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第8話 運命の分岐路

「えっと……昨日、荷物をひっくり返した時に、レーナさんと私の切符が入れ替わっちゃってたみたいで……。

 あの……今の話は、いったい……? 王女って……レーナさんと……誰が……? リンが……?」


 ガチャリと音がして、隣の部屋の扉が開いた。


「ルエラー、こっち準備終わったよー……って、え!? ユマ!? なんで、ここに!?」


 ユマの目が、みるみると驚愕に見開かれていく。


「ルエラ……それじゃ、そうなの……!? ルエラ王女なの……!?」

「えっ、ちが、あの、違うんだ、ユマ。実は、レーナって呼んでた彼女が、本当はルエラって名前で――」

「無駄ですわ、アリーさん。その前に、私達二人が王女だと言う話を聞いていましたの」


 レーナが静かに話す。懐の財布を取り出すと、切符を確認した。


「本当。ペブルまでの切符になっていますわ。早朝にも関わらずお届けくださり、感謝いたしますわ」


 レーナはユマの手から切符を抜き取り、自分の持っていた切符を差し出す。

 ユマは受け取らず、アリーへと駆け寄ると彼の腕をつかんだ。


「逃げるのよ、アリー! 魔女だわ! アリーも知っているでしょう、リンが――いいえ、ルエラ王女が魔法を使えるって事!」


 アリーは動かない。ユマは、アリーの肩を激しく揺する。


「ねえ、アリー!」

「……知ってる。僕も、一緒に旅をしている皆も……リンがルエラ王女だって事、魔女だって事を、知っているんだ」

「え……?」


 ユマは愕然とした表情で、アリー、ディン、フレディ、アーノルド、そしてレーナを見回す。

 誰も何も言わず、無言でユマを見つめていた。


「嘘……嘘でしょ……? こんなにたくさん、魔女に味方してるなんて……。

 アリー、何を言ってるの? どうしちゃったの? 魔女なのよ? あなたのご両親を殺した、ヴィルマの娘なのよ……!?」

「うん。でも、ルエラは僕達を守ってくれただろ? その後も、何度も彼女に助けられた。彼女も、母親を追ってるんだ。母親としてじゃない。僕と同じく、虐殺事件の犯人として、断罪するために。彼女は他の魔女とは違う」

「何言ってるの……? 相手は魔女なのよ?」


 それから、ハッとしたようにユマは振り返った。ずかずかとレーナへと歩み寄り、彼女の横をすり抜けて部屋へと入る。

 アリー達は、慌ててユマの後を追う。


 ユマは、ルエラの胸倉をつかんでいた。


「あなたね!? あなたが、アリーに魔法で暗示をかけたのね? そうやって、手駒を増やしているのね? 他の人達も、皆、あなたが魔法で操っているのでしょう!

 魔女だからって怯えると思ったら、大間違いよ! アリーを返して! それとも、私を呪う? それでもいいわ。私を殺せばきっと、アリーも目が覚めるでしょうから!」


 グイッとユマの身体が後ろに引っ張られる。

 そして、パァンと言う身のすくむような音が室内に響き渡った。


 ユマは床に転び、叩かれた頬を抑えレーナを見上げていた。レーナは仁王立ちになり、ユマを見下ろしていた。


「あなた、それが助けてくださった方への態度ですの? 残念ですわ。あなたとも、お友達になれそうだと思っていましたのに。

 ルエラさんも、ルエラさんですわ。何を、言われるがままになっていますの? 少しは、反論なさってはどうですの」

「……反論出来る事などない。彼女の恐怖も、怒りも、正当なものだから」


 ユマはキッとレーナを睨み、立ち上がる。


「部外者は口を挟まないで! あなたに何が分かるって言うの!? 私のお母さんは、ヴィルマに殺されたのよ! アリーの両親も、ヴィルマに殺された! この魔女の母親に!」

「それがルエラさんと何の関係があるって言いますの? 彼女も共犯だったとでも? ルエラさんが、そんな事をするとでも?」


「彼女は魔女なのよ!」

「彼女はルエラ・リムと言う、一人の人間ですわ!」


 ユマに負けじと、レーナも叫ぶ。

 ユマはよろめき、傍らにあった丸机に手をついた。


「レーナさんも、魔女に魔法をかけられてるんだわ……皆、操られてる……アリーも……私が、助けなきゃ……目を覚まさせなきゃ……」

「あなた……っ、まだ言いますの!? 目を覚ますのは、あなたの方でしてよ!」


 レーナは手を振りかぶる。ユマは身をすくませる。

 再び激しい音がしたが、叩かれたのはユマではなかった。


「アリー!?」


 ユマが声を上げる。アリーはキッとレーナを睨んだ。


「お前がユマを殴るな」


 レーナは怯み、後ずさる。

 ユマは、ぎゅっと後ろからアリーに抱きついた。ユマの目から、ぽろぽろと雫が落ちる。


「アリー……! 正気に戻ったのね……! 逃げよう……私と一緒に、ペブルへ帰ろう……!」

「……ペブルへは、帰らない」


 回された細い腕をアリーはそっと外し、ユマへと向き直る。


「僕はずっと正気だよ、ユマ。僕も、魔女だと知って最初は彼女を警戒した。でも、彼女は僕を殺そうとはしなかった。自分の母親が起こした事件に、彼女も責任を感じている。だから、ヴィルマを探して旅をしているんだ。旅の中で、僕らはヴィルマに会った。彼女はヴィルマと戦っていた。

