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第10話 策謀

 うつらうつらと視界が揺れる。スプーンから零れ落ちた芋がポチャンとスープの中に落ち、ルエラはハッと我に返った。


「おはよう。随分と眠そうだね。やっぱり、アリーちゃんが心配かい?」


 前の席に座ったアーノルドが、苦笑しながら尋ねた。


 そこは城の広間ではなく、街中の宿だった。

 一階に設けられたレストランは宿泊客以外にも開放されているが、朝も早い時間。店内には、ルエラ、レーナ、そしてアーノルドの三人しかいなかった。


「ディン様とフレディさんは?」

「直ぐ来ると思うよ。フレディ君は、ディン君が起きるのを待つって。そのディン君も、私が部屋を出る時、ちょうど起きたようだったから」


 アーノルドがいい終わらぬ内に、店の奥に繋がる扉からディンとフレディが出て来た。フレディが、ぺこりと小さく頭を下げる。


「おはようございます、皆さん」

「おはよ……って、ルエラ、お前、顔色悪いぞ。寝てないのか?」

「寝ようとはした」

「まあ、城にいるアリーが気になるのも分かるけど、ブルザ少佐から何も連絡がないって事は、何とかなってるんだろ。ここで気にしてたって、何も出来る事はねーんだ。睡眠不足で体力削ったって仕方がない。どうせこの後、リン・ブローとして補佐に行くんだろ?」

「ああ、まあ……」


 ルエラは曖昧にうなずく。

 この場に、アリーの姿はなかった。話は、昨日の昼間に遡る――






「……は?」


 城の奥、広間や王座のある中央の棟から上階の渡り廊下で渡った先に、ルエラの執務室はある。


 ブルザが持って来た、一枚の紙。魔女であれば直ちに処刑する魔法陣。

 その回避策として出したアリーの提案に、ルエラは思わずそんな声を漏らした。


「アリー……お前、本気で言っているのか?」

「本気だよ、本気! 僕が、ルエラの影武者になって検査を受けるの。

 僕なら魔力なんて持たないんだから、魔法陣が発動する事もないでしょ? どうせ王女の時はヒール履いてるんだから、僕とルエラ程度の身長差なら、どうとでも誤魔化せるだろうし」

「いや、しかし」

「うん、意外といい手かもしれないな」


 そう言って割って入ったのは、ディンだった。


「クルトって奴の言葉が本当なら、女だと、発現していなくても魔力を持ちうる可能性がある。アリーなら、その心配もねーし。王女の顔なんて、間近で見た事ある奴なんかいねぇんだ。化粧もしちまえば、他人がすり替わってたって分からねーだろ」

「しかし、そう上手くいくでしょうか? 検査前に、こうして会えるとは限りませんし……魔女の嫌疑がかかっているんです。逃亡されないよう見張りもつくでしょう」

「んじゃ、今の内に入れ替わっとくか?」


「そしたら、しばらくルエラちゃんへの客対応なんかは避けた方がいいかもね。今のこの状況なら、警戒態勢って事で怪しまれずにすむだろう」

「ブルザ少佐だっけか。あんた、アリーの事、補佐してやってくれ。ルエラも、リン・ブローとして護衛って形でアリーのそばについた方がいいだろな」

「担当を入れ替えさせましょう」

「じゃあ、明日からね。夜の番より、書類業務とかの時にそばにいてくれた方がいいし」

「いや、待て待て! アリー、お前、自分が何を言っているのか分かっているのか? 魔女だと疑われている立場になるのだぞ!?」


 ルエラはドン、と机に手をつく。

 アリーは、あっけらかんとしていた。


「疑われるって言っても、ペブルの時とは違う。ちゃんと、魔女かそうでないか確認されるんだ。何も危険なんてないでしょ?」

「またクルトが来たりしたらどうする? 入れ替わった事を知らずに、お前のところに来てしまったら?」

「その時は一発ぶん殴っとくよ。この変態、ルエラに手を出すなって」

「冗談を言っているような状況ではないのだぞ!」

「……僕が、冗談を言っているように見える?」


 アリーは小首を傾げ、微笑む。


「僕はね、ルエラ。君を守りたいんだ。いつも、守ってばかりで、助けてもらってばかりで。剣も魔法も使えない、地位も何もないこんな僕だけど、役に立てる事があるなら全力を尽くしたい」

「しかし……」

「まあ、信じて任せてやれよ」


 ディンは、ポンとアリーの頭に手を乗せる。


「アリーなら多少腕は立つし、そこら辺から顔立ちの似た美人連れて来るより、ずっと安心だろ。それに、そのクルトって奴も、そうホイホイ何度も来たりしねーだろ。いくら城に侵入出来るほどの力を持ってるったって、そう簡単だとは思えないからな。――お目当てのルエラがいないのに、無駄な事はしないだろうさ」

「……え?」


 ルエラは、まじまじとディンを見つめる。その言い方は、まるで――


「おやおや。まるで、彼がルエラちゃんとアリーちゃんの入れ替わりを知っているみたいな言い方だね」

「いやあ、ほら、奴ら、随分と俺達の行動を把握してるだろ? どうせ、この入れ替わりも何処かから察知するんじゃないかなーと思ってな」


 ディンはアーノルドを振り返り、口の端を挙げて笑う。

 レーナが苦笑した。


「考え過ぎですわ。この話を知っているのは、今、ここにいる私達だけですのよ? ラウの方々が知る術などありませんわ」

「はは、それもそうか」


 ディンは笑って受け流す。ルエラは、腑に落ちないものを感じていた。

 ディンはただ、思い付きで推測を述べただけなのだろうか。それとも……。






 第三部隊の事務室に姿を現したリン・ブローの姿に、安堵したようにシリル・レーンが駆け寄って来た。


「大尉! 良かった……席の荷物が全部無くなってるから、どうしたのかと思ったよ」

「ああ。あれは、ただ物が増えて来ていたから片付けただけだ。不在の事も多いから、これを機にと思って」

「なんだ。俺はてっきり、ブィックス少佐みたいに辞めちゃったのかと……」

「何だと!?」


 ルエラはレーンに詰め寄り、ズイと彼を見上げる。


「辞めたのか!? ブィックスが?」

「え? 知らなかったの? 辞めたって言うか、正確にはしばらく休みって事らしいんだけど……昨日の夜、オゾン中将に直談判したらしいよ。少佐、第一部隊への移籍に大反対していたから、その反抗なんじゃないかって隊内では言われてる。でも、姫様が大変なこんな時に任務を放棄するなんて、もう戻って来られないんじゃないかな……軍法会議に掛けたりしなかった辺り、オゾン中将も情を掛けてはくれたんだろうけど」

「隊内で言われているって、なぜなのか中将から理由を聞いた訳ではないのか?」

「聞けないよ。オゾン中将、ムッツリ黙り込んで、ずっと機嫌悪そうなんだから。『ブィックス少佐はしばらく休暇をとる』って、ただ一言そう俺達全員に告げただけ。あの中将が怒ってるのなんて、初めて見たよ。相当やりあったんじゃないかな。姫様も、一昨日の晩に外部からの侵入者があったとかで、警戒して部屋から出て来なくなっちゃったし……」


 レーンは、窓の外へと目を向ける。

 外壁に面した事務室からは、城壁の外に広がるビューダネスの街が見て取れた。繊細な彫刻が施された街並み。優美な街に渦巻く、疑念の闇。


「俺達は……この国は、これから、どうなってしまうんだろう」


 ルエラは何も返せる言葉がなく、ただ目を伏せただけだった。

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