫様に気付いた者はいなかった。私とて、君に話を持ちかけられるまで、確信を得ていた訳ではないからな。――しかし、君達の策はあまり良い手段とは言えないだろうな」


 オゾンは窓際へと歩み寄り、遠くへと目をやる。


「かつてのヴィルマ様とオーフェリー嬢の後を追っているかのようだ」


 アリーはバンと机に手をつき、立ち上がった。


「オーフェリー……!? オゾン中将、ヴィルマとオーフェリーって人の間に何があったのか、知ってるの!?」


 オゾンは横目でアリーを見る。どこか物悲しげな視線だった。

 外へと視線を戻し、彼はうなずいた。


「ヴィルマ様が陛下とご結婚なさるより前の話だ。当時、私はマティアス殿下の護衛隊だった……」


 そう前置くと、オゾンは想いを馳せるように遠くを見つめた。




* * *




 城で門前払いを食らったルエラ達一行は、そのまま大人しく宿へ帰る気にもなれず、城のそばにある店から様子を伺っていた。


「取り付く島もなし、か……」


 窓の向こうに見える城を眺めながら、ディンが重い溜息を吐く。


「ブルザ少佐との面会も許してくれませんでしたね。いったい、城で何が起こっているのでしょうか……」


 門番の対応は、昨日と何ら変わらなかった。王女の客人としてはもちろん、リン・ブローの荷物を取りに来たと言っても、「城に入れるなと言われている」の一点張り。


「後は、正規の手順で、ブルザ少佐辺りに面会を求めるぐらいでしょうか……」


 レーナの言葉に、ディンが苦々しい顔をする。


「気が遠くなりそうだな。通るかどうかも分からねーし」

「しかし、今、他に手段はありませんわ」


 確かに、レーナの言う通りだろう。王女は無理でも、ブルザならば何とかこちらから連絡が取れるかもしれない。

 何ともなしに窓の外の通りに目を向けたルエラは、突如、立ち上がった。


「ルエラちゃん? どうしたんだい?」


 アーノルドの問いにも答えず、ルエラは店を飛び出した。


「――ティアナン中佐!」


 ルエラの呼ぶ声に、通りを歩いていた一人の男性が立ち止まり、振り返る。

 青い髪、縁の細い眼鏡。それは、ペブルで知り合った国軍中佐、トッシュ・ティアナンに間違いなかった。アリーを昔から知る男。そして、十年前にヴィルマから命を狙われ生き残った、ヴィルマの罪が明るみになるきっかけとなった男。


「ブロー大尉。ちょうど良かった。やっと仕事がひと段落ついたので、これからご連絡しようと……」


 店の入口から、ディンとレーナが顔をのぞかせる。

 アーノルドはカウンターで支払いを済ませ、フレディはルエラらが置いて行った上着を抱えて出て来た。

 ルエラはティアナンへと詰め寄る。


「今は大尉ではない。私の地位は、剥奪された」

「え……いったい、何が……」


 言いかけて、ティアナンは周囲を見回した。

 城の正面から続く広い通り。当然、道行く人も多い。


「ここで聞くような話ではなさそうですね。場所を変えましょう」




 ティアナンに案内されるがままに向かった先は、 一つの集合住宅だった。三階建ての建物の最上階の一番奥に、ティアナンの自宅はあった。

 部屋の中に物は少なく、四人掛けのテーブルと、もう一つ置かれた低いテーブルの前にソファが置かれているだけだった。奥にもう一部屋あり、扉が開かれたままになっていたが、そこもベッドと机、本棚があるのみ。


