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第2話 王城への帰還

「姫様、よくぞお帰りになりました……! ご無事で何よりです」


 リム国首都ビューダネス。街の中心に構えるリム城、その執務室にて、ブルザは膝をつき深く頭を下げた。

 部屋にはルエラとブルザの他に、アリー、ディン、フレディ、アーノルド、レーナの五人。


「街の様子は、ご覧になりましたか?」

「ああ。駅からここへ来るまでの間にな。……もし後ろを歩いているのが噂の当人だと知れば、皆、石を投げて来ただろうな。しかし、暴動があったと聞いていたから、予想していたよりは落ち着いたものだった」

「ちょうど、ひと段落ついたところです。今回の暴動は組織的なものではなく、突発的に生じたものでしたから。城内への侵入もなく、多少の重軽傷者や器物の損壊はあったものの、死者はゼロに抑える事が出来ました」

「そうか。ご苦労だったな。誰も死なずに済んだならば、それに越した事はない」


「姫様が留守だった事も、幸いしたのだと思います。もし混乱の中に姫様がお帰りになっていたら、こうはいかなかったでしょう」

「俺が予定をずらしたおかげだな!」

「ディンが暴動の事を知ったのは、レポスに着いた後でしょ」

「当初の目的はどうあれ、予定より遅くなったのが幸いしたのは確かだな……」


 ルエラは机の上で手を組み、真顔で呟く。

 ディンは得意げな顔をして胸を反り返らせていた。


「城内の様子はどうだ? ここまで広まっているんだ。城外だけではあるまい」


 ブルザは真剣な面持ちでうなずく。


「しかし、城の者達は立場がある分、一般市民に比べれば非常に慎重です。過激派一派は、姫様の処刑を主張していますが……おそらくカッセル子爵が裏で糸を引いているのでしょうが、証拠がありません」

「カッセル子爵って、どなたですの?」


 レーナが、隣に座るアリーを突く。アリーは小声で答えた。


「ルエラの義理のお母さんの、お父さん。自分の孫に王様になって欲しいからって、ルエラに意地悪ばかりしてるみたい」


「魔女かどうかを調べる検査を行うと伺いましたが、いったい何をするのでしょうか」


 フレディがブルザに尋ねる。ブルザは低く唸った。


「分からん。ただ、最近私軍に入った者が編み出した方法らしい。その研究成果が認められて、私軍入りしたのだとか」

「研究で編み出した方法ねえ……万一魔女だって判定が出ても、そいつには悪いが何とかなりそうだな。実績はねぇんだろ? あったら、どんな方法だか分かるはずだ」


 ディンは、背もたれに背を預け、足を揺らしながら言う。

 ルエラの目が、スッと鋭くなる。


「……何が言いたい?」

「実績がないなら、例えその方法でルエラが魔女だって結果が出ても、その信憑性は確かとは言えないだろ?」


 レーナがパンと手を叩く。


「なるほど。もし検査で魔女だって結果が出ても、検査自体が失敗だと言い張ってしまえば良いのですわね!」

「でもそれって、もし検査がちゃんとしたものでも、他の魔女にも使えなくなっちゃうんじゃあ……」

「何だ? じゃあ、お前は検査の結果を受け入れて、ルエラに死ねって言うのか?」


 ディンの言葉に、アリーはたじろぐ。


「別に、そう言うつもりじゃ……」

「しかし、その研究者は不当な評価を受ける事になりますよね。大人しく黙っているとは思いませんが……」


 フレディが口を挟む。ルエラはうなずいた。


「黙っていないのは、研究者だけではない。検査の結果を否定したところで、一度魔女だと言う結果が出れば、強まった人々の疑念を消し去る事はできない。事実上は力押しできたとしても、根本的な解決にはならん」

「やっぱり、検査自体をどうにか避ける必要がありそうだね」


 アーノルドが困ったように微笑む。


「結局のところ、検査がどのようなものか分からん限りは、手の打ちようがないか……」


 ルエラはため息を吐く。




 その時、部屋の戸を叩く音がした。

 扉を開け、中に入って来たのは、黒い刈り上げと灰色の瞳、鼻の下に生やした髭が特徴的な、ブルザにも劣らぬ大男。彼はルエラの座る机の前まで進むと、その場に膝をつき頭を垂れた。