 彼女もヴィルマを捕まえようとしている。敵じゃない。悪い魔女じゃないんだ」


 アリーはふいとユマに背を向ける。


「ごめんね、ユマ。もう行かなきゃ。汽車に乗り遅れちゃう。十年前の事件の真相が、もう少しで掴めそうなんだ」


 ユマは、アリーの腕を掴んだ。


「ユマ」

「だ……駄目。レーナさんの切符を見たわ。アリー達、首都へ行こうとしているのでしょう? 今、首都は駄目。それも、ルエラ王女と一緒だなんて。アリー達まで、殺されちゃう」

「ユマ。だから、ルエラはそんな事――」

「ルエラじゃなくて、暴徒と化した民に……だろ?」


 口を挟んだのは、ディンだった。

 ルエラは眉根を寄せる。


「暴徒……? いったい、どういう事だ……?」

「お前が――ルエラ王女が魔女だって噂が、首都ビューダネスを中心に広がってるんだよ。つい数日前には城の前で暴動もあったらしい。

 ほら、うちの城にリムと境の町の領主が来てただろ? あいつが教えてくれたんだ。だから、俺はレポスを出るのを遅れさせようとしてたんだよ。今行くのは危険だと思ったから」

「な……っ。どうして、それをもっと早く言わなかったんだ!?」

「そいつ一人の話じゃ事実か分からなかったからな。それに、どこで誰が聞いてるか分からない。こっちがどこまで情報を掴んでるか、伏せておきたかったから」


 ルエラはコートと荷物をつかむと、部屋を飛び出した。


「あっ、おい、ルエラ!」


 ルエラの後を追い、ディン達も慌てて駆け出す。


「――アリー!」


 ユマに呼び止められ、同じように駆け出そうとしたアリーは一瞬、立ち止まる。


「……ごめん、ユマ。

 バイバイ……もう、待たなくてもいいよ」


 振り返らずに言うと、アリーも仲間達の後を追って駆け出した。

 ユマのすすり泣く声に、後ろ髪を引かれながら。






 宿を出たルエラは、駅前の公衆電話へと駆け込んでいた。かける先は、城内の極秘回線。交換手にルエラ・リムの名を告げ、ブルザを呼び出す。


「姫様! ご無事ですか!?」

「ああ。この通りだ。ビューダネスで暴動があったと聞いた。その様子だと、事実のようだな」

「ええ。暴動は鎮圧しましたが、こちらはまだ不穏な状況が続いています。姫様は今、どちらに?」

「西部だ。そちらへ向かっている途中だ」


「そうですか……こちらへ到着する前に状況を知られたようで、良かったです。状況が状況なので、こちらでは、姫様が魔女ではないと証明するための検査を行おうと言う話が持ち上がっています」

「魔女ではないと証明する検査? いったい、何をするつもりだ? 簀巻きにして川に放り込んで、浮かんで来なければ無実だとでも言うつもりか?」

「詳しいところまでは……。とにかく、回避策を講じなければなりません。今は、こちらへ戻るのはお控えになった方が良いでしょう……と申し上げたいところなのですが、姫様にお客様がいらしています」

「こんな時に客だと? いったい誰だ? 私は城にいないのだから、出直してもらえないか?」

「私も一度はそう申し上げたのですが、遥々ソルドからいらしていて、姫様がお戻りになられるまで待つと……」


 ルエラは息をのむ。


「ソルドだと……!? 名前は?」

「ルメットと名乗っておりました。ソルド軍の准将のようです」


 ルエラは受話器を握りしめる。


 これは、偶然だろうか?

 リム国内で突如として広まった噂。煽られるように生じた暴動。不穏な状況のビューダネスへ呼び寄せるように、城を訪れたルエラへの客。

 そして、ハブナで出会ったジェラルドの言葉。


 ――ララ達の生存を知る者の中に、ラウとの内通者がいる。


「分かった。直ぐに戻る。……ルメット准将は、目を離さず、手厚く迎えるよう」


 それだけで、ブルザはルエラの意図が通じたようだった。


「承知しました。『案内の者』を、増やしましょう」




 電話を終え、受話器を置き振り返ると、そこには仲間達の姿があった。


「……お城へ、戻るんだね」


 アリーの言葉に、ルエラはうなずく。


「アリー。お前は……」

「もちろん、一緒に行くよ。さっきは、ユマがごめん。

 ルエラは悪い魔女じゃない。それを、ユマも知ってるはずだ。今は混乱しているけど、きっと、分かってくれると思うから……だから……」

「大丈夫だ。ユマを恨む気もなければ、彼女の言葉で傷ついてもいない。彼女の反応は、当然のものだ。

 むしろ、私の方こそすまない。私のせいで、ユマとの関係に亀裂が入ってしまった……。もし、お前が私に気を使ってるようなら――」

「何、言ってるんだよ。僕は、僕の意志で、ルエラと一緒に行くって決めたんだ。僕が、そばにいたいんだ」


 アリーは、ルエラの手を引く。


「さあ、行こう。首都ビューダネスへ!」

「――ああ!」


 ルエラは強くうなずくと、仲間達と共に、駅へと駆け込んで行く。

 東の空には太陽が昇り、夜明けの町を紅く染め上げていた。

-Fin-

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