二十四世
魔王の口調が安定しません。
引き籠りニートの僕は、異世界に召還された事をすぐに理解した。
ぺちゃぺちゃ。戸の外から何かが近づいてきてる音が聞こえる。
なんだか忘れている事が沢山ある気がする。
ドガン!
ゾンビのように皮膚が爛れ落ちた四足の獣は、俺を見る否や襲い掛かってきた。
その牙は、僕の喉元を。。。
ではなく、ポケットを破り、落ちたスマホを咥えて部屋から飛び出していった。
盛大に尿を漏らし、心臓がバクバクしていて、呼吸が安定しない。
足腰が震え、動く事も全くままならない。
ど、どうしたのか?
また先ほどのゾンビの獣が戻ってきた。スマホは口に無いが、召還の部屋の戸の前で寝そべっている。
まるで僕など居ないかのように、腹をこちらに向けている。
気持ち悪いし、臭い。。そんなところで寝ないでくれ。。
しばらく床で動かずに様子を見ていたが、獣の目は完全に閉じられていたので、そーと通りぬけようとする。
ガァアアアアアア!
僕は、突然動き、繰り出された威嚇の前に再び腰が抜けてしまった。
どうやら軟禁されているようだ。
それからまた数時間ぐらい経過した頃だろう。
窓から黒髪黒肌の少女がするっと部屋に入ってきた。
え?あれ?どこかでこの顔。。。
「あれ、ひょっとしてお前記憶がないのか?」
少女は、初対面としてはありえない事を聞いてくる。
ん、ああ?日本語通じるのかここ。
なんだこの子は、日本人どころか黒人の黒っていう肌の色でもないぞ、これ。
真っ黒そのものだ。
「何が起こってるのかわかってるなら教えてくれ、頼む。」
何がなんだかチンプンカンプンな僕は、彼女に率直に尋ねる。
この少女は、状況を理解しているようだ。
「なるほどなー。それでこのスマホを記憶の代わりにしてループしてきたわけだ。
前も言ったけど、お絵かき魔方陣のコピーで魔法を発動させるなんて良く考えたよなー。」
全く僕の問いかけに答えていないし、彼女の言ってる事も分からない。
「ちょうど私がいないはずの期間だったとは言え、よくここから逃げ出したよね。それから誰かこっちの人に魔方陣の理論を教わったんだろうけど。まぁループとこのチートスマホがあれば誰でもできる事ね。途中で頭がおかしくならなければね!」
あれ、うん?なんか聞いた話のような。。
「おや、思い出してる?おい、答えろぉ。聞き覚えがあるのな?」
彼女はそう言うと、ゾンビの獣が俺の背中を舌で舐めた。
「ひぃ、は、はい。あります。聞いたことがあるような気がしますが、詳しい事は分かりません。き、記憶喪失なのでしょうか?」
びびって僕の声が上ずる。
「なるほどぉー。記憶は一部持ち越されているのね。後でスマホの記録を見れば分かるよね!きみ面白いよー?体質が面白いってことね!」
頭をナデられながら、ハイテンションに行く少女。
「でもさー折角切り札を奪ったのに、記憶が飛んでるのつまらないー。」
またしても僕の問いかけは完全にスルーされ、一方的に独り事を聞かされる。銀行強盗の人質になったりするとこんな独り事を聞かされるような状況になるんだろうか?
ポンと握った手を開いた手に乗せ叩きながら、少女は言った。
「うん、ちょっと刺激を与えてみよう。思い出すかもしれない。」
僕は、少女に軽々と首を掴まれて、窓から突き落とされる。
下には、ドラゴンが待機しており、その口の中に僕はすっぽり落ちて行った。
皮膚が熱い。熱い。熱い。痒い痒い痒い。
カキタイ、カキタイ。でも腕が動かない。
半ば意識の無い状態で、ねばねばした液体のプールから放り出され、僕は床を転がった。
目を開けるとドラゴンがいた。どうやら口の中に入れられて、運ばれてきたようだ。
それよりも全身が熱い、痛い、痒い。
目を体に向けると、全身の皮膚がぐちょぐちょドロドロになっていた。
辛うじて動いた右腕でゆっくり左腕の皮膚を触ると、ずるっと皮膚がむけていった。
「あががああああ!」
言葉にしたはずなのだが、舌がまわらない。
「ありゃ、もうそんなにびびっちゃうの?救世主君。痒そうね、手伝ってあげるよ。」
先ほどの黒い少女は、僕の顔に手を伸ばし、皮膚を引っ張った。
「うん、もうゾンビと変わらないね。全面鏡の部屋に連れて行ってあげるから、自分の姿をよく見るといいよ。」
彼女がそう言うとオークのような亜人が僕を軽々と抱え、ドスンドスンと歩き始める。
「ほら、着いたよ、君の部屋ね。」
そこの鏡の中には、確かにゾンビと変わらない姿の僕が居た。
恐怖を通り越して、涙が溢れる。
「ゾンビか、被召還者をゾンビにするとどうなるんだろう?ループすると思う?
あ、いや、一回死ぬ事になるからループしちゃうか。あー、残念だなぁ。」
僕の耳は、少女を言う事を一切聞いていない。部屋の中央にある様々な拷問用の道具を眺めている。
「記憶が戻るまでさ、このオークが相手をしてくれるからさ。記憶が戻ったら、私が直接してあげる。
それまで、死なないようにー!あ、少し生命力が上がる魔法かけておこか。」
少女は、その細い中指になにやら光を集め、僕にデコピンにかまして、ニコニコして去っていった。
それから僕は本当の生き地獄を知った。
それからたぶん数日後。もう時間なんて全く分からないが、少女が戻ってきた。
「うーん、中々思い出さないね。でも楽しかったよ!?スマホすごく面白いね!魔方陣もいいけど、ゲームもやらせてもらっちゃった。久しぶりー!」
ニコニコしながらそんな事言う少女は、肌が黒い事を除けば、年相応の振る舞いと思われる。
「でも、もうね、バッテリーが無くちゃっうの。暇だからもう一回やろ?」
「バイバイ、このテル君。」
少女はスマホに右手をかざし、僕に向けて二つの魔方陣を発動した。
「バックバン!パーフェクトケージ!」
最後に僕が見た物は、はじける手首と一緒に宙を舞うミサンガだった。




