三話
さぁて、魔王を殺すは別にして、探しにいっとこかなー。
捕まえていつでも殺せるようにしておいたほうがいいだろうしね!
俺は、この魔王自体はたいした事ないんでないかと思ってる。
強かったら、魔族なんて召還せずに世界を滅ぼしてるだろう。
今の俺がそれが簡単にできるように。
召還魔法の理論がわからんから俺には呼び出せないけど、あんな弱いのいらんね。うん。
そんな事を考えながら、城の上空で魔王をおびき出す方法を考える。
おや、人?いや、半獣人か!?
森を抜けて、廃墟と化した城に近づく女を上空から見つけた。
あーこの顔は、、、
名前なんだっけか。思い出せない。
とにかく先代の女やね。
うーん、どうしよかなー。
仲良くなっても行動の邪魔かなぁ。
あ、でも綺麗な人だなぁ。好みじゃないけど。
死なれると後味悪いから、安全なところに引き返せとけ言っとくか。
スマホを取り出し、心話の魔法を発動させてから、翼を滑降用に伸ばし、先代の女の前に降り立つ。。
「あ、え、あ、あなたは、救世主様・・・?」
半獣人の女は、突然降り立った光輝く翼の生えた僕を見て、半ば自問した。
「うん、そうだよ。救世主って奴。世界は半分滅びちゃってるみたいだけどね。ちょっと遅かってとこ?君、名前は?」
気が大きくなってる俺は、明らかに上から口調で流暢に話しを進める。
当然だが、向こうの記憶も戻っているらしい。
「え、や、やっぱり!はい、人族と獣人のクォーターのリィシアと申します。」
こんな期待と尊敬のまなざしを受けたのは今まで初めてだ。しかもこんな美人に。
うーん、こういうのも悪くないな。
「うぅ、うぐぐ。」
リィシア。。ああ、そうだ。リィシアだった。記憶が戻りそうで戻らない。こういう時は頭痛が酷い。
「きゅ、救世主様、大丈夫ですか?」
心から心配している目。うん、先代が落ちるのもうなずけるな。
でも俺は結婚なんてしないし、一つの場所や人に留まる意味なんてもはや理解不能だ。
「大丈夫だ、問題ない。リィシアか、いい名前だね。」
この女が欲しい。だが俺は救世主様である。強引に行くわけにもいかないし、初見で脱げと言ってもさすがに脱がないだろう。新興宗教の創始者が女信者にセクハラをする事が往々にしてあるらしいが、その気持ちがわかってしまった。それだ、その手法を真似させてもらおう!
「まだ覚醒したばかりでな。まだ力を完全に出し切れていないのだ。」
口からでまかせである。しかも口調が変わっている事を自覚した。
「左様でございましたか。何かわたくしめで役に立てる事があれば、なんなりとお申し付けくださいませ。」
リィシアは、膝を折って、顔面を下げたまま話すようになっていた。
救世主様の御前にして、恐れ多いといったところだろう。
そして、このフラグ発言。キタコレ!
「そうか、救世主を信じる者の愛がわが力の源でな。そちの愛、われに示してもらいたい。」
口調も突然変わって、色々不自然だ。心話で話してるからその辺は大丈夫なのか?魔法ないか。。チャームみたいの無かったなー。くそー先代のあほ。
「えっ、あ、あの。」
リィシアはそれだけ言って、間を空けてしまう。
「し、失礼ですが、その前に、神々しい翼以外に救世主様であられる証拠をお見せ頂けませんでしょうか?も、もちろん、お見せ頂ければ、その、あの、わたくしめで役に立てる事があれば、なんでも致しますので。」
あー疑ってるなー。どーしよ。めんどせー。
やむ得ずスマホを取り出し、右手をスマホを上にかざす。
「あ、あれ、それ。。。や、やだ。うそ?」
スマホを見て、戸惑っている。。はじめてみたっていう顔じゃないぞ、これ。
「て、テル?テルなの?あれ、わたしは、まだ生きてる?って。あれあれ?」
うわー、記憶が戻りやがった。オワコン。
大体、なんで顔見て思い出さないで、スマホ見て思い出すんだよ。
最初から思い出してれば、正攻法で行ったのに。
もういいや、押し倒しちまえ。リィシアに向けて、麻痺と沈黙の魔方陣を発動する。
「きゃあああああ、どうして?そんな怖い顔して、嫌、テル。目を覚まして!こ、こんな事をしなくても私たちは!」
「これがお前の惚れたテルの本性だよ!」
自分に言い聞かせながら、リィシアの服を破き、自分のズボンも脱いでいく。
「違う!違う!こんなのテルじゃない!救世主様でもない!魔王よ!そうよ、あなたが魔王よ!魔王が化けているんだわ!」
(君は君で、僕ではない。)
リィシア先代との同一性を否定された瞬間、先代の言葉が記憶に戻り、再び頭痛が襲う。
(さぁ、行け。願いを叶えるのだ。)
願い?この性欲が願いなのか。
ああ、そうさ!これがそうだ。何が悪い?
僕は願いを叶えるんだ!
(最後に、僕らの最大の敵は、タイガーゾンビでもこの世界でもない。僕ら自身の心の闘いである。)
*ループの章「六世」より
くそ、老いぼれの分際で説教かよ。。
やっと力を手にしたんだぜ?イジメられる事なんてもちろんもうない。誰に頭を下げる事もなく、尊敬されて、他人の頭下げさせて生きてかれるんだ。今までの分しっかりエンジョイしようぜ?
頭痛で地面で悶える僕を、リィシアは憐れみの眼差しで見下ろし、キッパリと言い放った。
「私の知ってるテルは、弱かったけども、誰かに苛められる事も頭を下げさせられる事も無く、私にたっぷり尊敬されて一生を終える事ができたと思います。」
「そ、それはあんたがいたからだろが!?俺にはいない!」
「いえ、あなたにもテルと同じ事ができたはずです。私には分かります。先ほどの発言を修正します。あなたは、間違いなくテルです。」
「これは、世界繰り返しの儀ですよね?
テルがあなたにスマホという物で何を伝えたのか聞いていませんが、私から見ればあなたはテルそのものです。」
「先代は、『君は君であって、僕ではない』と書き残した。」
僕はポツリと言った。
「そう。。先代のテルからすれば、きっとそうだったのでしょうね。」
はだけた上半身を腕で庇いながら、リィシアは遠くを見つめている。
「世界が何度繰り返そうが、私たちはこの世界の今を生きています。私たちは別の世界のテルに会いにいけるわけでも、何かを伝えられるわけでもありません。だから、私からすればあなたは唯一の私のテルです。」
「リィシア・・・」
そう力なく呟き、僕はただただ泣いた。