「お帰りなさいませ、姫様。ご無事で何よりです」

「オゾン中将。いったいどうしたのだ?」


 北部にいるはずの彼を見て、ルエラは目を丸くして尋ねた。


「ビューダネスでの暴動と姫様について流布されている噂を伺い、姫様が城にお帰りになり次第連絡をするよう、ブルザらに言ってあったのです。姫様の一大事、姫様の護衛隊である第三部隊隊長の私が、留守と言う訳にもいきますまい」


 オゾンは顔を上げ、ルエラを真っ直ぐに見つめる。


「北部の地盤の支えは、北部の軍に引き継いで参りました。陣の効果も、しばらくは私がおらずとも問題ないでしょう。どうか私に、姫様の護衛を任せていただきたい」

「そうだな……良いだろう」


 元々、オゾンの北部行きは臨時の一時的なものだ。本来ならば隊長などと言う立場の者を行かせるべきではないのだろうが、オゾンの得意とする魔法が必要とされていた事と、護衛の対象であるルエラがほとんど城を留守にしている事から、彼が抜擢された。北部の村がオゾンでなくても良い状況になって来たならば、そろそろ正式に城へ戻す事も考えるべきなのかも知れない。


「よろしく頼む、ジェフ・オゾン中将」








 検査の回避方法を考えようにも、肝心の検査がどのようにして行われるかが分からなければ、どうしようもない。

 その場はお開きとなり、ルエラはソルド国から遥々やって来たルメット准将との面会に応じた。


「いやはや、急にお呼びたてして申し訳ない」

「いや、こちらこそ待たせてすまない。シャントーラを基点に、貴国との貿易をとの話だと伺ったが」


「ええ。シャントーラ周辺で採れる魚介類を、ソルド国へと輸出していただきたい。我々の国には、ヨノムサ国から仕入れた鉱石があります。こちらは、それを提供しましょう。リムの加工技術を持ってすれば、十分に付加価値が付けられるでしょう。その他にも木材や石炭など、ソルドの特産品をリストにしてお持ちしました」

「ふむ……検討しよう」

「良いお返事を期待しております」


「ああ。私からも口添えするつもりだ。しかし、シャントーラを基点とするとなると、準備に時間が必要だな……二十九年前の平定から人々の生活には支障がないほどに復興したが、貿易の基点とするには、場所も人も必要だ。

 それから、ソルドとの間には荒野が広がっているが、あそこは天気が崩れやすい。大きな荷を抱えて頻繁に行き来するのは、厳しかろう。リムとレポスの間には、汽車の路線が敷かれている。ソルドとの間も、同じように出来れば良いのだが……」

「なるほど。上に掛け合いましょう。海路だと、リムの都合はいかがですかな?」

「ソルドからなら、ボレリスが適当だろう。隣の町からは、ビューダネスへ直通の汽車も出ている」

「ほう」

「この町は今、大幅な人員の入れ替えと建築物の調査を行っている。貿易に向けて人や建物を用意するのも容易だろう」


 言いながら、ルエラはルメットを伺い見る。


 リム国北部ボレリス。港町であるそこは、ララ達の捕らえられた研究所があった場所だった。

 ルメットは何の反応も見せず、その表情からは何も読み取れない。


 彼はソルドの特産品一覧が書かれた紙の予備を裏返すと、そこに簡単な図を描いた。上にソルド、下にリム。間には、広い荒野。荒野の西は山脈にふさがれ、東には海が広がる。

 ルメットは荒野に線を引き、ソルドからリムへと海を経由する矢印を描いた。


「すると、シャントーラとの間に線路を引き、そちらが整うまでは海路で荷を運ぶ。こう言う事でよろしいですかな?」

「ああ、それが妥当だろうな」




 一通りの話し合いを終え、ルエラ達は護衛と共に部屋を出た。

 城内に与えられた部屋へと戻るルメットを見つめ、ルエラは手元の紙へと視線を落とす。


 ルメットから受け取った、特産品のリスト。その一枚に書かれた貿易経路の簡略図。

 汽車や海路などを示す文字に紛れて、一行の走り書きがあった。


『明朝六時 中庭』


 ルエラは再び視線を上げ、遠ざかる背中を見つめる。

 将官であるルメット自身がわざわざリムまで赴いて、王女であるルエラ自身との面会を希望して、用件は貿易だけではあるまい。護衛のいない場で話があるとなれば、その内容は自ずと予想がつく。


 そしてそれは、ルエラも話したいと思っていた事だ。


 ルエラは踵を返すと、ルメットとは反対の方向へと去って行った。

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