「紅茶は飲まないもので、置いてないんです。コーヒーでも良いですか?」

「ああ、気にしないでくれ。むしろすまない、いきなりこんな大人数で押し掛けてしまって」

「中佐って位の割りに、意外と質素な生活してんだな」


 必要最低限の家具しかない部屋を見回し、ディンが言った。

 ティアナンは苦笑する。


「ほとんど仕事で、家では寝るくらいですから。ところで、アリーは一緒ではないのですか? 私に話を聞きたいと連絡して来たのは、あの子でしたが……」


 ルエラ達の間に、気まずい空気が流れる。


「……アリーに、何かあったんですか?」


 ルエラ達は目配せし合う。

 ティアナンは、魔女捜査部隊に所属している。ルエラが魔女であるか否か、今まさにその捜査をしているはずだ。彼に明かすのは、得策ではない。

 ややあって、ルエラが口を開いた。


「……城であった、王女銃撃事件については聞いているか?」

「はい。犯人であるソルドの将軍が魔女に操られていた可能性もあるとの事で、我々も調査中ですから」

「その事で城では厳戒態勢が敷かれ、アリーが姫様の影武者に立てられた」

「アリーが……!?」

「アリーは今、城にいる。……私は、アリーに城を追い出されたんだ」


 ルエラは、自分が王女自身だと言う事を伏せつつ、一部始終を話した。

 突然ルエラ王女の護衛隊がやって来て、自分達を城から追い出した事。

 リン・ブローから私軍大尉としての権限を剥奪した事。

 その後、城へ赴いても門前払いで、詳しい説明は何も行われていない事。


「本物のルエラ王女は、そんな命令は出していない。オゾン中将に会う直前までディンがアリーと一緒にいたのだから、命令を出したのはアリーで間違いない」

「まさか……何かの間違いでは? あるいは、銃撃事件の時のように、魔女に操られている可能性も……」


 ルエラは、静かに首を振る。


「魔法の線は薄そうだ。彼の瞳は、ルメット准将のように虚ろなものではなかった。あるとすれば、脅されたか、騙されているか……」

「彼……」


 ティアナンが呟く。ルエラはハッと我に返った。


「あ……いや、今のは――」

「いえ、大丈夫です。では、あなた方もご存知なんですね。アリーの本当の性別を」


 ルエラはホッと息を吐く。


「なんだ。知っていたのか。――それもそうか。アリーが親戚に引き取られる前から、彼の事を知っていたと言っていたものな。本当は、自分が引き取りたかったと」

「ええ、まあ。城内で何が起こっているのかは、私からも探りを入れてみましょう。私軍ではないので、どこまで調べられるか分かりませんが……」

「いや、助かる。我々も私軍の中に信頼出来る人物はいるのだが、連絡を取る事が出来なくて。困っていたんだ」

「それで、私に聞きたかった話と言うのは? 連絡はアリーからでしたが、皆さんも一緒だと言う事は伺っていましたから……」


 ルエラはうなずく。そして、口を開いた。


「十年前の、ヴィルマの惨劇について聞きたい。ヴィルマは犯行現場をマティアス国王に目撃され、逃亡した。――その時、殺そうとしていた相手が、ティアナン中佐、あなただと聞いた」


 ティアナンの表情に、影が落ちる。


「……ええ。当時も私は魔女捜査部隊でしたから、度重なる事件で忙しくて。彼女も、軍の中にいる私を狙うのはあまりにリスクが高過ぎると考えていたのでしょう。あの日、私は多忙な中でやっと取れた休日でした。しかしそれは、陛下と会うためのものだったのです。お忍びでしたから、彼女も知らなかったようでした」

「ヴィルマは、中佐が仕事でない時を狙ったと? つまり中佐は、自分が無差別ではなく狙われる心当たりがあるのだな?」

「……そんな風に聞こえましたか?」

「ああ。我々は、ヴィルマと会った。彼女は、二件の殺人と一件の殺人未遂について、無差別ではなかったと発言した。二件は、アリーの両親。そして未遂に終わった一件は、トッシュ・ティアナン中佐。あなたについてだ」

「ヴィルマと会ったと言うのは、まさかアリーも?」

「ああ」


 答えたのは、ディンだった。


「あいつが自分の正体を明かして、ヴィルマから引き出したんだ。十年前、どうしてあいつの両親が殺されたのか……あいつは、ずっとそれを知りたがっていたからな」


 ティアナンは、うつむき黙り込む。

 部屋の照明が眼鏡に映り込み、彼の表情をうかがい知る事は出来なかった。


「ティアナン中佐。私は、知らねばならないんだ。十年前、いったい何があったのか。何がヴィルマを許されざる道に走らせたのか」


 ルエラは、深々と頭を下げた。


「ティアナン中佐、頼む! あなたにしか頼めないんだ……!」


 重苦しい沈黙が流れる。


 ふっと軽く吐かれた息が、その沈黙を破った。


「……ずっと前にも、似たような事がありました。おかしな話ですね。彼女とあなたは、何の接点も無いはずなのに。……いいでしょう。しかし、何からお話しして良いやら……」


 ルエラは顔を上げる。ティアナンは、苦笑していた。それは、どこか寂しげにも見えた。


「ヴィルマは、オーフェリーと言う人物の名前を口にしていたそうだ。中佐達を狙ったのは、彼女の仇討ちだと。いったい、何者だ? ヴィルマとは、どう言う関係だったんだ?」

「そうですね……そこから話しましょうか。長い話になります」


 そう前置くと、ティアナンは語り出した。


 遥か昔、ルエラ達が産まれるより前の物語。

 生きるため、大切な人を守るため――しかしその全てが数々の憎しみを生み出す事になった、悲劇の始まりを。


「オーフェリー・ラランド――彼女は、私の婚約者でした」

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