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三十八世

引き籠りニートの僕は、蹂躙ループに入っている事をすぐに理解した。

いつからか僕は、ミサンガを見れば記憶を思い出せるようになっていた。


以来、死ぬまであらゆるリンチにかけられるが、僕の心は折られる事は無かった。

それどころか僕は彼女を憐れむ事すらできる余裕を持てるようになっている。

一つ前では、拷問されながらも、積極的に話しかけたり、元の世界の事を聞いたりした。


しかし、今回はまるで勝手が違う。どうやら地下室のようだがほぼ真っ暗だ。

そして、そのミサンガは見るや否や切れて、地面に落ちていた。


僕はそれを拾って、暗がりの中手首に巻こうとするがうまくいかない。



「わたしがあなたを呼んだ。」

いつもの少女は、地下室の部屋の松明に火を灯しながら呟いた。


「僕を召還する王家はどうしたんだい?」

黒くない彼女の肌と今の状況に驚きを隠せずに、僕も尋ねる。

はじめて素顔がまともに見える。所謂可愛い系の顔で、アニメ顔の童顔である。

以前の僕なら、好みのタイプと思っていたところだろう。


「生きてる。」

「そうか、魔王をやらなかったのか。」

「うん。たまには。」


ポツリポツリと僕らは言葉を重ねる。


「今回は、何で遊ぶのかな?たまには痛い遊びじゃなくて、スマホのゲームでも一緒にやらない?」

それを見た僕は不思議に思いつつも思い切って提案する。


「いいよ。」

正直、彼女の返事は意外だった。


僕らは二人で交互にタワーディフェンスをやって、スコアを競い合り、1機交代でシューティングをしたりして遊んだ。



「ねぇ、テルはわたしが憎くないの?」

一息ついたところで少女は僕に尋ねてきた。


「君にも事情があるんだろう。まだ子供だからね。元の世界なら、少年院ってところに送られる年だよ。どんな事をしてもね。」


「少年院?」


「ちょっと厳しい学校のようなところ、社会復帰できるようになるための準備をする所。」


「行ってみたいかも。」

彼女はボツリと言った。


「本当に厳しいところだと思うけど、それじゃ、帰ろうか?」

とたずねると彼女は首を横に振る。


「召還完了条件を満たせそうにないの。」

顔が諦めた表情になる。意外だった。こんなに力がありながら、満たせない条件とは何だろうか?



聞くか迷い、少し間が空く。

「どんな条件なの?」


「愛する人を見つけて、その人と幸せに一生を暮らす事。」

乾いた声で彼女は呟いた。


それを聞いて僕は、召還者の事を想像した。

「召還対象の絞込対象は、親の愛を知らない女の子だった。」


「多分、400年ぐらいこの世界にいる。」

この話を聞くのは初めてなのだろうか?

彼女は続けた。


「わたしを召還した人は、年寄りの魔法使いだった。

どうしてこんな召還をしたのかは分からない。

でも、わたしが召還される時には、もう年で死んでたし、その家も他の人が住んでた。」


「まだ6歳だったわたしは、わけが分からなくて逃げ出したりして、外で凍え死んだり、森で動物に食べられたりしてた。。その家の人に拾われた時もあったけど、言葉も分からないし、その家の子供たちに苛められたり、家の主人にこき使われてた。」


「テルと違ってわたしは完璧に記憶を引き継ぐから、魔法を覚えればいいと気がついた。

そこからは力があれば、なんでもなると分かった。

そして、わたしはわたしを酷い目に合わせた人達に、仕返しをした。

それからは戦争のような日々。わたしを逮捕しようとして、冒険者のパーティを送ってきたり、騎士団を送りこんできたり。

そう、わたしはどうせ愛を知らない子。」


「軽く500回は死んでると思うけど、わたしも召還魔法を覚えた。忠実な魔族や魔物を沢山召還した。魔王と恐れられるようになった。魔王になってから、何度か殺されたけど、わたしはどんどん強力になっていった。」


「わたしはこの世界の人と一緒に生きていると思えない。」

「繰り返され、忘れられてしまう。」



僕は、彼女を言葉を聞いて、リィシアの事を思い出す。魔王がいない世界でリィシアはどうしてるのだろうか?


左手に掴んだままの切れたミサンガの事を考え、一つの結論にたどり着く。きっと、この世界にあるべき幸せを見つけたんだろう。悲しみと嬉しさが入り混じった気持ちが沸きあがる。


「そうだね。繰り返し、忘れられてしまう。同じ時を生きるって大事だと思う。」

僕は彼女の先の言葉に同意する。きっと彼女は彼女で別の事を思って言った言葉だったのだろう。



長い空白の時間が流れ、僕が沈黙を破る。

「これからどうするの?」


「決まってない。」

彼女は、こちらを振り向かずに答えた。


「ついてくる?」

僕も深く考えたわけではなかったが、口からぽろっと言葉がこぼれる。


「うん。」

彼女は小さく頷いて、立ち上がり、僕らは地下室を出て、日の光の一緒に浴びた。


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